第22話

 



「ここが墓夜の森」


「ここで試験をしたんだけど…大賢者様はここまで転移したんだよね…凄いな。それはそうと、機嫌直してくれた?」


「ここからは魔物もアンデットも出るから。…でも、内心はまだ怒ってる」


「だからごめんって」


「……次に寝顔を見続けた時は、それ相応の覚悟をして」


「…はい」


 …おかしいな、妻とは言え年下(一歳下)のミルアの圧に屈してしまった。


「…レオ、マンドライーターは何処にいるのか分かってるの?」


「うん、墓夜の森に入って少ししたところだよ。近くに泉があるらしいから他の魔物も多いと思う」


 魔物が生息している場所での水源は主に魔物の水飲み場となっているため必ずと言っていいほど周囲に魔物が居る。だけど今回はマンドライーターがいるため、もしかしたら魔物は捕食されるのを避けるために居ないかもしれない。…アンデットはいるかもしれないけど…流石のマンドライーターも骨や腐肉は栄養にならないと分かってるでしょ。


「水飲み場…気をつけないと」


「だね。…行こう」


「うん」


 剣を抜いて、墓夜の森へと足を踏み入れる。


「やばい魔物やアンデットが居たらすぐに撤退だ」


「うん」


 危険な事、自分より強い魔物には絶対しないのは冒険者の常識だ。


 僕とミルアは周囲を警戒しながら目的の魔物目指して墓夜の森を進む。



 ◆



「魔物が居る…いや、アンデットだ」


「分かった、どうする?」


「こちらに気付いてないようなら何もしない」


「了解」


 あんまり体力は使いたくない。それに、ゾンビを仮に一瞬で倒せたとしてもバレてしまったら更に体力を使うことになってしまう。それだけは絶対に避けたい。


「ゾンビは2体、左斜め前方に居る。右側から行く」


「ん」



 僕とミルアはゾンビを迂回するように右側から回った。



 幸いゾンビ達にバレる事はなかった。


「…よし、大丈夫だ」


「よかった。…地図は?」


「ちゃんと覚えてるよ。このまま進んでいけば…恐らくマンドライーターが居るであろう泉付近に辿り着ける」


 地図は冒険者組合から借りてきたものだ。


 毎回地図を広げて見るより覚えた方が早いので覚えた。


「そうだね…あと十分くらいかな?泉付近は開けているから分かりやすい」


「それはよかった。もしここと同じように木々が生えていたら視界も悪くなるし行動範囲も狭くなる」


「こればかりは自然様に感謝だね」


 もしかしたら誰かが切り倒したのかもしれないけどね。まっ、どちらでもいい。




 会話もそこで終わり、無言な状態のまま僕とミルアは進んだ。そして……目的地へと着いた。





「…ここの筈だが」


 肝心のマンドライーターの姿は見えない。何か居るっていうのはなんとなく気配で分かるけど……あくまで、なんとなくってだけだ。


「何か居る」


「だね。……取り敢えず警戒を、っ!!」


「これはっ!?」


 突然大きな揺れが起き、地面が盛り上がっていく。


「まさか地面に潜っていたのか」


 やがて地面から僕の腰回り――もしかしたらそれ以上かもしれない――ほどある蔓が円を描くように生えた。そして、中央から巨大な球根状の物体が現れた。


「聞いたことないぞ…」


 球根状だと思っていたのは花に例えるならどうやら花びらだったようで、8枚に分かれて中で鋭く尖った歯がこれでもかというほど並んだ口が姿を現した。


「レオ!」


「あぁ!」



 キシャァァァァァ!!



 マンドライーターが何処から声を出してるのか分からないが奇声をあげる。


「マンドライーターの攻撃方法は僕が言った通り、もしかしたら知らない攻撃もあるかもしれない、分散して蔓が一人に集中しないように、ミルアは火魔法を主に、僕は蔓を斬りながら隙を見つけたら本体を斬る」


「分かった!」


「じゃあ行動開始!!」



 二手に分かれる。


 マンドライーターは蔓を僕の方に4本、ミルアの方に8本動かした。まだ蔓は残っている、恐らく本体を守るための蔓だ。


「ちっ、ミルアが危ない」


 マンドライーターには知力があるのか、確実に厄介なミルアから捕食しようとしてる。


「邪魔だ!」


 俺を捕まえようとする蔓を斬る。…が、直ぐに再生した。めんどくさい…


「ミルア!」


「大丈夫、ファイアボール」


 ミルアが拳大の火球を放つ。それは見事に蔓に当たり炎上した。


「やっ!」


 ミルアが何かをしたのか、蔓を燃やしてる火が一気に本体まで燃え広がる。


「…なんだ?」


 …空気の量を変えたのか?もしくは空気の流れを…いや、分からんけど凄いな。


「僕も負けられてないなっ!」


 ズバズバッと蔓を斬っていく。すぐに再生するけど関係ない。

 斬りながら本体へと近づいていく。


 思っていたより蔓は遅い。でも、あの大きさだ…まともに食らえば打撲では済まないな…骨折とまではいかないがひびは入るね。


 …しかし、本体は何もしないのか?ただ蔓を動かす事しか出来ないとは思えない。


「レオっ!後ろ!」


「大丈夫だよっ、と!」


 背後から新たに生えてきた蔓を斬る。殺気を感じたからね。


「私も負けてられない、日々の成果をっ!」


 …暴発しないだろうか?不安だ。


「炎の竜巻!」


 ミルアの周囲に火の竜巻が発生し、蔓を跡形もなく燃やしていく。

 植物系の魔物は主に火に関する魔法は全て弱点だ。マンドライーターだって同じだ。



 ミルアの魔法は時々暴発する。…というより、強力な魔法を使おうとした時のみだ。魔法位に例えるなら…超級の水魔法を使おうとした時だ。…あれは酷かった。なんせ水浸しになったし、僕もミルアもベタベタになったからね。

 …まぁ、ミルアが凄い魔法使いってのは分かったんだけど、扱えなくては意味がない。



 っと、今は過去の悲しい事件を思い出してるより…


「【乱】」


 俺の範囲内に踏み込んだものを問答無用で斬る、自己流剣技。そして…


「【突】」


 敵に向かって突撃するだけの動き。でも、"乱'と合わせる事で…敵に突撃しながら範囲内の敵――今回は蔓――を斬るという事が出来る。

 これで一気に詰めて本体を"断"で斬る!


 身体強化系の魔法も使って自己流剣技の合わせ技"乱突"で口がある本体へと向かっていく。


「炎道!」


「ありがとう、ミルア」


 ゴウッ!と僕の左右に火の壁が出現する。それはマンドライーターの本体まで続いており名前の通り火の道だ。…熱いがこの程度余裕だ。


「っ!!」


 地面から殺気を感じたため即座に後ろに下がる。下がると同時に蔓が物凄い勢いで生えてきた。いや、蔓ではなかった。


「…灰色だな」


 他の緑色の蔓とは違い、その蔓は灰色だった。何か違うのか?…もしくは、ただ弱った蔓なのか…どちらにせよ、後者は確実と言っていいほどないので警戒しとこう。


「レオ!他の蔓が地面に潜った!」


「分かった!」


 やはりそう来るか。


「ミルア!そっちから本体に向けて攻撃はできるか?」


「だめ!花びらで守られてて魔法が効かない!耐魔法みたいな力を持ってる!」


 …なるほどな。


 …このマンドライーターは特異型か。


 魔物の中から時々生まれる強い力を持って生まれてくる魔物が特異型だ。その魔物には元々の知識はあまり当てにならない。

 このマンドライーターがいい例だ。マンドライーターの花びら、いやマンドライーターは耐魔法など持っていないし地面に潜ったりもしない。従来のマンドライーターとは明らかに異なる力を持っている。


「ミルア!このマンドライーターは特異型だ!災害ランクは6以上だと想定して動いてくれ!」


「っ!レオ、危険!!」


「ちっ、逆に有効活用してやる」


 地面から僕を殺しにかかってくる蔓の先端部分にタイミング乗り、足の骨が折られる前に跳ぶ。


「いい足場だね」


 僕の目の前にはウネウネと灰色の蔓達が本体を守るために立ち塞がっている。…生え塞がってる?…どっちでもいい。


「っっは!!」


 俺を貫こうとする蔓の一本を回避して斬る。そして、再生する前の断面に片足を置いて踏み場にし、そのまま先程と同じように大きく上に跳ぶ。


 他の蔓も一斉に向かってくる。一本一本見極めて先ほど同じように回避、斬って踏み場にして本体へと跳んでいく。少しでもタイミングが崩れたらその瞬間僕は死ぬだろう。



 本体はミルアの言った通り花びらで閉じてる。耐魔法を持った花びら…うぅむ、金になるね。

 しかし、"断"でいけるのか…?"烈"?いや…"斬"…物は試しだ!


「レオ!灰色は任せて!炎の牢獄!」


 ジュッ!と背後から音が聞こえた。やっぱりミルアの魔法は頼もしい。


「【断】!」


 切れるかどうか不安だったがスパッ!と僕のアダマンタイト鋼製の剣は花びらに一筋の切り込みを付けた。これならっ!


「【断】!【斬波】」



 キシャァァァァァァァ!!!?



 花びらの先端部分、そこだけを水平に剣を振るい斬り離す。そして、もう一度剣を振るい斬撃を飛ばしうっすらと見えるマンドライーターの口に傷を付ける。

 原理としては簡単だ、このアダマンタイト鋼製の剣は魔力を纏わせる事はできなくなったが闘気は可能だった。闘気の説明はまた今度。

 話を戻して、剣に纏わせた闘気を勢いよく振るう事で闘気が刃の形のまま射出される。これが"斬波"だ。さて…あとは。


「ミルア!」


「準備は出来てる、離れてレオ!」


 即座にその場から退く。遅れて、ミルアからとてつもない圧を感じる。…いや、これが何かはなんとなくだけど分かる。魔力だ。

 周りの空気そのものが重くなった気がする。これもミルアの魔力の影響だろうか?…だとしたら、ミルアの魔力量はどれほど凄まじいか。


 ミルアが両手を弓のように構える。


「凍てつく聖弓、凍てつく聖矢」


 氷の弓、そして矢がミルアの構えた手の中に生成される。なにか、神々しい光を放っている。


 …これはもう少し離れた方が良さそうだ。


「絶対零度の一矢」


 ミルアが右手の矢を離す。瞬間、ミルアの目の前が全て凍りついた。


 そう、全てが。土も木も葉もマンドライーターも近くにある泉も全てが凍った。

 やがて襲ってきたのは凄まじい冷気だった。


 肝心のマンドライーターは全体に霜が降り完全に氷像と化していた。


「…マジか」


「……聖級魔法の力、これほどまでとは…」


「お前自身も驚いてるのかよ」


 なにやらふらふらとしていて危なそうなミルアの近くに行く。


「大丈夫か?」


「…お陰で魔力がすっからかん。血ちょうだい」


「今!?…今は少し無理かな〜」


「がーん」


「だってこんな所で血を吸われたら危ないからね。それにしてと、マンドライーターの討伐の証を持って帰らないといけないんだけど…どうやって持ち帰ろうか」


 マンドライーターに近寄って軽く小突いてみるとコツコツと硬い感触と微かな痛みがした。


「…これごと持って帰る?」


「これごとは無理だよ…」


「魔法の鞄」


「容量って知ってるかな?花びら一枚ならまだしも…全ては無理だよ」


「ならそれだけ持って帰ろう」


「それをすると他の荷物は置いてくことになるけど」


「…私が持つ」


「今のミルアには無理だよ。一部だけを切り取って持ち帰ろう」


「うん」


「それにしてもあの魔法はなんなの?」


「水の聖級魔法。あの弓の扇状全てが範囲、距離は約50メートル」


「広いね」


「私は魔力だけは多い。でも適性が良いのは水魔法のみ…火魔法を使えたらよかったんだけど」


「全て燃えそうだね」



 そんな雑談をしながら僕は頑張って凍りついたマンドライーターの花びらをノコギリのようにガリガリと斬り続けた。


 これは余談なのだが…斬り終えたのは約20分後だった。そして、僕たちは王都アルフィリアへと帰ることにした。






ーーーー


前回、間違えて21話を22話として連続投稿してしまいました。普通にミスった

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