3話 靴磨きの魔王 第2形態 

◇◇◇



「へぇ。じゃあ、お客サンは魔王軍に居たわけですかい」

「おいおい、声を抑えてくれよ。元魔王軍は肩身が狭いんだ」

「これは失礼。しかし、アンタだって魔王エイジの被害者なんでしょ?」

「そうとも、その通りだ。分かってるじゃねぇか。俺たちはアイツの口車に乗せられたんだ」

「口車に?」

「あぁ。奴は言ったのさ。独裁を敷く皇帝に一泡吹かせられる方法があるってな。それで、一部の転生者が言う「民主主義」が手に入るってよ」

「それで、結果は?」

「支配者が皇帝から魔王に代わっただけさ。色んな国と繰り返し戦争をさせられた分、魔王の方がよっぽど悪辣で暴君だったよ」

「本当に魔王エイジってのはロクでもないっすね。……っと。出来上がり。今回は過酷な目にあったお客サンのため、幸運の花を使った特殊な磨き方にしときましたぜ」

「おお!そりゃあ、良いな!けど、料金が変わったりは……」

「勿論、しませんって。これは俺からのサービスっす。「今回」は貴方に幸多からんことをってね」

「へへ、サンキュな。ほらよ、4ゼスだ。また頼むわ」

「お待ちしておりますぜ!」



◇◇◇



「魔王の目的?さて、何だったんだろうね」

「やっぱり不明なわけですかい」

「うん。……ただ」

「ただ?」

「僕から見て、アイツは戦争を好んでいたように見えた」

「戦争を好む?」

「別に直接話をしたわけじゃない。けどさ、次から次へと戦争を繰り返したんだよ?魔王が血を求め続けてるって僕は思ったね」

「ひぇえ。そいつは恐ろしい。魔王という名前に偽りなしですねい」



◇◇◇



「魔王の剣技、ですかい?」

「うむ。私は魔王の剣の技量があまり話題になっていないのが不思議でならない」

「剣士サマから見て、それだけ凄まじいものだったんですかね?」

「あぁ。あれは剣だけに生きてきたと言われても納得のいく領域にあった。少なくとも、人魔王はな」

「少なくとも?」

「エイクやビクトなどの人と会話しても同意が得られんのだ」

「逃げるのが上手かったって話ですかい?」

「いや、人魔王も撤退戦こそが最大の強みではあった。しかし、それとは別に剣技も凄まじかったという話なのだ」

「そこまで言う程なら、確かに。エイクやビクトで話題にならないのは変ですね」

「カルツ以外では、剣よりも魔術の器用さが話題になるらしい」

「不思議な話ですねぇ」



◇◇◇



「オルトヌス?あぁ、アイツかぁ」

「おや?あんまり良い印象じゃない感じですね?同郷の英雄じゃないんですかい?」

「英雄?オルトヌスが?馬鹿言うな」

「しかし、魔王討伐に一役買ったわけでしょ?」

「それは全部、勇者の功績だよ。オルトヌスは最初に魔王に敗北してから、ずっと魔王軍に負けっぱなしさ」

「なるほど、それじゃあ英雄とは呼べませんねぇ」

「全くだぜ」

「今はどうしてるんです?」

「知らねぇなぁ。軍で居場所がなくなって、どっかに雲隠れしちまったとは聞いたが」



◇◇◇



「あぁ、オルトヌスね。負け続けた軍師ってことで信用は地に落ちたからなぁ。アイツは自分から軍を去ったんだ。今頃、どうしてんのかねぇ」

「軍人さんも知らないんですかい?」

「全くさ。知らねぇ仲じゃなかったし、心配はしてるんだ。もしも、お前さんが何か聞いたら教えてくれや」



◇◇◇



「……また来たんですかい?シスさん」


 靴磨き少年レイジとして情報を収集。ウアや師匠やバルバルの事も、「銀髪赤目の少女」とか「紫髪の女性」などとさり気無く聞いているが、収穫は一切ない。

 そのうち日が暗くなって来たので、店仕舞いの頃合いかと考え始めた時分のこと。

 また、彼女が店に来た。


「へへ、来ちゃった」

「靴磨きってのは、そうそう毎日来るものじゃ無いんですがね」


 栗色の髪と瞳の少女、シス。彼女は既に3日間連続で、同じ時間に靴磨きに来ている。

 毎回、違う靴を履いて、それに合わせたような衣服を身に纏って。


「でも、今日も閉店でしょ?ちょっとくらい話し相手になってよ」

「常連さんだからって値引いたりしませんよ?」

「ケチ」

「商売ですからねぃ。嫌なら帰ってくださいよ」

「むぅ。……そうだ、今日のボクの恰好、どうかな?」

「似合ってるんじゃないですかね?」

「相変わらず適当だね」


 こんな時刻に少女が1人。最初は警戒していたが、敵意が一切感じられないので客として受け入れることにした。

 まぁ、魔術に長けてれば少女でも十分に強くなれる。ここは地球ではない。少女が夜に一人で出歩くことだってあるだろう。

 何かしらの事情を抱えているような節はあるが、個人的なソレにまで首を突っ込む必要は無い。

 少女には俺の情報収集に役立ってもらうとしよう。


「オルトヌス?会いたいの?」

「えぇ、まぁ。評判は悪いみたいですが、俺からしたら魔王討伐の英雄サマですよ。せっかくレウワルツに来たのなら、話を聞いてみたいと思っても不思議じゃないでしょう?」

「ふーん。確かにそうかも。ボク、実はちょっとだけ心当たりがあるよ。オルトヌスの居場所に」

「へぇ、そいつは凄いですね。お聞かせしてもらっても?」

「うーん。ちょっと自信が無いから、明日一度確かめてくるね。それで間違いなかったら教えてあげる」

「別に自分で確かめますよ?」

「ううん。これはボクの気持ちの問題。人に嘘を教えるのは嫌だからさ」

「なるほど。……ということは、明日も来るんですかい?」

「うん。同じ時間に来るよ。その時には、今日よりマシな誉め方が出来るようにしておいてよね」

「前向きに検討しておきますよ」

「うわー絶対にしないヤツだ」


 思うように成果が出ない中で、やっと手がかりらしきものを掴むことが出来た。

 こうして、今日も1日が終わる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る