第5話 船を造ろう(1)

 王都パスタへ着いた私達は、宿に5日分の宿代を払い更に延長も考えていると伝えているので3日ぐらい経ったら延長する予定です。

 レタは情報収集を兼ねた町の探検、アイとナミも家(神域の部屋)での作業以外は、町の散策と言う名の偵察を行っています。

 私はカスミ姉妹と家でセンサーの研究か資料の検索を行っていて宿の部屋には顔を出さないようにしています。

 やはり帝国の密偵に見つかると凄く迷惑ですから、家に籠って見つからないようにしています。


 夜みんなが集まってナミの作った美味しい食事を食べながらのお喋りです。

 今日の献立は食前酒に炭酸の入った発砲葡萄酒が出ています、此れはナミが王都で買って来たお酒の1つで姉ねがとても気に入っています。


 突き合わせの前菜としてチーズとハム(どちらも王都で買って来たものです)を包んだフリック(ジェリモネフリッカの特産品)やレタスなどのそのまま食べれる野菜が出ています。

 これに酸味の強い柑橘類の果汁をかけて食べると、ナミに言わせると”此れが食欲を高めるのでござる”そうです。


 私とカスミちゃんは冬でも出回っている、甘味と酸味の釣り合った柑橘類のジュースです。

 主菜としてナミとアイが持って来たのはパストの一種のパスト生地にひき肉や野菜を詰めて餃子の様にした物をオーブリの木の実の油で炒めトマトをたっぷり入れて煮込んだ料理でした。


 紅茶が食後に出てきました、前回は姉ねネエネに取られてしまいましたが、今回はレタが買って来てくれたのをアイが入れてくれました。

 紅茶を飲みながら帰りの船旅から船を作るとしたらどうすると話が広がって船を作る材料の話になりました。


 「鋼で作ると丈夫な船が出来るよ」と最初に妹が言い出します。

 「いや、コンクリートなどいかがでござるこちらの方が頑丈でござる」とナミ。

 「魔鉱金属ならもっと丈夫じゃないかなぁ」と妹はいいますが。


 「色々な材料が考えられますが、現実的に木材以外使えないので木材になりますよ」

 私が結論だけを言い渡します。


 これは議論の余地無く木造の他に無いでしょう。

 鋼で作るとか、鋼の板や棒が作れるのは神域内で錬金を行えば作れますが、外へ持ち出すのもその鋼板を接合するのも無理です。

 コンクリートはコンクリートを流し込む船の型枠を作れるのなら出来るかもしれませんが、でもコンクリートをその場で多量に生産できません。

 魔鉱金属ってお金も魔鉱金属もそんなにありません。


 木も船に使える木は、ケヤキ、カシ、クスなどの硬い木とマツ、スギ、ヒノキなどの比較的柔らかい木が使われていますが。

 基本的な材料はマツとスギが安くて使い勝手も良く船用として多くの部材に使われています。

 (私の世界の木とは名前は似てても同じじゃないんだよね by妹)

 (それを言うなら私の世界の木とも違うな by大姉)

 (この名も無い世界はカスミちゃんの世界とよく似ているの、物の名前やその性質が似た物が多いわ、だから木や野菜だって同じでとても良く似ているのよ by小姉)


 他の木も部分的な材料としては使われますが、マツやスギ程ではないそうで。

 どちらにしても一種類の木で作る船など、よほど小型でない限り無い、と聞いてきたレタの受け売りですがそうらしいです。


 アイが紅茶を新しく入れ直して来てくれたので話を中断してお茶を飲みます。


 レタが船を作る前に船その物について知らなさ過ぎると息巻いています。

 「船用の木材を手に入れても船は作れませんであります」

 「船については、船匠に一度話を聞くと良いで在ります」とレタは辛辣です。


 「やっぱりそうですよね、私達が船を作るのに木材から選んでいたら時間が掛かりすぎて出来ないと思うのです」

 「形が出来た物を改造するのが一番やりやすいので、中古の船を探すことにしませんか」

 と話すと。


 「餅は餅屋と言う言葉が在るのは、この為だと思いますです」

 「幾つか商人の当てが在りますので明日は少し遠でしてみますです」

 とレタには中古船を探す手がかりを知っているようです。


 「ええ、御願いするわ」中古船が見つかると良いのですが。


 次は船の大きさの目安です、50ヒロ(75m)以上の長さを持つ船はビチェンパスト王国の最大の戦艦で1隻在るそうですが、中古で出る事は無いでしょうし、価格は中古としても金貨1万枚以上するでしょうね。


 超大型の船を探しているわけでは無いので、精々小型から中型の船で10~20ヒロ(15~30m)前後のクラスを探しましょう。


 中古船の価格がどのくらいなのか商人に聞いてみる必要がありますね。


 レタも船旅の事を知りたくて商人から話を聞きに行くので、これ以上の事はレタが明日調べて来てからにしましょう。


 最後に最重要な家(神域の部屋)の性質を今回調べる機会があったので、王都への旅の途中調べてみました。


 1,家(神域の部屋)は私の身の回りに1ヶ所だけ出せるけど近ければ神力はほぼ使わないが遠くへ出すと遠いほど使用する神力は3乗の単位で増える。


 2,カスミちゃんでも姉ねネエネでも家(神域の部屋)を出せるけど、優先順は私、次がカスミ姉ねネエネとカスミちゃんが同じだけど神力を多く使用した方に出る。


 3,私が移動する馬車の中から家(神域の部屋)に入った場合、入った場所(扉を閉めた時の)から家(神域の部屋)は移動しない。


 4,3,の時私以外のカスミ姉妹が馬車に乗っていれば、移動先で家(神域の部屋)を出せる。


 5,4,の時、家(神域の部屋)を中から私が開けた場合意図しなければ3,となり、意図的にカスミ姉妹の場所に出そうとすると想定した姉妹の近くに家(神域の部屋)が出せる。


 以上から、カスミ姉妹の誰かが移動する乗り物に居る必要があるのが分かりました。

 この星は自転も公転もしているので、なぜ家の出る場所が相対的に静止した地点に固定されるのか解りません。

 恐らくですが、より大きな質量が決めてになっていると考えています。


 それに準備が必要ですが、瞬間移動紛いの事ができそうです。

 

 と言う事なので船に乗っている時はカスミ姉妹の誰かが船に乗っていなければ海の上で置き去りにされてしまいますね。

 それに姉ねネエネとカスミちゃんは無理しないで外へ出ていられるのは精々4時間程ですから、それ以外は私が外に居る必要があります。


 私にしても家(神域の部屋)に引き篭もりしたい訳ではありませんから、居心地が良いのは確かですけど、研究もありますし、外には鬱陶しいのが居ますし、あら引き篭もりするのも仕方が無いですね。


 今回船用に秘密装置を研究開発しましたので、帆と併用できる機帆船に改造する為、船の構造で竜骨以外の粗(ほぼ)全てに強度を上げる為の改造を考えています。


 主に外板では無く、内側の両側面全体に板で米の字になるように隙間なく張り付ける予定です。

 想定では、最も外側を従来の横板、その内側に竜骨と竜骨の間を竜骨の厚さに合わせて斜めに傾きが逆の2枚の板で作った合板、最も内側に縦方向に板を張ります。


 その為に板と板を繋ぐ方法に接着剤を使用しています、そうあの敵(魅了男達)が作った合板に使っていた接着剤です。


 私達で研究して、ウルの汁系(ウルの木はヴァン国にしか無いのでウルシと呼ばれる近種)を主成分とする強力な接着剤ができました、この接着剤は水(海水)に強く、直射日光にもある程度耐性がある優れものです。


 このウルシは呪いの森ダンジョン特産の魔木で、トレントの様に枝を動かして近寄る生き物を殺して土に埋め栄養にします、でもトレントの様に移動したりはしません。


 この魔木をビチェンパスト王国の人々は利用する方法を見つけて、その樹液を採取しています。


 このウルシと呼ばれる樹液もレタが町で見つけて来た物の1つです、少量でも素肌に触れると被れてしまいますが、船虫への特効品として昔から船底へ塗られてきたそうです。


 さらに船の推進力として、敵(魅了男達)が使っていた魔術旋風を付与した魔道具を水用に改造して、魔術水流の付与した魔道具を作りました。


 この魔道具は筒で出来ていて、筒の中は何もありませんただの筒です。

 しかし、筒の先端から取り入れた水を筒の中で螺旋に加速していき後ろから勢いよく吹き出します。

 その為筒の長さが長くなればなるほど強い水流を作れますし、当然使う魔力も多くなります。

 船が横移動も出来る様に筒の途中に2ヶ所左右への水流を出して船の動きを補助できるようにします。


 船の竜骨へこの魔道具を2本取り付けるだけで帆が要らない動力船が出来上がります。

 今回は帆走も出来る機帆船ですけどね。

 まだ試運転もしていない魔道具に命運を託す訳にはいきませんものね。


 後は中古船と船を改造する場所を借りれば、この計画は進める事が出来ます。

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