6. 意外と脆いんだよ?

6. 意外と脆いんだよ?




 時間は早朝。私が寝ていると突然、それはやってきた。大きな轟音と共に私の部屋の扉はぶち抜かれ、その音で飛び起きる。


「ふえ!?」


 そして私は見てしまったのだ。破壊された扉の向こうに、あの水色の破壊魔を。


「おはよう!エステルちゃん!ごめんなさい扉壊しちゃった。」


「……リーゼ。朝から元気ね。私に何か用なのかな?それとも嫌がらせ?」


「いやいやそんなんじゃないよー。今日は私とお仕事してほしくてさ!ほらほら着替えて準備して!」


 あー。この前は『妖精の隠れ家』の入り口の扉を直してたからリーゼはいなかったもんね。……でも私の部屋の扉も直してほしいんだけどさ。


「わかったわ。ちょっと待っててね。」


「うん!早くしないと置いてっちゃうぞ〜!それと色々触って壊しちゃうぞ~!」


 ……本当に壊されそうなので急ぐことにしよう。そのまま着替えて店の入り口に向かう。リーゼと合流するとロザリーさんが声をかけてくる。


「あっ2人とも!待つなの!」


「どうしたんですかロザリーさん?」


「これ。お弁当なの!サンドイッチ食べるなの!」


「え~!ロザリーちゃんのサンドイッチ辛いからいらないよ~!」


 サンドイッチが辛いのか……つくづくこの人の料理は訳がわからない。でもまぁせっかく作ってくれたんだから食べないとだよね……。そこにゲイルさんがやってくる。


「おお。子供は元気でいいな。こんな朝早くからご苦労なことだ。」


「あの……私は21です。子供じゃありません」


「おいエステル。オレからしたらお前はまだガキだ。」


 むっ。確かにゲイルさんからしたら子供かもしれないけど、年齢的には大人だ。まったく失礼なおじさんだよこの人。


「おっとすまん。そういう意味で言ったわけじゃない。ただオレからすればお前らはまだまだ若いってことさ。」


「もう!それどういう意味ですか!?」


 何だろう。ゲイルさんの言い方だと嫌味とかには聞こえないしむしろ励ましてくれてる感じがする。なんというか……大人の余裕を感じるっていうのかな?とりあえず悪い気はしないかも。


「あっそうだ!ゲイル君。一緒に仕事しよう!暇でしょ?」


「ああ?暇じゃねぇよ。まぁでもリーゼ、お前が動くなら一緒に行ってやってもいい。報酬は山分けだがな?」


 せこい……さっきの私の気持ちを返してほしいのだけどさ。


「いいよいいよ!それじゃ出発進行!」


「あっリーゼ!引っ張らないで!あなたに引っ張られると怖いから!」


 こうして私はリーゼに引きずられながらゲイルさんと共にギルドに向かうことになった。


 そしてギルドに着きクエストボードの前で依頼を確認していると最悪なやつらが声をかけてくる。


「ん?誰かと思えば時代遅れの『スカウト』のエステルじゃねぇか?どうした?おままごとでもしてるのか?」


「グラン……」


「ねぇエステルちゃん。誰この弱そうなやつ?」


「なんだこのガキ?泣かされないうちにどっかに行け。ったくエステル。お前しょうもないやつだな?そんなガキ、ギルドに連れてくるんじゃねぇよ?」


 グランは私にそう言い放つと後ろにいた元仲間たちが笑い始める。くそ……なんで私を追放したあともここまで言われないといけないのよ。いい加減ムカついてきたわ。私が反論しようとした瞬間ゲイルさんが私を止める。


「おいエステル。やめとけ。そんなやつに構ってても報酬は手に入らんぞ。ほらどけ。この依頼でいいな?」


「なんだおっさん邪魔すんな!」


 グランが掴みかかろうとするがゲイルさんは素早い動きでその手を避ける。そしてその依頼書を私に渡す


「ほら、受付してこい。」


「あっ……はい。」


「おい!無視すんじゃねぇよ!」


「うるせぇぞ小僧。お前が何を言おうがオレにとっては小鳥のさえずり程度にしか感じねぇよ?とっととどっかにいけ。死にたくないならな」


 グランの言葉に対してゲイルさんは冷たい言葉で返す。その言葉を聞いたグランの顔つきが変わる。


「てめぇ!調子に乗ってるとぶっ殺……」


 そのグランの言葉を遮るように視界の下から幼き小さな手がグランの顔を掴む。そしてギリギリと音が聞こえるほど強い力で握り潰そうとする。


「ねぇ。それ以上喋ったら殺すよ?」


「うぐぐっ!」


「ねぇ知ってる?人間の頭蓋骨って意外と脆いんだよ?」


 そして更に力を込めていく。さすがに限界なのかグランが大声で叫ぶ


「いででで!!わかった!わかったから!」


「そうなの?あーよかった!許してあげる!」


 リーゼが手を離すとグランはそのまま地面に尻餅をつく。顔からは少し血が流れ、口からは失神寸前だったのか泡を吹いており涙目になっている。


「お、覚えてろよ!!」


 グラン達は捨て台詞を残して去っていった。その姿を見た周りの冒険者達はその光景を見て笑っている。


「あの……すみませんでした」


「エステルちゃんは悪くないんだから気にしないで!もしまた来たら次は頭蓋骨を砕いてあげるからさ!」


 ……本当にやりそうで怖い。リーゼには近づけないようにしないと……。


「それより依頼受けたのかよ?」


「はい。フォレストベアの討伐ですよね。受けました。」


「じゃあ行くぞ?ってて……さっきので腰痛めたぞエステル。お前の報酬減額な慰謝料でオレが少し多く貰う」


「え~ひどい!エステルちゃん可哀想!ゲイル君の鬼畜ぅ!」


 何言ってるのこの人は……。でもまぁゲイルさんのおかげでグラン達に絡まれずに済んだし、それに……ちょっとだけ感謝してあげなくもないかな。


 私はそう思いながらゲイルさんとリーゼの背中を追ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る