自然消滅って、あるんだ

彼方希弓

第1話〈もう忘れてるみたいだけど〉

 まだ、携帯もなかった頃の話です。




 高1 クリスマスイブ 前日


「えっ?なんで?もう遅いだろ?他につきあってる子いるから」


電話から聞こえた声は、本当に驚いているって感じ。

そうだよね。

わかってたよ。

それを聞くのが恐かっただけだ。


「ちょっと!なんでよ!ひどいじゃん!約束したのに!!」


って、

言いたかったけど、陰キャな私は、そんなこと言えなかった。


「あ、そうだよね。わかった。バイバイ」


そう言って電話を切った。

バカだ。

最後まで、いい子のフリしてる。


「ふざけないでよ!!私たち、いつ別れた?

別れ話なんてしてないよね?

他につきあってる子なんて、認めないないから!!

とにかく、明日 会って話そうよ!!」


そう言えたら、状況はなにか変わるのだろうか?

もう、終わってるって事実は覆らないだろう。

すべてがもう遅いんだ……

せめて、いい子だったって、思っててほしい。


って……


今の時点で、私とつきあってたことさえ 

もう忘れてるみたいだけど……





 中2の秋


「突然で悪いんだけど、俺、仲田のこと好きなんだ。つきあってくれないか?」


掃除の時間、水道で並んで雑巾を洗っていた。


「えっ?」

「ダメ?」


ちょっと、その石けん貸して?ってくらいの感じで言われた。


廊下では、雑巾をキャッチボールみたいに投げあってる男子がいたり、それを注意する女子がいたり、ガヤガヤしていた。


ジャーーーーーーーーーーって音が響いていた。

彼は、横から手を伸ばし、私の目の前の蛇口をキュッとしめた。

突然、無音になった気がした。


「返事、またでいいから」


そう言うと、白山君は歩いて行った。

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