第2話

 椅子に座り、あくびを漏らした僕は意識を朦朧とさせていた。


「あのね。亮君、私と付き合ってくれない?」


 そんな言葉が聞こえて来ることは無く、いつもの通り、窓の外の堤防を眺める。

 そういつも通りの、桜の舞った景色。

 雀は歌い宴を楽しんで、堤防は感動するように光り輝く。


 うん? 待てよ?


「亮くーん? 聞こえたかな?」


 聞き慣れない女子の声。

 季節は春。時として入学式最終準備が終わった頃。その時、一人寂しく黄昏れた時に事は起こる。


「私と付き合ってくれませんか?」

「幻聴ですか?」


「いいえ。幻聴ではないです」

「じゃぁ何かの罰ゲームですか?」


 どうせそうに決まってる。

 しかし、少女は風と共に近づきハグをした。温かい爽やかな風を感じ、またその陽気にも触れる。しかし、何かが変だ。体温が通常より低い。

「本心だよ? 疑うなんて酷いよ」


 さて、大変な事になった。

 それに、なんだか思考回路が加速するのが分かる。


 視界に入った髪は、ほのかに甘い花のような香りをさせている。

「こんな了承も得ずハグをする私は嫌ですか?」

 そう君は言った。


 そんな、状況下に平常心を保てる男子なんているのだろうか? 更に思考は加速する。


「いや...好きです」

 無理なオーバークロックを起こした脳は、その機能を停止した。


「ありがとう」

 そう僕の頭を撫でた。

 骨の内容に柔らかいその手。


 てか、誰ですか? この人。


 

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