第10話

 午前中からデートしに出かけた一助が、昼から彼女を連れて帰ってきた。

「あれ?どうした彩香ちゃん連れて、まさか、結婚なんて冗談だろう」

一心は本気だった。心臓がバクついた。

「バカ言ってっじゃねえ。事件の事で彩香が話したいことがあるって言うから連れてきたんだ」

「お〜、みんなで聞くか、ちょっと待ってね」

「おーい、美紗と数馬あちょっと事務所に来いや!」

奥の部屋のドアを開けて美紗が顔を覗かせ、彩香ちゃんを見つけて、にこりとして入ってくる。

「何、どうしたの?皆を呼ぶってことは、まさか、結婚の発表?」

「親が親なら子も子だ、違う、あれ?数馬は?」

「お〜」と言いながら、のそっと姿を現した。そして彩香ちゃんを見つけて、ペコっと頭を下げる。

「じゃあ、彩香、皆に話してくれ」

「はい、えっと、浅草美術館の写真のことなんですけど、どうやって撮ったか分からないと、一助さんから聞いたので、ちょっと思い出したことがあるんです。過冷却って分かりますか?」

皆、首を振る。

「水は0℃で凍ると学校で習いました。ところが、純粋な水をゆっくり時間をかけて、0℃以下まで、確かマイナス7℃とかかな?まで冷やしても凍らないそうです。」

「え〜、そんなことあるんだ。知らんかったなあ、誰か知ってた?」

全員横に首をふる。

「ところが、そこにチャポンと氷のかけらを落とすと、一変に、水が全部氷になるそうなんです。」

「なるほど、その落とした氷が人間だったら、生きたまま落としたら、途端に氷詰めになっちゃう?」

「そうなんです。それを言いにきました。ただ、私は素人なのでうまく説明できないのですが、学校の先生が大学の生物学の教授に頼んでくれて、実験を見せてくれるそうなんです。それで皆さんで見に行ったら良いかなって思うんですけど?」

一心はそれは大きな発見だ、写真の作り方がそうなら、被写体は窒息しているはずだ。確認する必要があると思った。

「成程、彩香ちゃんありがとう。で、いつ行けば良いのかな?」

「急なんですが、これから行けませんか?」

「おっとっと、そりゃまた急だ。けど、良いよ。行こう。」

「一心、丘頭警部も見た方がいいんじゃないの?重大発見だよ」

美紗の指摘は正にその通りだ。すぐにダイヤルする。今の話を警部にすると、会議を抜け出して来るとの返事。パトカーで来るらしい。

「今、パトカーで来るから皆で乗っていこう」

「一心無理、7人になるから2台いるから、俺と彩香は自分の車で行くから」

「そうだな、そうしよう。一助、別のところへ行くなよ」

「バカ、何くだらないこと言ってんのよ。じゃ、先行くから。場所わかってんだよな?」

「大学名聞いてないけど?」

「あっ、済みません、忘れてました。北道大学の目黒分校です」

「ん、わかった、じゃあ、4時に向こうの正面玄関前で会おう」

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