恋の音が響く時、何を想ふ

星クロ

約束

「ねぇ、もしも私が居なくなったら、マサトはどうする?」


「そうだなぁ…そりゃ悲しいよ?

けど、きっとユミが居なくなっても、もうオレは生きて行ける」


「なぁーんだ、もう一緒に逝こうって言ってくれなくなったんだね」


満面の笑みで、明るい声色でそう言うユミを抱きしめた。


「ごめんね、もうユミと一緒に逝けないんだ

もう死にたくなくなったから…

初めて生きたいと思ったから…

ごめんね…」


「ううん、いいの…最初から私のわがままだったのは知ってるから」


今にも消えてしまいそうで、この世から今すぐでも居なくなりそうで、それでもそんなユミが放っておけなくて強く抱きしめた。

それは、同情でもなく憐れみでもなかった。

心の底からの謝罪の意と感謝からだった。



10年以上前からの約束を今日破ってしまったから…





まだ幼かった自分は、自分が異常だと気が付かなかった。

気がつかなかったのでは無く、ただ認めなくなかっただけなのかもしれない…


自分を偽ってる事、心を押し殺し隠していきいる事を悟られぬ様に生きてきた。

他の人達とは、同じ感情を持つことができてなかった事を信じたくなかった。

特別仲が良かったわけでも無く、顔見知り程度の、ユミとの繋がりができた。

とてもとても、深い繋がりが…




図書室のいつもの端の席。

誰も居ない図書室のこの空間が、心を休める事ができる場所だった。

唯一何も考えずに好きな本を読む事が、いつもの日課だった。

そんな時、いきなり声をかけてきたユミ。


「ねぇねぇ、何の本読んでるの?」


「ん?狭き門」


「面白い?」


「どーだろ難しいよ?けどオレは好き」


「どんな話?」

なんで急に気になるのか、わからなかったが

適当に流そうとした。


「うーん簡単に言うと自己犠牲の話」


「へーー自己犠牲って素晴らしいよね」

小さな声で、笑顔でそう言い放ったユミは少しだけ怖かった。


「この本知ってるの?」


なにも悟られなように、否定もせず、肯定もしなかった。


「いいえ?知らないわ?どうして?」


「いや…なんていうか…」


ユミの笑顔が崩れない事に、恐ろしさは増すばかりだった。

ユミに対しての恐怖と、自分の心の内がバレるのじゃないかと言う恐怖が同時に襲いかかってきた。


「意外と気が合うのもしれないわね」


「えっ…」

複雑な心情で、思うように声がだせなかった。

きっと本の内容なんてどうでもよくて、ただ何かのきっさけに、すぎなかったのだろう。


「だって私、少しだけマサトの心の中が見えちゃった」

とても嬉しそうに話すユミ。


「あの日、マサトも俯いたまま泣いてるフリしてたでしょ?」

心臓の音がうるさすぎて、おかしくなりそうだった。


「な、なんのこと…?」

頼むからこれ以上は何も言わないでくれ!

そう願うも、ユミの笑顔は崩れなかった…


「それに、少し笑ってた」

全てが崩れ落ちる音がした。


真っ直ぐ自分の目を見つめていた。

その瞳に吸い込まれそうで

とても深い部分を覗かれている気がした。

そのままユミは続けた。



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