第3章 大人気地下アイドルは俺に夢中♡でドッキドキ!?

第28話 返し

 とある日のこと。

 俺は一人で組事務所に来ていた。

 組にいた連中からいつものように挨拶をされた後、


「若、お荷物お持ちします」


 と、 今日も笑顔がチャーミングな毒島が声を掛けてきた。

 俺はリュックサックを背負い、紙袋を手にしていたが、その申し出を断る。


「いや、気にしないでくれ。ところで、カシラはいるか?」


「はい、カシラは個室にいらっしゃいます」


「そうかい、それじゃあ邪魔するぜ」


 そう言ってから、俺はカシラがいつもいる個室の扉をノックした。


「おう」というカシラの返事を聞いてから、俺は部屋に入る。


「おう、おめえか。まぁ、座れや」


 カシラはそう言って、自分が座っている体面にあるソファを指さす。

 俺はその言葉に従って、腰を下ろした。

 

 机の上に置いていたタバコを、カシラは口に咥えた。

 俺はカシラ愛用のデュポンライターを手に取ってから、開く。

 独特の開閉音が耳に届いた後、火をつける。


 カシラは怪訝な表情を浮かべてから、溜め息を吐く。

 それから、渋々といった様子で、加えた煙草に火をつけた。

 

 紫煙をくゆらせたカシラに、灰皿を差し出すと、


「カタギの小僧が、一々変な気を回してんじゃねぇよ」


 と、苦言を呈した。


「ヤクザじゃないってだけで、カタギってわけでもねぇだろ、俺はよ」


「屁理屈こねてんじゃねぇよ」


 そう言ってから、吸いかけのたばこを灰皿において、カシラは俺に問いかける。


「それで? 今日は何の用でここに来た?」


「カシラに頼みたい仕事があってな」


 いつものように、「カシラじゃなくてお兄ちゃんもしくはアニキな」と呟いてから、


「仕事……ねぇ」


 と、カシラは大きく溜め息を吐いた。


「こいつの処分を、任せたい」


 そう言ってから俺は、リュックサックの中身を見せる。


「こいつは……覚醒剤やくか」


 すぐに正体が分かったカシラに、俺は頷く。

 俺は手にしていた紙袋を渡す。その中には、札束が詰まっていた。


「それで、これが依頼料。前金で1,000万、後金でもう1,000万だ」


 俺の言葉に、カシラは大きく溜め息を吐いた。


「この金と覚醒剤は、おめぇがこの間ナシつけた半グレと取り巻きの社長から搾り取ったもんだろ?」


「覚せい剤はそうだな。だけど金は、賭けで儲けたもんだ。あと100兆以上、搾り取らなきゃいけねぇんだ」


「……100兆?」


 カシラは何かの聞き間違いと思ったのかそう呟いていたが、俺はそれに答えずに告げる。


「覚醒剤の処分っつー面倒ごとなんだ。金を惜しむつもりはねぇ」


 俺が言うと、カシラは真っ直ぐに俺を見てきた。


「……今回の抗争で、おめぇの息のかかった半グレはさらにデカくなって、資金提供をする会社も出来たってわけか。兵隊も金も、しばらく困ることはねえってわけか」


 真剣な表情で、カシラは言う。


「ここ2~3年で櫻木會ウチに入ってきた若い連中も、その半グレ組織の元構成員だ。今のところは若頭カシラである俺の言うことをよく聞くし、頭も切れて腕も立つ連中ばかりだが、いざとなりゃ俺じゃなくおめぇの命令を優先するんだろうな」


 それから、カシラは俺のことを睨みつけてから問いかける。


「仁。てめぇは一体……何してぇ?」


「俺は、あんたを日本一の組長にする」


 カシラの問いかけに、俺は即答する。


「あんたがいなけりゃ、俺は数年前に野垂れ死んでたろうよ。だからあんたは俺にとって、唯一の家族・・・・・で恩人だ。ちょっとやそっとじゃ、その恩は返せねぇ。……だから、俺は優秀な手駒を櫻木會に送り込んでカシラの手助けをさせてるし、『サルビア』をデカくして得た金を理由をつけてはあんたに渡してる」


 俺はこれまで、カシラに言ったことのなかった『夢』を口にする。


「俺はカシラに、日本一のヤクザになってもらう。その後、俺はカシラから盃をもらって、櫻木會とあんたを支える。……それが俺の夢なんだ」


 褒めてもらおうなんて考えはなかった。俺がそうしたいだけだったから。

 だけど……。


 カシラは俺の言葉を聞いて、これまで見たこともない、悲しそうな表情を浮かべていた。

 それは、あまりにも予想外だった。


「仁。……てめぇが俺の敵にならないことを、俺は何よりも祈ってるぜ」


「俺が、カシラの敵……? 何言ってんだよ、そんなのありえねぇよ」


 俺の呟きに、カシラはろくに吸っていなかったタバコを灰皿に押し付け、火を消した。


「とりあえず、このブツは責任もって処分をしておく。……要件がそれだけなら、もう帰りな」


「お、おう……」


 神妙な様子のカシラにそう言ってから、俺は立ち上がり、部屋を後にする。

 


 事務所を出てから、待たせていた楓の運転する車に乗り込む。


「お疲れ様です、若」


「おう、待たせたな」


「いえ、お気になさらないでください」


 俺の言葉に、楓はそう答えたものの、


「それで? 急に呼び出したくせに車で待たせるって、一体何の用だってんすか、若~?」


 生意気な口調で、隣に座るそいつは俺に向かってそう言った。


「機嫌を悪くしてんじゃねーよ、鵜崎うざき。おめーには、俺をコケにした罰を与えなきゃなんねーからよ」


 俺の言葉に、彼女は肩を震わせて視線を逸らした。


「……あたしのこと、変態に売るつもり?」


「未成年の女を変態に売るなんて、そんな酷いことしねーよ」


 俺はそう言ってから、彼女にフードを被せる。

 俺をコケにしまくった、にっくきフード女・・・・の頭をポンポンと叩いてから、俺は告げる。


「とりあえず、地下アイドルやってみよーか」

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