アトラの旅

しノ

プロローグ

 バイクのエンジン音が荒野に響く。

 後ろから、大きなものが近づいてくる気配もする。

 そして、目の前に大きな影が落ちた。

 アトラはブレーキをかけ、砂煙を上げながらバイクを停める。

 後ろから追ってきていたもの――赤い巨大な飛竜が着地した。

 飛竜はまだ仔のようだ。しかし、もちろんアトラに比べれば大きい。

 ただでさえアトラは小柄だ。一見は人間の子供と間違えられても遜色ない姿をしていた。ドワーフ族特有の身体的特徴だ。

 尖った小さい耳に、小柄な体躯、凹凸の殆どない身体は、すこし褐色ぎみの肌をしていた。赤みがかった長いおさげを砂が舞う風におどらせ、砂煙が入ってかゆくなった小鼻をこすった。

 バイクを降りてきたアトラに人懐っこく鳴きながら、飛竜は鼻先を彼女の背中に押しつけた。

「かわいいね」

 アトラは振り返ってそう言うと、飛竜の首筋を撫でてやった。ゴーグルを上げたアトラの大きな緑の瞳がまだするどさのない幼竜の瞳とかちあう。

 気持ちよさそうな声を上げる飛竜。を見て、アトラは微笑んだ。

「じゃあな」

 そうアトラは飛竜に別れを告げ、バイクに乗り込む。別れを寂しがるように、飛竜はひと際高く鳴いた。

 それを背にして走り出す。

 風を切り、木々の間を抜け、岩山を越えていく。

 森を抜けると、海が見えてきた。

 青い海に白い砂浜。

 そこで彼女は足を止めた。バイクを止めると、そのまま浜辺へと歩き出した。

 ブーツを脱ぎ、波打ち際に立つ。

 太陽が眩しい。空を見上げると雲一つない青空が広がっている。

 潮風に髪を揺らしながら、大きく息を吸い込んだ。

「んーっ!」

 伸びをして、両手を広げる。

 そして、思いっきり叫んだ。

「ああ~~~~!!自由だ!!!」

 久々の自由を謳歌した。やっと自由に行動できるのだ。

 喜びを抑えきれず、思わず叫んでしまった。

 そして、ふと我に返る。

(……恥ずかしい)

 誰もいないが、子供じみた自分の行動を恥じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る