第45話 根なし草の反抗
ヴェルセリア伯爵邸では、エルセフィアとは別の部屋を準備されていた。鎮痛魔法が切れたら、我慢の練習である。
すでに国を失った王子になんの価値があるのだろうか?しかも、5体満足でもない。本妻にもなれない。
エルセフィアにとっては社会的なメリットは何一つないのだ。それは、家族も心配するだろう。
何か納得のいく説明は必要なのだろうと思うのだが、何の保証にもならない誠意という虚像しか持ち合わせていないのである。
そのころ、ヴェルセリア一家は、エルセフィアを確保して家族会議中であった。
「エルセ。いくら憧れの王子といっても、あまりにも不安な相手ではないか?これで、お前が幸せになるとは思えない。」
「もう、すでに幸せです。なんの問題もありません。私が望んだ結果ですし、主様なしに私の人生は考えられません。」
「あんな、男の一体どこがいいんだ。」
「お父様が、知らないだけです。あの方は御伽噺程度の人物ではありません。」
話は平行線なのである。
話もそこそこに、エルセフィアは部屋を出て行ってしまう。
エルシードはラウンジの長椅子に腰掛けて外を眺めていた。
「主様、鎮痛魔法おかけしますね。」
足早に近づいていく。
ふわっとエルシードの身体に寄り添うと、魔法をかける。
そのまま、エルシードの身体にゆっくりと身を任せながらじっと漆黒の瞳を覗き込む。
「悔しいです。主様の事を全然わかっていません。」
「仕方ないさ、侵攻してくる大天使を食い止めたって、実際にはエルセフィアのメリットにはならないからね。解ってもらえなくても当然だよね。」
「私はお傍に置いていただくだけで満足ですし、なんの不自由も感じておりません。」
エルセフィアはゆっくりとエルシードに唇を重ねる。
「でも、御父上の心配も当たり前の話だからね。本当に僕と一緒に居てくれるの?」
「主様は私のことがお嫌いですか?」
「大好きだよ。」
あっさりと答えると、満面の笑みを浮かべてエルシードに抱き着くのだった。
エルセフィアの父と母はその光景を静かに見守っていた。
宴の時間になり、二人は会場に案内される。
「さて、宴の前に、王太子様と先ほどのお話をさせていただければありがたいのですが。」
エルセフィアは予想よりも早く父親がこの話を持ち出してきたことに動揺している。
「残念ですが、あなた様に娘をお任せするには聊か不安がございます。できれば、お断りしたいと考えております。」
エルシードは予測の範囲内として、覚悟を決めていた。
「御父上様のご判断、ごもっともと思います。ですが、今回の件につきましては、お許しいただけないとしても、決定事項としてお考えいただきたいと考えております。エルセフィアを幸せにできるのは僕だけです。」
爆弾発言である。
余りにも、命の駆け引きばかりして来たため、少々のことは、些細な事になっていた。
「なんと、エルセフィアを我々から奪うおつもりか?」
伯爵は顔を赤くして憤慨する。
「きっと今はご理解いただけないと思います。納得していただける日が必ず来ますが、それまでエルセを待たせ続ける事はできませんので、今は不本意ですが、攫って行かせていただきます。」
「おのれ、この男をつまみ出せ!」
私兵がエルシードを囲む。
もちろん、私兵などは全く相手にならない。静かに多くの私兵は倒れ込んでいく。
「申し訳ありません。これ似て失礼いたします。」
エルセフィアは、振り返りもせずに小走りでエルシードの右腕に抱き着くとそのまま傍を歩いて行く。
そこに母シンディが駆け寄る。
「王太子さま、エルセをよろしくお願いいたします。失礼とは思いましたが、先ほどラウンジでの様子を見せていただきました。どれだけエルセがあなた様の事を愛しているのかよく分かりました。どうか、よろしくお願いいたします。」
「任せてください。」
エルシードは、にっこりと笑った。
**********
その後、ヴェルセリア家はエルシードについての情報集め始めた。
内容としては、現在、一城の主であり、その周囲の街を含む狭い領地とドアルネスの南側の開拓地を所有。
現在戦力としては、大天使2柱、魔剣士7名、旧アルカテイル領の兵士5万人を率いている現状にある。実質一国の兵力を越える勢力である。
友人としてもルーセリア国王、エルシア国王、ドラウネス宰相とは親友関係にある。
業績としても、各地で起こっている、大天使の侵攻の全てをエルシードが関わり制圧している。
国同士の戦力や、領地の生産力こそ表に出ていないが、実際には城・領地・戦力・信頼関係において、申し分のない相手であった事が判明した。
エルセフィアの父親は慌てた。
側妃である事を除けば申し分なかったのだ。
ここで、問題が発生する。
ヴェルセリア伯爵は、リカーム城に「謝罪の書簡」を送ってしまったのだ。
この書簡が届くと、エルシードの足取が捕まってしまう可能性があるのだ。
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