第14話 勝負と不機嫌とじゃんけん
黄色の朗らかだった表情は一気に険しくなり、僕の内心を探るような目付きに変わる。
極力情報を削いだ問いかけだったのにコレでも気が付くのか。
奥歯を噛み、失策だったと後悔する。
ただ良策があったかと言われればないし、数日の時間を使っても思いつくことは無いだろう。
『元に戻って下さい』
自分でも中々に分かりずらいお願いだと思ったけれど、彼女を顔を見るに、僕の言いたいことは全てわかっているようだった。
「元に戻るって……一体全体どういうことなのかい?」
持ち前の運の良さで、閃ける豪運で理解している癖に黄色は僕に問いかけた。
あくまでも会話のフォーマットは踏もうということなのだろう。
いくら自分が理解できているとしても、それが相手にも情報共有された状態かどうかは分からないから。
彼女の不可解な言動の動機が、僕への優しさのか、はたまた人間性の欠如を恐れてなのかは見当がつかなかったけれど。
ここまで踏み入られてしまったら答えるしかない。
「僕の先輩は――式彩七色は、別れてしまった七色を一つに戻そうとしています。ですから僕は黄色さんに了承を貰いたいのです」
「ふうん」
口から息を吐くように頷いて、
「気に入らないなあ」
聞こえるような声量でわざとらしく言う。
その言葉に萎縮すると、黄色は笑いながら手を振った。
誤解だと言いたげな様子で。
「亜黒氏が気に入らないんじゃないさ。私は正義の味方で君の味方。できることなら君の悩みを解決するために、私は身投げを辞さない勢いだよ」
「それは流石に重いです」
「あそう。メンヘラちゃんは好みじゃないかい?」
「大好きですよ。僕を大好きになってくれる人なんてこの世に存在しないので、僕を好きな時点で大好きです」
「典型的だなあ」
「ほっといてください」
ケラケラと笑う黄色。
「私が気に入らないのは、君の言う先輩だよ。どの色かは知らないけどね、こんな大事なことを人を使って伝えるのがさ。何か事情があるってことは大体わかるけどねえ」
「…………」
「どうせ他の七色も集めるつもりなんだろう。いいよ、協力してあげよう」
「ありがとうございます」
頭を下げようとすると、声に遮られた。
「でも気に入らないのは本当、だからここはゲームで決着をつけないかい」
「ゲーム」
黄色は首肯した。
「ゲームって言い方がおこがましいくらいにルールはシンプル。じゃんけんをしよう」
そう言いながら彼女は両手をグーの形にして、一人でじゃんけんを始めた。
「君が一度でも勝てば私は言うことを何でも聞く」
一人じゃんけんは右が勝ち、左が負けた。
「私が勝てば亜黒氏が一つ言うことを聞く」
今度は左が勝ち、右が負ける。
「一日に一回だけ、昼休みにじゃんけんをする。土日はお休みにして……つまり週五回チャンスはある訳だ。一カ月だと約二十回。夏休みにも連絡さえくれれば学校に集まってしてあげるとも」
その提案の横暴さに、理不尽さに思考が停止してしまう。
「僕がめちゃくちゃ不利じゃないですか」
「なんでだい?十回もあれば一回くらいは勝てるだろうし、最悪その十回に負け続けてもその次がある。確実だと思うけどね」
「ただの人との対決なら、好条件なんですけどね」
それが黄色との勝負となれば話は変わるだろう。
幸運を司る七色の一色、運が良いだけで全て自分の都合の良く物を動かせるその実力は恐怖の粋である。
そんな奴とじゃんけんをして勝つ?
何百回しようとも、何千回しようとも、勝てるような気がしない。
「ちなみに他のゲームを提案してもらうことは出来ますか?」
「いいよ。コイントス、ポーカー、ババ抜き……ソシャゲのガチャでどっちが早くレアキャラ当てられるかの勝負でもいいよ」
「じゃんけんでお願いします」
自分の土俵でしか戦うつもりがないじゃないか。
他の勝負を提案したところで――運の絡むことのないゲームを提案したところで、自頭の良さで負けてしまうのは明白である。
手詰まり。
終わった。
無色との契約はここで途切れてしまうのだ。
「じゃあ一回目。試しにじゃんけんしてみるかい?」
気軽に気楽に、不気味な笑みをたたえて黄色は聞いてきた。
力なくそれに答えて、右手を出す。
結果は、言うまでもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます