聖戦の影
第14話 エリアリーゼとメルティゼロ
エルシードは、今回自分の事でも悩んでいた。
エリアがいわゆる二重人格になってしまっているのだ。
いつものエリアリーゼが甘えているのだと思っていたら、ゼロの人格であったりするのだ。
初めにどちらの人格か聞きたいが何か変なのだ。
エルだってたまに、幼馴染のエリアに甘えたいこともあるわけだが、どうも引っ掛かって二人の世界を作れないでいた。
まるで距離が開いてしまったみたいなのだ。
エリアも思ってもいない事を口走ることのある自分に戸惑っているようで、見ていて可哀そうなのだ。
かたやゼロは、アルシオンと話をしたいわけだが、エリアとゼロの関係とは違う。
エルシードとアルシオンは魂だけの融合なのだが、エリアとゼロは実体も融合しているのだ。
よほどでない限りアルシオンはエルシードに憑依してしゃべったりしない。
ただ、何かゼロに対しても暖かい気持ちが心の底にあるのも事実で、これがアルシオンの人格なのだろう。
「わたしは、変わらずエルと一緒に居たいのに、突然に引き離される感覚があるの。まるでエルとどんどん離れているようで辛いんだ。」
エリアは涙目だ。
なんとかしてやりたいのだが、ゼロに人格を出さないように言えば、それはそれで可哀そうなのだ。わるい奴ではないのだ。
**********
任務は遺跡調査である。
これから敵対する神々の情報を得て対策を立てなければならない。
エル・エリアと魔剣士達は、それぞれ情報収集に余念がない。
対策としては
1,自分が強くなる亊。
2,強い仲間を増やすこと
(地上にいる神・天使・堕天使・魔族・魔王・魔女など。)
3,情報を集めること(神の弱点をさがす。封印や弱体化など力を削ぐ亊など)
色々であるが簡単な方法はない。
まずは大戦の際の情報を集めることが重要なのである。
今回エルとエリアの二人は、『赤い月の遺跡』の調査に入っていた。
この遺跡は天使が降臨される場所として神格化されているのだ。
遺跡に静かに足を踏み入れた。
中は比較的荒らされていない。
特に罠もない、ピラミッド型の遺跡は、奥の階段から7階まで階層がありそのどこも比較的きれいにまとまっている印象だった。
「昔ここには誰か協力者はいなかったのかな?」ゼロに聞く。
「いましたよ、でも前回の大戦は準備できる時間がなかったから、ここの主には助力の要請はできなかったんですよ。彼女は天界の12天使の一人でしたが、大戦には参加せず沈黙を守っていた謎の存在です。」
「では今回味方にできれば、大きな戦力になるな。」
いるかどうかもわからない天使の話を気軽にしている最中、良くとおる透き通った声が響く。
*****
「面白い奴が来ているな。お前あの大戦で大暴れしていたメルティゼロだな?」
神前の寝台には、薄い黄色と銀色の細かい刺繡に彩られた美しいドレスに身を包んだ女性が腰掛けていた。
背中に6枚の羽根が黄金に輝いている。
「お初にお目にかかります。大天使ルフェリアさまですね。」
その幼くも美しい容姿と純白で天使らしい美しい2枚の羽根を持つ少女は問う。
「その姿は以前のものではないな?」
エリアと融合した容姿は、当時のゼロの凛々しい姿からは想像できないほど柔らかく、優しい印象であった。
「一番優れた依り代を選んだらこうなりました。」
あっさりと返す。
「お前はアルシオンの最後の希望で、堕天しなかったはずだから、本当の体はあるんだろう?」
「故があって、この娘と融合している。」
しばらくの沈黙のあと、エルシードは口を開く。
「大天使ルフェリア様、魔剣士エルシードと申します。今はメルティゼロ様と魔王アルシオンの魂とともに行動している一人間族でございます。」
できるだけ人間族の俗世にかかわらないよう注意して挨拶をすます。
「で、今回の要件はなんだ?」
「次の神魔大戦の際にご助力お願いしたく、参上いたしました。」
ルフェリアは不敵な笑みを浮かべてエルを神前から見下ろす。
「私も神たちのやり方は好かん。だがお前たちに協力する意味も解らない。」
さらっと返す。
「ましてや、12天使最強とも言われるゼロがいるではないか?」
エルは頭を下げて話を続ける。
「はい、堕天使様やゼロ様の活躍のおかげで生き残れはしましたが、それでも負けてしまいました。」
「勝ってどうする。また次の戦乱を生むだけではないのか?」
確かにその通りなのだ。
「まあいい、相手をしてやる。お前が私に勝てたら協力してやろう。今日は機嫌がよいのだ。」ルフェリアは周囲に金色のオーラを纏い立ち上がる。
「・・・やってみます。」
エルは透き通った青くて黒いオーラを纏い、双剣を抜く。
「身体強化」
「エンチャント空間断絶」
・・・・・・・・・・・・・
「空間転移!!」
一気にエルはルフェリアの前に出現、双剣を躍らせる。
ルフェリアには触れることができない。さてはこの空間に存在しない?
「空間索敵」
「空間転移」
全く誰もいないはずの空間を剣で薙ぎ払う。
空間の歪みが切り裂かれ、中に本物のルフェリアが笑う。
「う~ん、正解。それと私も空間操作つかえるから君の絶対切断は無効ね!」
「じゃ、そう簡単に負けたら、協力しても意味ないでしょうから、こちらからもいきますね。」
ルフェリアの赤い爪が幾重にも空間を引き裂いてくる。
「空間転移」
その場を飛びのくが、次の出現先を読まれている。
「きゃうっ」真っ赤な爪が深く鋭くエルをかばったエリアの左肩を襲う。大きく切り裂かれ大量の血液が飛び散る。
「よく、次の出現先を読んで、身代わりになれたな・・・私より少し早く想定していたということか?」
「ゼロ、その依り代も相当良い憑依先だったようだね。」
「エリア!!・・・少しだけ待っていてくれ。勝負をつけてくる。」
決意をにじませて剣を握る。一見絶望的だが、エルも同じ空間操作系の敵を想定して策は講じていた。
「ディメンションケージ!」
魔法を展開すると同時に、自分も一緒にケージの中に飛び込む。
「これでどうだ!!」
ケージがほかの空間に転移する亊を阻む。双剣がルフェリアの首に突き付けられた。
「ふふふ、いい線いってるわね。」
ルフェリアは指を一閃するとケージがはじけ飛ぶ。
「ケージが脆すぎるけど、作戦は悪くないし、一瞬スキがつくられちゃったわね。いいわ、あなたの勝ちで・・・」
「では、協力していただけるんですか?」
「条件付きよ!次の大戦の大義名分が神にあればあなた方には協力できないわ。あと、私を退屈させない事かしらね。」
すがすがしく、笑う。
「痛い。何するんだこの依り代は・・・」ゼロは怒る。
痛みによってエリアの意識はないようだ。
ゼロは慣れない手つきで、「ほう・・・回復魔法は使い放題だね・・・」といいつつ自分に回復魔法をかけて傷を塞ぐ。
「じゃ早速週に一回でいいから、おいしそうな食事とお酒を沢山、神殿に捧げに来なさい。」ルフェリアはからからと笑う。
何とか協力者を増やすことができたのだ。
あの時、一瞬でエルの転移先を読んでエリアが庇ってくれなかったら、ルフェリアの協力は得られず負けていただろう。
**********
帰りの馬車の中、エリアが目覚める。そして自分の中のゼロに話しかける。
「ゼロお願いがあるの。いま目の前にいるのはアルシオン様じゃないのよ。アルシオンの魂を受け継いだエルシードなの。お願い。エルを私に返して・・・」
「・・・」無言である。
しばらくするとゼロが話し出す。
「今日のあなたの行動で分かったよ。私がアルシオンを大切に思っているように、エリアはこの子が大切なのね。アルシオンは確かにエルシード中にいるけど、魂の奥にいるのよね・・・表に出てくる事はほとんどない。」
少し間が苦しく感じられる。
「わかったわ、私もあなたの心の奥で眠りにつこうと思います。これからは呼ばれない限り出てこないわ。私の力と体は自由に使っていいわ。今までごめんね・・・」
そう言うと、ゼロの意思は消えていた。
これでしばらくは、エリアとゼロの関係は落ち着くのだろうか。
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