捕食 第7章

 「ゆーた、世界各地のパンデミック対策の動画、まとめてくれた?」


 「うん。まとめたよ。現地の映像とかはないから、イメージ映像を付けたよ。動物を殺害しようとする人たちが、動物に襲われて、殺されて、食べられる、ということが次々と起こってるらしい。まるで『怪奇現象』のように恐ろしいよ。」



 『インフルエンザパンデミック関連のニュースです。依然として感染者数死者数ともに、増加の一途を辿っています。鶏舎けいしゃ牛舎ぎゅうしゃの焼却の際、自身に灯油がかかって火が付き、重度の火傷を負ったのち死亡する事故が相次いでいて、感染源の焼却がしづらい状態になっています。全国各地の病床は満床で、インフルエンザ患者の受け入れが難しい状態が続いています。今週一週間の全国のインフルエンザ感染後の死者数は十万人を超えています。』


 「・・・どうなっちゃうんだろうね。」



 『続いて世界各地の話題です。世界各地で猛威を振るっているインフルエンザ。アフリカではライオンインフルエンザ、ヒョウインフルエンザ、ゾウインフルエンザがパンデミックの様相を呈していますが、日本と同様に、感染源とみられる動物の殺処分が難しい状況、とのことです。』


 「僕らはその理由も、詳しく調べたけどね。」



 『鹿島かじま特派員と中継が繋がっています。鹿島さん?』


 『はい。現地の保健局によりますと、殺処分担当者が、ライフル銃を持って出掛けたきり戻って来ない、という事件が相次いでおりまして、殺処分の現場で何が起きているのか、取材班が取材を・・・・・・・・・・・・。』


 『・・・鹿島さん?・・・鹿島さん?聞こえますかー。』




 『・・・キャー!』




 『鹿島さん、鹿島さん、聞こえますか?』


 『・・・えー、今、外で悲鳴が聞こえました。外の様子を見てみます・・・えー、状況をお伝えします。街中の道路にですね、今、野生のライオンが歩いておりまして・・・。』




 『キャー‼』





 『映像、届いておりますでしょうか。これは一体、どういうことなのでしょう。・・・あ、今ライオンが、急に走り出しました!ライオンの前方を、女性が走って逃げています。』


 『映像、届いております。・・・ちょっとこれ、大丈夫なんでしょうか?』


 『もう少しで追いつかれそうです。・・・あ、追いつかれた!あああっ!・・・どうやらライオンは、女性に噛みついたようです。・・・辺りにおびただしい血飛沫ちしぶきが飛び散っています!』




 「・・・げげえ~・・・。」


 「・・・すっげーことに、なってんな・・・。」


 「怖い・・・。」




 『今、カメラが捉えた映像です。あの一匹のライオンの後ろから、多くの動物の群れがついて来ています・・・一体、何頭ぐらいいるでしょうか。ざっと・・・百頭はいるようです。まるで、デモ行進のように、ゆっくりと、道幅いっぱいに道路を練り歩く、といった状況になっております!』


 『緊急事態じゃないですか!』


 『もう少し、カメラを回してみます。』


 『この時間、予定を変更して、引き続き、現地の様子をお伝えいたします。なお、この時間に予定されていた”木曜名作特等席『湯けむり殺人事件』”は、・・・。』


◇◇◇


 『何でしょうか?・・・サル・・・でしょうか?動物の群れから、大勢のサルが飛び出して、猛スピードで人間を追いかけています。』


 『サルですか?』



 『あああっ!大変です!大勢のサルたちが、人間の歩行を妨害するだけでなく、・・・体に乗ったり、引っ掻いたり、噛みついたりしています!』


 『鹿島さん。こちらにも映像が届いているのですが・・・これはもう、緊急事態じゃないですか!』




 『ギャー!』



 『ワー!』




 『大変です!サルたちが足止めをしている人々に、ライオンやトラが、猛スピードで駆け寄って・・・かなり激しく噛みついているようです!』


 『映像届いています・・・かなり激しい惨状さんじょうと化しているようですね。』



 「うわっ、えぐいな。」



 『ライオンやトラが、・・・人肉を食べています!ライオンやトラが、むさぼるように人肉を食べています!街の道路が、大量の血飛沫ちしぶきで、赤く染められていきます。・・・まるでスペインの”トマト祭り”のようです!・・・ぐったりとして・・・もう息をしていない人も見られます。』


 『一旦、コマーシャルです。』


◇◇◇


 『ブルルルルル・・・。』


 『戦車です!戦車が現れました!』


 『やはり鹿島さん、生身の人間では対処できない事態になっていますからね。戦車で対処していくしかないのでしょうね。大統領命令なのでしょうか。』




 『ズドーン‼』




 『戦車が今、大砲を撃ちました!戦車が今、大砲を撃ちました!・・・一部、動物に命中したでしょうか。』




 『バサバサバサバサ・・・。』




 『何でしょう。空に・・・鳥の大群が現れました!何の鳥だろ。とても大きな鳥・・・わし・・・でしょうか?』


 『・・・鷲、のようですね。』


 『今、鷲の大群が・・・戦車の上の方に、カタマリを作って旋回しています。』


 『・・・何故、戦車の上で、旋回しているのでしょう。威嚇、ですかね。』




 『鷲の大群が、何かを落としています。・・・フン・・・でしょうか。次から次へと、鷲の大群が、戦車めがけてフンを落としているようです。』




 『ズドーン‼』




 『また戦車が大砲を撃ちました。しかし、動物を狙ってはいなかったようです。外しました。』


 『戦車は動物に近づいた、というのに。どういうことでしょうかね。』



 『先程の鷲のフンですが、もしかすると、照準眼鏡しょうじゅんめがねにかかってしまったのかもしれません。照準器しょうじゅんきが正常に作動できない状態になっている可能性があります。』




 『ドスン、ドスン、ドスン、ドスン・・・。』



 『おーっと!ゾウの大群がやってきました!どのくらい、いるでしょう。・・・凄い大群です。五十頭はいると思われます。戦車の後方に近づいていきます。』


 『戦車砲せんしゃほうの向きを、百八十度変えましたね。』





 『ズドーン!』




 『パオーン!』



 『一頭のゾウに、大砲が当たったようです!』


 『・・・・・・ドサッ。』


 『大砲に当たったとみられるゾウが今、倒れました。』






 『・・・・・・・・・ドドドドドドドドド。』




 『ゾウの大群が突然、走り出しました!挑発されたのでしょうか?』






 『ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。』




 『ゾウの大群は、一斉に、戦車めがけて突進しています。』





 『ドスッ。・・・ドスッ。・・・ドスッ。』



 『ゾウが一頭、また一頭と戦車に近づき、戦車が完全に取り囲まれました!身動きが取れない状態になっています!戦車の上に横倒しになっているゾウ、戦車の上に乗ろうと、足を動かしているゾウ、戦車の横でタイヤに身体を擦りつけているゾウ、ゾウは様々な行動を取り、戦車の行く手を阻んでいます!』


 『戦車の大砲は、長いですからね。至近距離で取り囲まれた場合、攻撃できませんよね。』




 「すげーな。”戦車”対”ゾウ”。」


 「なんか、形、似てね?」


 「戦車の”戦車砲”と、ゾウの”鼻”だけだろ、似てんのは。」





 『・・・何か、飛び出してきました。・・・サル、でしょうか?・・・後ろから数十匹ものサルが、リーダーとみられるサルのうしろについていっているようです。・・・やはり、戦車の方向に向かって、一目散に走っています。』



 『サル、物凄い速いですね。』




 『戦車のハッチの上に数匹のサル、戦車を取り囲んだ数十匹がゾウに寄り添うかたちで、ハッチ周辺に居るサルを見守っています。』




 「戦車が動物に囲まれて、こんな状態になってるのなんて、見たことないな。」




 『おーっと!リーダーとみられるサルが、ハッチを開けました!』


 『内側から鍵はかけていなかったんでしょうかね。』


 『かけていなかったんですかね。サルは簡単に開けてしまいました。リーダーのサルが、戦車の中に入った!・・・それに続いて、七~八匹のサルたちも戦車の中に入っていきました!』




 「戦車の中って狭いんだろ?」


 「人が一人入れるぐらいのスペースなんじゃないのかな。」




 『戦車の中で、今何が起きているのでしょうか?・・・おーっと!ハッチが開きました。ゾウに寄り添って待機していた数十匹のサルたちが、一斉にハッチのところに集結しました!・・・中から数匹のサルが出てきました。・・・中に居た兵士を、戦車の上に引きずり上げているようです!』


 『兵士の方は、大丈夫なんでしょうか?』


 『・・・兵士は無抵抗なようです。・・・サルが兵士を完全に戦車の上に乗せました。』


 『兵士の方、ぐったりしてますね。』


 『そうですね。憔悴しょうすいしきっているように見えますね。・・・ところどころ、服が破れているようです。・・・出血もしているようですね。』


 


 「やられたんだろうな。」


 「あのホームページに書かれていたことは、本当だったんだ!」




 『まるで、スペインの”トマト祭り”のように、血で真っ赤に染まってしまった街ですが・・・一匹のライオンが、戦車に近づいてきましたね。・・・戦車の上で、兵士を取り囲んでいるサルが、何やら、動き出しましたよ。』




 「まさか・・・戦車の上で・・・。」


 「見せしめか?」




 『複数のサルが、何やら兵士の服を引きちぎるなどして切り裂いています。・・・あおむけになっている兵士の服は、ボロボロに切り裂かれました。』


 『一旦、コマーシャルです。』


◇◇◇


 『鹿島さん、どうぞ。』

 

 『戦車のところにやってきたライオンがですね、兵士の首に噛みついて、首からドオーっと血が吹き出しましてね。兵士は死亡、あるいは死亡する寸前の状態とみられます。・・・ライオンが、爪で兵士の皮膚を切り裂きましてね。・・・今こうして、兵士の肉を・・・ガツガツと食べています。・・・他のライオンが戦車の上にやって来ました。・・・一緒になって、ガツガツと兵士の肉を食べています。ライオンの口から、血がしたたっています。』

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