10. 崖っぷちクラン

10. 崖っぷちクラン




 見渡す限りの樹木。私は今、王都から南にある大森林にルシルと共に来ている。遊びにきているわけじゃない、もちろんギルドの素材採取の依頼だ。


「えっと、あっちかな?」


 私は森の奥へと足を進めた。今日は、この辺りで依頼をこなしていこうと思っている。もっと奥に行けば凶悪な魔物もいるし、この辺りの魔物なら私の罠魔法やルシルの神聖魔法でも倒せるだろう。


 ん?なんで2人で依頼をしてるかって?それにはやんごとなき理由がある。


「ありがとうねルシル。一緒に来てくれて」


「え?いや……その、ボクもお仕事しないといけないですから……」


「そうなのよ。それを本当にあの2人に言ってほしいわ……」


 そう。私はもちろんキルマリアとリーゼも誘ったのだ。でもキルマリアは『素材集めじゃ面白くないじゃん?』リーゼは『魔物倒せないなら私いかない!』と断られてしまった。別にいいけどさぁ……。


「あの……ごめんなさい」


「いや、ルシルが謝ることじゃないよ」


「でも……」


 この子はなんでこんなにおどおどしてるのかしら。私は気を取り直して、森の中を歩き始めた。ルシルも私の後ろにピッタリくっついて歩いてくる。その姿は可愛い。まぁ男の娘なんだけど。


 そのあと依頼物を採集し、ギルドに戻り報告を済ませ『妖精の隠れ家』に帰ろうとしていると声をかけられる。


「あっちゃんと仕事してるのね。えらいえらい。エステルちゃん。ルシルちゃん。お疲れ様。」


「あれアリシアさん?」


「あっマスターお疲れ様です」


 ギルドにいるのはすごく珍しいんだけど?なんかあったのかな?


「どうしたんですか?ギルドに来るなんて?」


「うん。ちょっと話があってね。よかったらご飯食べながら話をしない?私が奢るわよ?」


「はい。ルシルもいいわよね?」


「あっはい」


 私たちはアリシアさんの案内のもと、食堂へ向かった。そしてアリシアさんは話始める。


「実は。今日はギルドのクラン定期会があってね。私たちの『妖精の隠れ家』の先月の実績が出たのよ。」


 王都のギルドに認められたクランは6つほどある。『妖精の隠れ家』もその一つだけど、他の5つのクランに比べて実績は少ないらしい。


「それでうちの評価が低いみたいなのよねぇ……酒場の経営もよくないしね」


 アリシアさんはため息をつく。まぁ確かに『妖精の隠れ家』はあまり高難易度の依頼を受けていないからね。しかも拠点が貧民街にあるため、酒場の経営もよくないのは事実だ。


「このままだとクラン解消されちゃうかもしれないのよ……まさに崖っぷち。ふふっ」


 なんでアリシアさんは笑ってるのかわからないけど、それは困る。というかせっかく私のこと拾ってくれたのに、ここで追い出されたら路頭に迷ってしまう。いきなり大ピンチなんだけど……。


「えっと……とりあえず何をすればいいですか?」


「えぇーっと……そうね。まずはお店の売り上げを上げる方法を考えてほしいの。」


 それから私たち『妖精の隠れ家』に戻り作戦会議をした。しかし特にいい案は浮かばず、この日は解散となった。


「ふぅ……どうしようかしら」


 私はベッドの上で考える。売り上げアップのための案を考えるものの、これといったアイデアが思いつかない。


 そもそも貧民街にあるし、ロザリーさんには悪いけど料理が美味しくない。看板メニューもないので来る理由もない。正直お客さんを増やすのは難しいと言わざるを得ない。とりあえず何も考えが浮かばずそのまま寝ることにした。


 次の日。私はあることをアリシアさんに提案することにする。


「あの……酒場の集客をあげるより、より高難易度の依頼を受けたほうがいいと思うんですよ。例えばダンジョン攻略とか?」


「そうね……。今までは避けてきたけど、エステルちゃんのジョブが『スカウト』だからそれもいいかもね」


 私にできること。それは仲間のサポートだ。『スカウト』のスキルがあればダンジョンのマッピングや仕掛けられた罠の解除、魔物の索敵、宝箱や扉の開錠などができる。もちろんアイテムでのサポートだって問題ない。



「じゃあ。エステルちゃんに任せるわ。」


「わかりました」


 私は早速、キルマリアとリーゼ、ルシルを誘ってギルドに向かうことにする。みんなは初めてのダンジョン攻略らしいから私がしっかりしないと。ダンジョンは危険だから。何が起きるかわからないし、手練れの冒険者だって死ぬこともある。


「じゃあみんなダンジョン攻略して、功績をあげて『妖精の隠れ家』を存続させるわよ!」


「「「おー!」」」


 3人は私の言葉に従いついてくる。油断は禁物。気を引き締めていこう!こうして私は初めてのダンジョン攻略に挑むことになるのだった。

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