青が呼ぶ

水谷駿

フィンセント・ファン・ゴッホ

一八九〇年の夏、フィンセント・ファン・ゴッホが死んだ。


ゴッホ。今日その名を聞いて知らない者はいないだろう。しかし彼は生涯を通して画家として認められることはなく、経済的に困窮し、弟であるテオの支援を受けながら創作活動に取り組んでいたという。


耳切り、半狂乱、精神不安。狂人として世間から罵倒され虐げられながらも愚直に芸術を追求し続けた孤独な天才は、或る夏の日の暮れ、パリ郊外オーヴェール、黄金色に輝く麦畑の中で自らを撃ち、この世を去った。


「何故、ゴッホは生前に認められなかったのか」


「何故、彼は死後になって画家として大成したのか」


そんなことを訊かれたところで、誰も答えられやしない。


何故なら、それが彼の運命だったのだから。


――だから、これも運命なのだ。


これから僕が遺す作品が、どのような道を辿り、どこに行き着くのか。


残念ながら、僕はその顛末を自分の眼で見届けることができない。


だから僕は、その全てを運命に託すことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る