第4章 みんな同じソフトを遊んでいるはずだ!

 テレパスの保有者を集めたとしても、精度にバラつきがあるかもしれないね。

このまま「③本制作(α版)」に入ってもいいのか?

 ちょっと考えてみよう。


 ここでゲームから少しの間話の内容を逸らすが少々付き合ってほしい。

 君は漫画を読んだことがあるだろうか? そして「漫画の読み方が分からない」という声を耳にしたことはないだろうか?


 漫画が読めないという人は昔から一定はいただろうが、よくよく考えてみると確かに漫画の読み方は複雑だ。いてもおかしくはない。

 ピンとこない人のために、簡単に漫画の読み方をまとめてみよう。


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■漫画は、基本的に右上から左に上に向かって読む。ただし、本を開く向きによって読み順が変わることがある。

・一般的なもの(『少年ジャンプ』や『月刊アフタヌーン』等)だと、右開きなので右から左に読む「逆Z文字順」。

1ページ漫画は、一般的な逆Z文字順になるものが多い。

・漫画以外の雑誌連載のもの(ファミ通連載の『いい電子』等)やローカライズされたもの(『フロムヘル』、『ブーンドックス』等)だと左開きなので左から右に読む「Z文字順」。


■横に並べられたコマの高さに沿って、上から下へと読む。

・例えば、コマを囲うの下線の横の高さだけを見た際に3段重ねになる場合はこうなる。

①一番上の段の右端のコマ→左端のコマを読む

②真ん中の段の右端のコマ→左端のコマを読む

③一番下の段の右端のコマ→左端のコマを読む。

もし次のページがある場合はまた一番上の段から順番に読み進めることなる。

・「Z文字順」の場合は左端のコマ→右端のコマとなるが、段ごとに読むのは変わらない。

・演出によっては枠がないものがあるが、その場合は吹き出しやコマの位置で判断する。

・応用として、キャラクターや出来事の動きに合わせて変則的なコマ割となる場合も同様。基本は右から左になるようになっている。


■段を突き抜けた縦割のコマが間に挟まる場合は、縦割りのコマを囲う下枠の線が所属する段に来るまで読まない。

・ただしセリフの吹き出しによっては戻ることもある。



■4コマ漫画の場合、縦長は上から下に進む。

・田の文字のような横2列×縦2列の場合は、読み方が2パターン存在する。

右上から下に行き左上に進んで下に行く形式と、右上から左に行き右下に進んで左に行く形式。

・作者によっては視線同線の説明がタイトルや枠外部分に描いてある。

・読み順の番号を振ることもある。


■吹き出しの形によって、テキストの解釈が変わる。

・丸い枠は声に出しているセリフ。強調等の効果はなく、一般的に会話をする際の音量。

・ギザギザの枠は声に出しているかつ、怒鳴るといった強調のある大音量のセリフ

・四角形はナレーションおよびモノローグ。小説でいう地の文で、第三者視点になることもある。

・線を繋げず、細かく短い線で丸型になっているものは心の声のセリフ

・枠で囲っておらず、テキストだけになっているものは、演出によって変わる。モノローグ、回想中の会話再生など

・効果音以外の手書きのテキストは、枠外にはなるがセリフとなる

他にもあるがいったん割愛。


■動作を補助する線の形によって、演出の解釈が変わる。

・直線的だったり角ばっていたりする線で描かれた軌跡は、素早い動き

・丸っこかったり滑らかだったりする線で描かれた軌跡は、緩やかな動き

・人物やアイテムを中心に、直線が広がっていたら注目を集めるための演出

他にもあるがいったん割愛。


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 最後の方は面倒で省略したが、これらを理解して初めて漫画を楽しめるわけだ。小説に比べるとなかなか高度なことをしている感じがする。


 大半の人々はこれらのことを『日本の歴史』といった学習用漫画なり、新聞の4コマ漫画なり、『てれびくん』や『楽しいようちえん』などで知らず知らずのうちに慣れていくので、家庭内の規制が厳しすぎない限り漫画を読む土壌は育っていく。

 『少年ジャンプ』といった有名な漫画雑誌はこの土壌がある前提だから、わざわざ「漫画の読み方」のチュートリアルをしなくても問題ない。

それに、たとえ読めなくても、雑誌のターゲット層の年齢に見合った読解力があればセリフの繋がりで次のコマを探すことができる。

 なお同じ漫画のジャンルに属していてもゲームブックの場合は手に取る頻度はかなり少ない。

故に読み方の注釈がついているし、分かりやすく次に読むべきコマを提示している。(〇ページの11番のコマに進む みたいな感じ)。


 では、ゲームの方は土壌はどうだろうか?


 ゲームは漫画と違って1個1個が別物だ。シリーズ物はあるにせよ、何かしらの変化はある。

 かの名作『ドラゴンクエスト(略:DQ)』だって、初代の頃はわざわざメニューを開かないと村人に話しかけることができなかったが、3くらいにはAボタンを押すだけで話せるようになった。

 『ファイナルファンタジー(略:FF)』は作品ごとにシステムが大きく変わるのが特徴だ。魔法を放つとしても、7はマテリアの装着、8はドローしてストック、9は装備品から取得と千差万別だ。

 『ポケモン』も特性やもちものがついたし、状態異常の有無で威力が変わる技も登場した。進化の条件も様々だ。秘伝技を覚えたポケモンを連れ歩かなくてもよくもなった。

 おわかりの通り、シリーズ作品だとしても、漫画と違って1からそのゲームの遊び方を習得しなければならないのだ。

 知識の流用自体は可能だが、持っている知識と同じ仕組みかは調べる必要がある。

作品内で「〇〇とは、一定時間自動でライフを回復できる魔法で、FFでいうリジュネと同じです」なんてテキストを出すことは出来ないからね。


 例として、『いただきストリート(以下いたスト)』と『マリオパーティ(以下マリパ)』で考えてみよう。おっと、極端な例を出すなと怒らないでね。

 この2つはボードゲームというジャンルに属しているのだから、大枠として見たら漫画と同じ。

 どちらもすごろくのようにマップとマスがある。ただしゴールマスというものはなく、全てがつながった、レースゲームのコースに近い造りのマップ構成だ。

サイコロを振り、出た目に合わせて進み、到着したマスによってイベントが起こるのも同じ。

運要素が強く、友情破壊ゲーであることも共通している。

 でも、プレイすれば分かる通り、この2つは全くの別物だ。

ルールから操作、攻略の考え方はまるっきし違うのだ。


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■『いたスト』の操作、攻略

 『いたスト』でプレイヤーが目指すのは「資産を目標金額まで増やす」ことだ。

『いたスト』の場合、マスの上には店があり、それを購入することで、他プレイヤーがそのマスに止まったときに買物料を取ることができる。

 所持している店に増資をすることで買物料の値段を上げることができ、さらにはマスが所属するエリアの株価も上昇する。

例えば、1株8Gのエリアを99枚所持した状態で増資していき、1株20Gにもなれば792G→1980Gと大儲けできる(※増資額分のマイナスは無視してます)。

逆に株を10枚単位で売ると、株価は下がり上昇率も減ってしまうので、相手を邪魔する手段にもなる。

 同じエリアに自分が所持する店が複数ある場合、買物料が増えるし増資できる金額も増える。基本的に1エリアにつき4軒あり、もし他プレイヤーが所持していても、高額な料金を払うことで奪うことも可能だ。

 マップ上にはトランプで使われる4つのマーク(ハート、ダイヤ、スペード、クローバー)を全て集めて銀行に行くと賞金(サラリー)を得ることが出来る。賞金は所持している店の数や店の価格によって増額する。

 こうしてプレイヤーは、マークを集め、店の買い物料の値段を上げ、株価を変動させ、目標金額まで貯めて優勝を目指すゲームだ。

 自分の店が多くあるエリアの株を買うのか。それとも他プレイヤーのエリアの株か。増資するタイミングはいつか。高額な店をいかに避けられるか。店を奪うタイミングはいつか…。

 戦略としては、所持している店の数に応じて刻々と変わっていく。


■『マリパ』の操作、攻略

 『マリパ』でプレイヤーが目指すのは『スターを誰よりも多く所持する』ことだ。

スターはキノピオから20コインで交換することが出来る。キノピオの位置は誰かが取引してスターを獲得するとランダムで変わるため、こいつにいつ出会うかが読めない。故にとにかくコインを貯める必要がある。

 『マリパ』の場合、マップにあるマスの役割はほぼ固定となっているので、色で判別できるようになっている。青はコイン3枚ゲット、赤はコイン3枚マイナス、緑はイベント発生で例えばマップのルートが変化するなど。

 全プレイヤーの行動が終わると、止まったマスの色に合わせてランダムでミニゲームが開始される。全員同じ色なら、みんなで対戦および協力、青と赤で別れるならその組み合わせでチーム戦になる。

 そしてミニゲームに勝利すると、大量のコインを獲得できる。

 故に戦略としては、ミニゲームのルールとコツを掌握し、とにかく勝利することになる。

シリーズによっては優位に進めるアイテムも登場するが、基本的にはミニゲームの勝敗が大きい。


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 こうして比べてみると分かる通り、ボードゲームの土壌もクソもない。

あるのは、『いたスト』の土壌と『マリパ』の土壌だ。ジャンル全体の土壌ではないのだ。

空地の改築によるインサイダーの知識があったとしても、『マリパ』では全く役に立たない。逆にミニゲームの知識が豊富でも、『いたスト』のチョコボの森でどこでもカードを毎回当てることは出来ない。


 『マリパ』を遊んでいた者が、説明もなしに『いたスト』で優勝できるのか?

同じボードゲームの『カタン』をすぐに遊べるのか? 『人生ゲーム』で億万長者になれる?

 答えは見えてるね。

 遊んできたゲームは違うのだから、勝手が分かるわけがない。


 「『マリパ』と『いたスト』という極端な例だから言えるんだ」と思うかもしれない。

それなら、『DQ』/『ポケモン』/『FF』で比べて見るといい。


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■たたかう(『ポケモン』の場合はわざ)を押したら、どうなるか?

 『DQ』ではキャラが「設定されためいれい」に合わせて自動で攻撃する。個別で選びたい場合、「めいれいさせろ」を選択しなければならない。

 『ポケモン』は次に技を選択し実行する。ただしPP(要は技の出せる回数)がない場合、実行はできない。またバッジ所持数や特性によって意図的に失敗することがある。

 『FF』は対象を選べて攻撃できる。ただしコマンド選択中に敵に攻撃されて何らかの状態異常になった場合、攻撃を実行することが出来なくなることがある。

※シリーズによって異なります。あしからず。


 余談だが、『リンダキューブ アゲイン(PS)』というゲームの取り扱い説明書には、当時のRPGがランダムエンカウント(いつ敵と遭遇するか分からず、いきなりバトルに進む形式)が主流だったために、テストプレイした人がフィールドに出た途端うろうろし出したというエピソードが書かれている。

 なお『リンダキューブ アゲイン』はシンボルエンカウント(敵が可視化されており、それに接触するとバトルに進む形式)になる。


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 さて、前置きが長くなったが、このお話はクソゲーを作るためのエセ指南だ。

これまで挙げたような色々なゲームを遊んできたプレイヤーの土壌、小さい頃に2~3本しか触っていないプレイヤーの土壌、ある程度有名作品を触ってきたプレイヤーの土壌、ある1ジャンルを極めたプレイヤーの土壌…。

 クソゲーを作りたいならば、みんな同じ土壌を持っていると考えよう。

 そして「基本的な説明」の表示を省くのだ。


 ではここで質問だ。

PS4のコントローラー(デュアルショック4)で「キャラクターの移動」に宛がうボタンってどれだろう?


そう、当然「左スティック」だよね!

2D、3D、全ジャンルに関わらず「左スティック」に決まっている! 全人類の常識!

「十字キー」で操作できるなんて、思う方がどうかしてるよ!

だから、「キャラクターを動かすには左スティック(該当箇所の説明絵付属)を進みたい方向に倒しましょう」なんて文章は出さなくてOKさ!

「移動=左スティック」の文字だけでいいよ! アイコン絵はいらない。

どれが左スティックか分からない? 冗談はよせ、触っていれば分かるはずでしょ!


 この考えを、初心者向けのゲームに取り入れるのがクソゲー制作者だ。

コントローラーをいじるのが怖い、という感想を持つはずがないと思っている。


 さらに質問だ。

R3、L3ってどこにあるボタン? 長押しって何秒押すの?

ノーツって何? 譜面って何? バフ、デバフって何のこと? C-EVってなんの略?


 ご存知の通り、全ての層を救うことは不可能だ。

「出来ない層」をどこまで救うのかを決めなれば、ゲーム全体のガイドも差が出てちぐはぐになってしまう。

 黒沢清監督の名作『カリスマ』にも描かれた通り、「1本の木を救うのか、見捨てて森全体を救うのか」を念頭にいれよう。


 マニア向けと決めたらなら、初めてゲームを遊ぶ人が手を出したとき、どこまでサポートするのか?

 理解していない状態でコントローラーをいじることに躊躇するプレイヤーは切り捨てるのか?

 娯楽の溢れた現在、初心者向けと言っておきながら、キャラを動かすにもわざわざ調べなければいけないゲームにプレイヤーは耐えきれると思う?


 そんなプレイヤーはいない。何故って、みんな同じ土壌があるのだから!


 メッセージウィンドウ表示中にAボタンで進むの表示やボタンアイコンをなくしたり、矢印の側に対応するボタンのアイコンを載せないようにしよう。


 お約束がターゲットにしている層の全員に通じると信じよう。初めて触れたとしても、理解できるはずさ。

だって先人がそうだったもの。


 それがクソゲーへの第一歩なのだ。

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