第30話 ゴーレムVSフィーテ!

 ドッペルゲンガー。そのモンスターは、対象とそっくりの姿に変化することが出来る。

 戦闘能力まではコピーできないものの、五感がキャッチする情報を全て、寸分の狂いもなく真似することが可能だ。


 フィーテはそこに目を付けた。


「「「「「「「「「「さあ、どれが本当のアタシかな!?」」」」」」」」」」


 突然の異常事態に、ゴーレムは呆気に取られる。無理もない。人数が急に爆発的に増えたのだから。


 フィーテはゴーレムの周りをグルグルと走り回る。どれが本体なのかは僕にもわからなくなってしまった。


「はあッ!」


 ゴーレムが戸惑っている瞬間、背後に回ったフィーテがゴーレムの背中に飛び蹴りを入れた。

 ゴーレムはまるで石につまずいたようにして地面に倒れ、ダンジョンに地響きを起こす。


 レベル4のフィーテがこれほどの威力のある蹴りを出すことはできない。


 今のはドッペルゲンガーがフィーテの能力強化バフの効果を受けたものだ。


「ゴオオオオオオオオオ!!」


 ゴーレムは声を上げて立ち上がると、周囲のフィーテたちをぐるりと見回し、大きく吠えた。


 この状況。ゴーレムは、この10人が強化されている偽物であることに気づいているだろう。


 つまり、ゴーレムはこの中から本物の1人を倒し、能力強化バフを止める。

 フィーテはゴーレムに本物を見つけられる前に、奴を倒す。


 圧倒的に自分より強い敵を前に、ドッペルゲンガーのカードだけで優位に立ち回る。

 あの状況でドッペルゲンガーを選び出したフィーテの観察力と、作戦を立てる思考力。


 やはりフィーテは天才だ!


「ゴオッ!?」


 攻めあぐねていたゴーレムに、再び背後のフィーテが蹴りを入れる。

 ゴーレムは今、10人のフィーテに囲まれており、少しでも隙を見せれば攻撃が飛んでくる状況だ。


「早くしないとやられちゃうよ~?」


 挑発的に笑うフィーテに、ゴーレムは憤り始める。


「ゴオオオオ!」


 ゴーレムはまず、目の前のフィーテを岩のような拳で殴りつけた。

 フィーテの体はまるで綿のように軽く吹っ飛び、ダンジョンの壁に叩きつけられる。


 フィーテは壁からずり落ちると、地面にぐったりと倒れ込んでしまった。

 ――しかし、次の瞬間、フィーテの体から急速に色が失われていき、黒い素体のようになってしまった。


「騙された騙された騙された騙された、アタシがアタシがアタシが……」


 あれがドッペルゲンガーの本当の姿だ。体はまるで漆を塗られたように黒く、まるで人の影のような見た目をしている。


「ハズレ~。ペナルティを受けてもらいます!」


 ゴーレムがドッペルゲンガーの方を見ていたその時、周囲を取り囲んだ9人のフィーテが一斉にゴーレムに殴りかかった。

 ゴーレムはまるで油に揚げられた魚のように身をよじり、9発のパンチを受けたのちに地面に尻もちをついた。


 全力で一人を叩かなければ、ドッペルゲンガーが馬脚を現すことはない。

 しかし、攻撃を外せば、残ったフィーテたちから総攻撃を食らう。


 このゲームのルールを理解しつつあるゴーレムが、次に取る行動は――、


「ゴゴゴゴゴゴゴ!!」


 なるべく早く、目の前のフィーテを倒しきることだった。


 全力で目についたフィーテを叩き潰し、残ったフィーテたちから攻撃を食らう。

 最も地道であるが、それ以外に攻略法はない。おそらくゴーレムもそう気づいたのだろう。


 ゴーレムの拳がフィーテを叩き潰す。

 ドッペルゲンガーのうわごとが聞こえ、残ったフィーテから総攻撃を食らう。


 ゴーレムの拳がフィーテを薙ぎ払う。

 ドッペルゲンガーのうわごとが聞こえ、残ったフィーテの嵐のような攻撃を浴びる。


 何度そんなことが繰り返されただろう。フィーテはとうとう、残り2人になってしまった。


「だいぶ頑張ったねー。そっちももう限界じゃない?」


「ゴゴ……ゴゴゴ……」


 フィーテたちの猛攻をほぼフリーで受け続けたゴーレムは、かなり疲弊した様子だ。

 あれほどまでに頑強な魔人が、こうも追い詰められるのか。


 だが、追い詰められたのはフィーテも同じだ。

 残り2人ということは、受けられる攻撃は最大であと1発。1発耐えたとしても、次は本物のフィーテ1人になってしまう。


「フィーテ! もうよく頑張ったよ! あとは僕が……」


「大丈夫だよ、レシオ! アタシは絶対――勝ってみせる!!」


 2人のフィーテが、同時にゴーレムに飛び掛かる。

 ゴーレムはしっかりと目の前の2人を見極めると、望みをかけて拳を振り下ろした――!


「フィーテ!!」


 片方のフィーテが壁に吹っ飛ばされ、残ったフィーテがゴーレムの顔面にパンチを叩きこむ。

 ゴーレムの体勢が大きく揺れる。僕は殴られたフィーテに視線を奪われた。


「痛い痛い痛い痛い――デモ、痛いくらいが気持ちいい気持ちいい気持ちいい」


 よかった、あれはドッペルゲンガーだ。


 ということは、残ったあれが本物のフィーテ!!


「……ゴゴゴゴゴゴ!!」


 ゴーレムはもはや立っている体力もないらしく、最後の力を込めて本物のフィーテに拳を振るう。


「逃げろ! フィーテ!」


 僕は叫んだ。でも、フィーテは制止を聞かず、ゴーレムに向かっていく。


「はあああああああッ!」


 ゴーレムとフィーテの拳が、交わった。


 ゴーレムはその場に膝を付く。体はひどくふらついていて、このまま倒れるのだろう。

 一方、本物のフィーテは強烈な殴打を生身で受け――壁に寄りかかる形で倒れていた。

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