追放された『遊び人』は『賢者』に転職する。戻ってこいなんて言ってももう遅い……え、言わないの?

レオナールD

第1話


「お前とはもう冒険できない。パーティーから抜けてくれよ」


「へ……?」


 仲間の口から放たれた思わぬセリフに、僕は思わず凍りつく。

 場所は行きつけの食堂。いつものようにダンジョンでの冒険を終えた僕達は、夕食をとるために食堂を訪れていた。

 料理を頼んで明日の予定でも話そうかと思った矢先、仲間の1人が突然の追放宣言をくり出したのである。


「え……は……えっと……?」


 告げられた言葉を理解するのに時間がかかった。

 1分ほどかけてようやくその意味を咀嚼して、困惑に震えた声で叫ぶ。


「な、なんでっ!? 僕達、これまで上手くやってきたじゃないか!」


 僕達4人は同じ村出身の幼馴染みだった。

 1年前に一緒に上京して冒険者ギルドに登録し、パーティーを組んで活動してきた。

 順調に冒険者として実績を積んできており、もうじき新人冒険者がぶつかる最初の関門であるDランク冒険者への昇格試験を控えている。


 そんな大事な時期に突きつけられた追放の言葉に、僕は激しい動揺から涙目になってしまう。


「わかってるだろ、お前じゃ俺達についてこれないんだよ!」


 リーダーを務めている『戦士』の少年――アルスが冷たく断言する。


「これから先の冒険には、お前の力じゃついてこれない! だって、お前は『遊び人』じゃないか!」


「っ……!」


 アルスの言葉に僕はビクリと肩を震わせた。


 この世界には『天職ジョブ』というものがあり、人は誰しも神々からその人間に適正した職業を与えられる。

 一度、与えられた天職は変えることはできない。

 ごくまれに極められた天職がより上位の職業に進化することはあるが、基本的に自分の意志ではどうにもならないものだった。


 僕が与えられた天職は『遊び人』。

 あらゆる天職の中でもっとも役に立たない職業と言われており、特に戦闘にはまったく使い道のないものである。


「これまでずっと我慢してパーティーを組んできたけど、もう限界なんだよ。じきに昇格試験もあるし、足手まといとは一緒にいられない」


「あ、足手まといって……僕だって一生懸命、皆のために尽くしてきたのに……」


「それが余計なお世話だって言ってるのよ! いい加減にわからないの!?」


 目をつり上げて怒鳴ってきたのは、『魔法使い』の少女イリーナである。

 赤髪の少女は気の強そうな顔をさらに険しくさせて、テーブルを叩いて立ち上がった。


「いっつも私達の邪魔ばっかりして、それでよく自分がパーティーに必要な人間だと思えるわね!? あなたのせいで私達が迷惑してることにどうして気がつかないのよ!」


「め、迷惑だなんて……僕はみんなのために、出来ることをしているのに……」


 確かに『遊び人』は戦闘にはほとんど役に立たない天職である。

 けれど、僕は僕なりの方法で役に立とうと一生懸命に頑張ってきた。


 武器の手入れをはじめとして、あらゆる雑用を自分からやってきた。

 後衛の仲間を守るため、モンスターを引き付ける囮役になってきた。

 強敵との戦いの前には『遊び人』のスキルで場を和ませ、みんなの緊張をほぐしてきた。


 そうやって自分なりのやり方でパーティーに貢献してきたというのに、『足手まとい』や『余計なお世話』だなんて、あんまりじゃないか。


「え……エリッサ……!」


 僕は救いを求めるように、パーティーメンバーの最後の1人に目を向ける。


「…………」


 救いを求める視線を受けた『僧侶』のエリッサは、チビチビと果実水に口をつけながらゆっくりと首を振る。


「無理……あなたは故郷に帰った方がいい……」


「っ……!」


 普段から無口な少女の口から放たれた、抑揚のない拒絶の言葉。


 アルス、イリーナ、エリッサ……3人の幼馴染みから追放を突きつけられ、僕は茫然として言葉を失う。

 ショックに固まっている僕をよそに、アルスはそっと溜息をついてテーブルの上に革袋を置いた。


「……これまでありがとよ。少ないけど、俺達からの餞別だ。故郷の村に帰る交通費にするでもいい。『遊び人』の天職を生かせる別の仕事を探す資金にするでもいい。好きなように使ってくれ」


「あ、アルス……僕は、ぼくは……」


「じゃあな、ウィル。元気でな」


「…………!」


 もはや言うことはないとばかりに、アルスは僕から顔をそむけた。

 僕は――ウィルフレッドは友人からの拒絶にボロボロと涙をこぼし、クシャリと表情を歪める。


「僕は……君達のことが好きだった! これからも一緒に冒険したかった……!」


「…………」


「うわああああああああああああああああっ!」


 立ち上がり、餞別の金が入った革袋を手にすることなく食堂から飛び出す。

 どうか追いかけてきて欲しい――心の片隅でそう祈るが、3人の仲間は走り去る僕をほったらかしにして食堂から出てくることはなかった。


 そのまま走り続けていくと、いつの間にか人気のない空地にたどり着いていた。

 地面にうずくまり、悔しさと悲しさから涙を流して土を濡らす。


「うっぐ、えっぐ……僕は冒険者を辞めたりしないぞ! 絶対に、絶対にアイツらのことを見返してやる……!」


 どれだけかかっても、いつか必ず3人に後悔させてやる。

 追放するんじゃなかった。自分達が間違っていたと認めさせてやる。


 そう心に誓って、僕は地面の砂をグッと握り締めた






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