第45話 カード切れ

 どうする……!? 残り一枚で3人を同時に守り切るのは不可能だ!


 <液状化>はその特性上、僕自身にしか使えない。守れるのは僕ともう一人だけ。

 つまり――必然的に誰かを切り捨てなければいけなくなる。


 もう、時間がないっていうのに!!


「<黒明ダーク・マター>」


 オルドリッジが技を発動する動きに入る。たちまち闇のオーラが奴の剣に吸い込まれて行くのが見える。


 決められない。ミカにアイシリア。どっちだって大事だ。でも、切れるカードは一枚!


「……ピックシーフを五回発動!」


 苦肉の策として、ロック鳥のカードを3枚使用する。これで奴の剣を奪えば――、

 という甘い考えはあっさりと砕かれた。5枚のカードは一瞬で消え、残酷にもオルドリッジの剣は微動だにしない。


「無駄だ! 今さら何をしようと、死は避けられない!」


 くそっ、このままじゃ――、


「レシオ、大丈夫だよ」


 そう言いだしたのはアイシリアだ。


「私には、あいつの攻撃を防ぐ技があるの。使用する魔力量が多いから一度しか使えないけど――今使おうと思う」


「本当に!?」


「本当だよ。だから、そのカードはミカに使ってあげて」


 なら……やるしかない!


「ジャストガードと液状化を発動!」


 黒い斬撃が襲い来る中、僕は二枚のカードを使用した。


 鳴り響く竜巻のような音と、真っ黒になっていく視界。

 斬撃の嵐が止んだ後、僕の目に入ってきたのは――、


「なん……で……」


 血まみれで倒れるアイシリアの姿だった。


「アイシリア! そんな……攻撃は防げるんじゃなかったの!?」


「ごめんね、そんな技なんてないの」


 考えてみればおかしかった。そんな技があるなら、最初の攻撃で知らされてもよかったはずだった。

 なのに――焦っていた僕は、彼女の言葉を信じてしまった。


「レシオ、言いたいことはいっぱいあるけど――今までありがとう」


「何言ってるんだ! それは戦いが終わってからだろ!」


「レシオには謝りたいことがいっぱいなんだ。なのに、ごめんね。こんな形で終わりなんて」


「だから、それは――」


 その時、アイシリアは懐から何かを取り出し、僕に握らせた。

 それは、一枚のカードだった。なんでアイシリアがカードを? と疑問に思っていると、彼女が微笑む。


「これを持ってれば、いつかレシオに会えるんじゃないかって思ってたの。でも、もういらない。こうしてレシオに会えたんだから」


 アイシリアの目が、ゆっくりと閉じていく。


「絶対勝ってね、レシオ――」


 深く眠りに入るアイシリア。僕は彼女を床に眠らせると、オルドリッジに向き合った。


「心配するな。お前もじきに彼女の後を追うことになる」


「違う。アイシリアは疲れて眠っただけだ」


「認めろ! 炎の勇者は死んだのだ! あれだけの血を流せば、即座に応急処置をしなければ死ぬに決まっている!」


「死なせるわけないだろ! 応急処置は……これからする!」


「どうやってだ? お前はこの私に葬られるのに」


 僕はアイシリアから貰ったカードをケースにしまう。


「僕は賭けが強いんだ。フィーテに無理を言ったときも、なんだかんだで勝ってきた」


「なにが言いたい?」


「賭けをしよう。僕とお前で。アイシリアが死ぬか、僕がお前を倒してアイシリアを死なせないか」


 そう言いたくなるのはわかる。オルドリッジは今、勝利を信じているはずだ。


 でも……僕もそれと同じくらい、こいつに勝てると思っている。

 ――切り札は、揃っているんだから!


「ならば、まずはこの攻撃を乗り越えることからだな!」


 真っ黒な風が剣に宿っていく。<黒明ダーク・マター>だ。


「死して完全となれ! 光の勇者ァァァ!!」


 斬撃が迫ってくる。空を切り裂いてしまいそうな、強烈な威力の一撃を――、


「クリティカルヒット」


 僕は、剣で切り裂いてかき消した・・・・・


「な……っ!?」


 初めて驚いてくれたな。その顔が見れてよかったよ。オルドリッジ。


「なぜだ!? なぜ<黒明ダーク・マター>がお前に斬られた!?」


「自分で気づいてないのか? 剣の切れが悪くなってることに」


 僕は、<黒明ダーク・マター>について少し考えていた。

 あれだけの威力の技があるなら、最初から連打しておけばすぐに敵を倒すことが出来るはずだ。


 でも、そうしなかった。それはきっと、<黒明ダーク・マター>に弱点があるからだ。


「<黒明ダーク・マター>の弱点。それはお前の体力を削っていることだ。それだけ強力な攻撃を放てば、必ず反動が来る」


 そして、そんなデメリットがある攻撃を繰り返したのにも理由がある。


「くっ……まさか既に……!」


 その時、オルドリッジは片膝を付く。


「お前は自分の身体能力の限界を引き出していた。さらに<ポイズンストライク>の毒に冒され、早くに決着を付けようとしていた」


 どうやら、奴の予想よりも少しだけ早くガタが来ていただけど。


「形勢逆転だ、オルドリッジ。お前は追い詰められていたんだよ」


「形勢逆転だと……? ようやく対等になった程度で、いい気になるな!」


 オルドリッジは立ち上がると、烈火のごとき勢いで肉薄してくる。


 二本の刃が、交じり合う。

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