妻に裏切られた俺は、家政婦になっていた高校時代の同級生を雇うことにしました。その女性は俺に優しいので幸せです

 そのつぎの日。


「ご主人様、ご主人様ったら」と声が聞こえてきて、優しく肩を揺り動かされる。


 何だ俺、携帯ゲームをしながら寝てしまったのか。


 俺は目を開け、ゆっくりと起き上がる。ふと横を見ると、奈々さんが「おはようございます。ご主人様」と、礼儀正しく頭を下げて、顔を上げるとニコッと微笑んだ。


 メイドごっこをしている奈々さんがとても可愛らしいけど、いまはとにかく普段着のジャージ姿を見られているのが恥ずかしくて、慌てて布団で体を隠しながら、ボソッと「おはよ……」


「ふふ、何で隠すの?」

「え? 何だか恥ずかしいじゃん」

「そう? これからは毎日見られるんだから、気にしなくて良いんじゃない?」

「まぁ、そうだけど……」


 俺はゆっくり布団を退かし、普段はしないのに丁寧に折りたたんでいく。


「栄治君。とりあえずいつもの家事は終わったよ。お茶でもしない?」

「あぁ、そうする」

「じゃあ下に行こ」

「うん」


 俺はベッドから起き上がると、奈々さんと一緒にダイニングへと向かった──。


 ダイニングチェアに座り、待っていると「はい。栄治君はコーヒーで良いんだよね?」と、奈々さんは言って俺の正面に座る。


「うん、ありがとう」


 俺はそう返事をして、奈々さんからコーヒーを受け取った。二人っきりで向かい合わせに飲むシチュエーションがそうさせるのか、なんだかドキドキしてしまって奈々さんの顔を見ながら、コーヒーを飲むことが出来なかった。


 奈々さんはどうなのか分からないが、猫舌のようで、フー……フ―……っとコーヒーを冷ましている。


「ねぇ、栄治君」

「ん?」

「──がめつい女と思われるかもしれないけど、いまやっている基本の仕事の他にオプションもあるの」

「へぇー、どんな?」

「例えば──メイド服を着て仕事をする、とか……」


 食い気味に「なんだって!?」と言って、奈々さんの方に視線を向けると、奈々さんは恥ずかしかったようで、俯きながらコーヒーをすすっていた。


「えっと、それはメイド服だけ?」

「栄治君が望むなら、何でも良いよ。──あ、でも。エッチのはダメだからね!」と、奈々さんはコーヒーカップに口をつけながら、チラッとこちらに視線を向けた。


 残念……と思いながらも、多分「そんなのはお願いしないよ」


「じゃあ、どんなのが良いの?」

「そうだな……高校の時の制服、とか?」


 奈々さんは驚いた表情を見せるが直ぐに表情を戻し、コーヒーカップを机に置くとソッと目を閉じた。


「大層なご趣味ですこと」

「はは……ダメかな?」


 奈々さんは目を開けると、首を傾げて「ダメじゃないけど、どうして?」


「んー、社会人になると妙に学生時代が恋しくなるだろ? あの頃の青春をもう一度、味わってみたくて」

「なるほどね」


 俺はコーヒーを手に取り、ゴクッと一口飲むと「ところで、このオプションは他の人でもやってるの?」


「え! そ、そんな訳ないじゃん!」


 奈々さんはそう言って、動揺を隠せないようで髪を撫で始める。俺はそんな可愛い奈々さんをからかってみたくなり「へぇー、じゃあ俺が特別ってことか」


「あ! えっと……その……うん、同級生だから特別ってこと」

「そうか、同級生だからか」

「うん、うん」と、奈々さんは必死に頷く。


「そうか、残念だな」

「え……」


 奈々さんは分かりやすくて面白いな。


「ふふ」

「何よー……」

「何でもない。明日から楽しみにしているから」


 奈々さんは嬉しそうな笑顔を浮かべると「うん!」

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