第4話 静子さんになにがあったか? 甘い生活の始まり。

二人で古着屋さんに行き、服を買った。


どんな物が良いか解らないから静子さんに選んで貰った。


その後、串焼きとワインを買い宿屋にきた。


酒場よりも落ち着いて話せる…そう思ったからだ。


勿論、ベッドは二つある部屋を選んだ。


グラスにワインを入れ串焼きを並べた。


すると静子さんは床に座って三つ指を立てて頭を下げてきた。


「こんな草臥れた奴隷を買って頂きありがとうございました、これからは誠心誠意…」


「静子さん、そんな事しなくて良いから」


「うふふっ私…奴隷ですよ、こうするのが当たり前、ううっ」


「泣かないで下さい、落ち着くまで待ちますから…落ち着いたら何があったのか話して下さい」


「ううっ…はい」


美女の涙は本当に怖いな。


やはり、俺は前世の年齢に引っ張られている気がする。


メルが泣いていても子供をあやす感じで、簡単に頭を撫でて落ち着かせて終わりだ。


だが、静子さん相手にはそうはいかない。


子供をあやすのと全く違う。


静子さんはやはり、本当に美人だ。


一番近いイメージだと古いアパートの管理人をしている、ひよこのエプロンをしている未亡人が近いかも知れない。


それはさておき、日本人の大人の美人の容姿をしている彼女は前世が日本人の俺にはドストライクだ。


最も、静子さんは日本人ではなく、大昔の転移者の隔世遺伝 、いわゆる先祖返りらしい…ご先祖様の名前にちなんで、静子という和風の名前をつけたそうだ…まぁゼクトとセクトール(ゼクトの父親)から聞いた情報だ。


ちなみに大昔は黒髪、黒目は美女の証しだったが、今では『大昔の転移者がやらかしたせい』で嫌われている。


暫く静子さんは泣いていたが、落ち着いたのかポツリポツリと話し始めた。


「私、旦那に売られちゃったんです」


「売られちゃったって、セクトールおじさんにですか? 国から沢山のお金を貰ったんだからお金に困るっている訳じゃないですよね」


普通に考えたら静子さんが奴隷になるのは可笑しい。


ゼクトが勇者と国から認められた時に莫大な一時金が入った。


普通に考えて奴隷になんてなるわけが無い。


「そのお金ももう多分無いと思います」


お金が手に入ったセクトールは、そのお金で賭け事や女、お酒に嵌まった。


他の三人の親が地道に畑を買ったり貯金をしているのに対してどんどんお金を溶かしていったそうだ。


女といっても商売女相手だから咎めていなかったが…余りにもお金使いが荒かったのでそちらを咎めたら…


「今まで悪かった、そうだな最後に街にいってお前と少し贅沢してもう無駄使いはやめよう」


そう言われたそうだ。


それでウキウキして一緒に街にいったら罠で、そのまま奴隷商に売り飛ばされたそうだ。


「酷い話ですね、ですがそれならゼクトに手紙でも書けば」


「駄目よ、あの子は父親に懐いていて私を嫌っていたから」


そう言えば、真面目な静子さんを嫌っていたな。


ゼクトは女癖が悪いだけだが、セクトールは本物のクズだな。


「セクトールおじさんは真面目だと思っていたんですが」


「お金があの人を変えたのよ…でもお金が無くても、あの人は」

◆◆◆


子供の頃の事を思い出した。


「僕、静子おばさんと結婚したいな」


そう言った俺にあいつは…


「そうか、セレスお前が15歳になる頃には彼奴は良いババアだ…そうだな金貨1枚で譲ってやるよ」


そんな記憶がある。


確かにこの世界は20歳を超えた女性の価値は下がる…だが多くの夫婦は思い出があるから別れずにいる。


今思えば、あれは本音だったのかも知れない。


◆◆◆


「言われてみれば、元からそんな雰囲気はあったかも知れませんね」


「ええっ」


「しかし、セクトールおじさんに腹が立たないですか?」


「うふふっ腹は立つけど、仕方ないわ…それにあの人も…どうせ地獄に落ちるわ」


そこ迄溶かし続けていたらお金が無くなるのは確定だ。


しかも、その分じゃ作物も育てていないから税金も払えないだろう…そう考えたら静子さんは奴隷になって助かったのかもしれないな。


「なんだか言いづらい事を聞いてすみませんでした」



「うふふっ、良いのよ、こんなおばさんを買ってくれたんですもん、嬉しいわ」


やはり凄く綺麗だな。


この世界じゃ超ババコンと言われるかも知れない。


だが、前の世界の記憶のある俺には、本当に包容力があり人間として完成するのはこの位の年齢だと思う。


この魅力が解らないなんて勿体ない。


「そんな静子さんはおばさんじゃ無いですよ」


「そう? そんな事言ってくれるのはセレスくんだけですよ、うふふっ」


静子さんはどんな時も笑っている。


俺の両親が亡くなった時も励ましてくれた。


俺がゼクトや幼馴染を助けてやりたいと思ったのは村の皆が優しくしてくれたからだ…


その中でも静子さんは特別だった。


何時も優しく母親としても最高の女性に思えたんだ。


「そんな事ないですよ、静子さんは本当に素晴らしい女性です」


本当に俺はそう思う。


「うふふっ、そうそれなら、何でもしてあげるわ、美味しい物でも作ろうかしら? あらっその前に私すでにセレスくんの奴隷だったのよね? 何かして欲しい事ある?」


「それなら、その恋人か夫婦の様にしてくれると嬉しいです」


「嫌だわ、そんな冗談、こんなおばさん捕まえて…」


静子さんはおばさんって言うけど、俺の感覚したらまるで、漫画や小説の未亡人のヒロインにしか見えない…芸能人の20代後半の女性より絶対に綺麗に思える。


「本気ですよ…俺子供の時に告白したことあるでしょう?」


「そう、だけど私、セレスくんの倍近い齢よ? セレスくん美形なんだから、可愛い子が放っておかないでしょう? ほら幼馴染の子たちだってね」


「あははっ、それなら全員ゼクトに取られちゃいました」


「あら嫌だ、馬鹿ねゼクトなんかよりセレスくんの方が絶対に良いのに。あの子たち本当に見る目がないわ、それなら、そうねセレスくんが『本当に好きな子』が出来るまで、その恋人になってあげるわ」


「ありがとう」


「良いのよ、私にとって、今まで出会った男のなかで一番素敵な子だから、寧ろお礼を言うのは私だわ」


「それでもありがとう」


俺と静子さんの楽しい生活が始まった。


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