【電子書籍化】誓約魔術に誓ってもらってもいいでしょうか?

gacchi

第1話 嘘、ですよね?

久しぶりに王宮に呼び出され案内されたのは、

謁見室の奥通路の先にある半温室になっているティールームだった。 


ここは陛下や王妃が親しい友人とお茶を楽しむときに使用する場所だ。

まだ陛下の姿はなく、案内してくれた文官に座って待つようにと言われる。

席に着くと陛下付きの女官がお茶を出してくれた。

香りのいい紅茶に口をつけうなずくと、女官は礼をして去っていく。

基本的にこのティールームは人払いがされている。


幼いころに何度かここへ来ているが、

もしかしたらここに来るのは今日が最後かもしれない。

数年ぶりに陛下に呼び出された理由は…きっと自分にとって良いことではない。

それがわかっているから、気分は落ち込むばかりだった。

ローゼリアは先ほどから紅茶を見つめ、ただ陛下が来るのを待っていた。


あぁ、早く話を終わらせて帰りたいなぁ。

ため息をついても、呼ばれた以上は話をせずに帰ることは難しかった。


ゆっくりと飲んでいた紅茶が冷めた頃、

陛下とローゼリアの父であるシャルマンド公爵がティールームへと到着した。

思ったよりも待たされたのは、二人の話し合いが長引いたためだろう。


銀色の髪のひょろりとした陛下と金色の髪が少し寂しくなった父。

どちらの顔も見るのは久しぶりだった。

あぁ、そういえばこんな顔してたわ。

そんな感想も、見なければ思い出せないほど会わなかったのだから仕方ない。



「待たせてすまないな、ローズ。」


「いいえ、陛下。お茶を楽しんでおりましたので平気ですわ。」


「そうか。今日は大事な話があってな。なぁ、ヒューバート。」


「ええ。そうですね。

 ローズ、お前はもうすぐ学園を卒業するだろう?」


「はい。来週には卒業パーティですね。

 もう学園での授業も終えたので、あとは卒業するだけです。」


「それで…その後はどうするんだ?」


「その後とは?」


何を言いたいのかはわかっているが、こちらから言う必要はない。

出来れば話したくないのだから。

そう思っているのがわかっているのか、お父様が口を開いた。


「お前も18歳になったし、学園を卒業する。

 婚約もしていない令嬢はお前くらいなものだ。

 同じ年頃で高位貴族で婚約も結婚もしていないのは王子たちしかいない。」


「私は結婚する気ありませんけど?」


「貴族令嬢として生まれてきたものが結婚しないなど、許されるわけは無いだろう。

 しかも、シャルマンド公爵家にはローズしかいないんだぞ。

 一人娘が結婚しないわけにはいかないだろう?」


「…。」


「なぁ、ローズ。

 王子たち三人のうち、誰を選んでくれてもかまわない。

 出来れば第一王子をと言いたいところだが、誰でもいい。

 ローズが選んだ王子を王太子としよう。」


「陛下、お父様。

 それでは公爵家を継ぐ者がいなくなりますよ?

 貴族の義務をというのなら、私が公爵家を継ぐための婿を探すべきなのでは?」


「…それは、ローズが子どもを二人以上産めば解決するだろう?」


「お母様が産んだのは私一人しかいませんのに?」


「…そうかもしれないが…。

 王子と結婚しないというのなら、

 お前の結婚相手は年の離れた貴族で後妻になるしかないんだぞ?

 いくらなんでも下位貴族と結婚させるわけにもいかない。

 年下の高位貴族に婚約を申し込んでたら、行き遅れかねない。」


「年の離れた貴族の後妻…ですか?…本当に?」


「…あぁ、そうなるだろうな。

 18歳の卒業間近なんて、他の高位貴族令息は残ってないだろう。」


「…たとえば」


陛下の後ろに立っている近衛騎士隊長をちらっと見る。


今年で29歳のジークフリート様とは11歳離れている。

しかも、ジークフリート様は奥様と死別している。

いつも無表情で笑わない近衛騎士のジークフリート様は、

奥様と子どもを一度に亡くしている。

笑わないのはそのせいではないかと言われている。

敵には容赦なく切りつけ、血の海にも動じない。

そんな戦い方と奥様たちを亡くしていることから、

死を呼ぶ騎士と呼ばれているらしい…けれど。


「たとえば、後ろにいらっしゃる、近衛騎士隊長とかですか?

 まさか…そんなはずはないですよね。」

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