5ターン目 覚醒召喚≪暴爆竜 ルドランデ≫!

「私のターンね。MPを3に。ドロー。≪銀翼のドラゴン≫の効果、MPを2消費してAPを2アップで4にする」


 青宮栞は手札を眺める。MPを使って銀翼のAPを上げ、攻撃準備を整えた後に悩むこととは何だろう。


「条件はドラゴンモンスター一体とアイテム一枚。≪銀翼のドラゴン≫と≪魔力貯蔵庫≫を墓場に送って覚醒召喚、≪暴爆竜 ルドランデ≫!」


 まずい。銀翼の三倍はある巨大な赤い竜の効果は……。


「ルドランデのAPは覚醒条件として墓場に送ったキャラクターのAPの倍になる。ルドランデでアタック」


 AP4となった銀翼を墓場に送ったため、APは8。ルドランデが前足を叩きつけてくる。いや、ブレスとかじゃないんかい。

 それはさておき凄まじい衝撃だ。自転車で派手に転んだ翌日、体中がガタガタになったのを思い出す。LPが5まで減った。もう一回これを喰らったら今度こそ死ぬわけだ。けれど、これを待っていた。


「MPを2消費してクイックマジック≪ヴァルハラの開門≫を発動! LPが5以上減った時、手札または墓場から戦士キャラクターを合計3体までクイック召喚できる。墓場から≪雷撃の戦士長 ナーデア≫、≪見習い戦士 ハルル≫、手札から≪荒野を駆る戦士≫をクイック召喚」


 空間を裂いたような場所から三体のキャラクターが現れる。MP消費とLPへのダメージという発動条件が扱いにくく、戦士ビートでもあまり使われないカードだ。警戒していなかったのは仕方がない。


「……ターンエンド」


 覚醒召喚していないナーデアは二回攻撃はできない。それでもAP4にハルルの効果で2アップ、荒野の1で計7ダメージ。返しのターンを荒野の効果で防いで勝ちだ。


「MPを3まで回復してドロー」


 なんだ。相手にターンを回す必要もなさそうだ。


「アイテム≪ライトニングソード≫を覚醒ナーデアに使用。AP3アップ。ハルルの効果を発動。待機状態にしてさらに2アップで9に。これでちょうど10ダメージだけど1残すようにアタックすればいい?」

「どうぞ」


 まだクールな表情を続けるか。


「じゃあ覚醒ナーデアでアタック」


 電光石火の斬撃が青宮栞を襲う。傷はできないし、血も出ないけど彼女の反応を見るととても痛そうだ。うずくまりながら一枚のカードを見せてくる。


「MPを1消費してクイックマジック≪悪意の綱引き≫を発動。自分のキャラクターのAPを、相手キャラクター一体のAPの二倍の数値下げてその相手キャラクターを破壊する。ルドランデのAPを2下げて、≪荒野を駆る戦士≫を破壊」


 荒野が爆発する。これでとどめをさせる状況ではなくなってしまった。

 勝利条件はLPを1にすることではない。LPがゼロになる前にサレンダーさせることだ。つまり、LPを削られないならサレンダーしなくてもいい。このターン私にこれ以上の攻め手はない。盾となってくれるキャラクターもいない。そして、相手にはAP6のキャラクターがいる。


「…………負けました」

「対戦ありがとうございました」


 私と青宮栞のキャラクターやデッキが目の前から消える。降参の表明に対して彼女がそれを受け入れたからだろう。取り敢えず死ななくて良かった。


「これで一勝一敗。次も勝つからそれまで生き残っているんだな」

「望むところ」


 少しの間を置いて二人とも笑いだす。クロマジアニメ十話でのライバルと主人公のやり取りそのままだからだ。


「まだ一週間だもんね。デッキ編集もできない初心者相手にイキったみたいになっちゃったかな」

「フェアだよ。そのためにTCGルールにしてくれたんでしょ」

「それにしても異世界でクロマジの話ができるとは思わなかった。今はどこに住んでるの?」


 この人グイグイくるな。でもクロマジの話ができる喜びは同意だ。


「リーナ、さっき一緒にいた女の子を助けた縁で泊めてもらってるの」

「そっか、ギルドに登録はしてないの?」


 ギルド、すごくファンタジックな響きだ。そこでリーナが兄二人を連れて戻ってきた。


「ユキノさん、大丈夫?」


 正直対戦が楽しすぎて忘れてた。ごめんよ。


「大丈夫、こっちは青宮栞さん。悪い人じゃないから安心して」

「こんにちは、気軽にシオリと呼んでね」


 流石有名モデル。笑顔の自己紹介が眩しい。私の言葉と彼女自身の魅力で三人の警戒も解けたようだ。


「そのクマ運ぶの手伝おうか? 男手が来たとはいえ大変でしょ」


 そう言うとカードを取り出す。カードが光ると≪銀翼のドラゴン≫が現れた。ドラゴンはクマを掴んだ。……え?


「私、キャラクターに荷物を運ばせるのはできなかったのに」

「それもデッキ編集と一緒で冒険を進めるとできるようになるよ。さて、どこに運べばいい?」


 そんなことができるんだ。冒険進めよう。そしてクマはドラゴンに運んでもらいました。

 クマを持っていくとリーナの家族が総出で向かえてくれる。家族だけでなく村人みんな口が開いていた。そりゃそうだ。

 

「じゃあノキュさん借りていくわね」


 シオリに突然腕を引っ張っられる。


「ほら行くわよ。アスバーンのこととか、話したいことは沢山あるんだから」


 さっきまでライバルムーブだったけど、本性は気のいい友人ポジなのかもしれない。

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