第13話 それはそれ、これはこれ
憧れの存在、千沙都とデートに行けた日から勇夢の調子は抜群だった。
腹が出ないように日常的に行っている筋トレをこなしても、あまり疲れを感じない。
好きではない勉強を行っていても、同じそこまで疲れたと思わない。
そしてゲームのオンライン対戦ではまさかの連戦連勝。
(あれかあら調子が良過ぎるな……まっ、調子が良過ぎて困ることはないか)
登校中にそんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。
「おっす、勇夢」
「桃馬、おはよう」
勇夢に声を掛けた人物は中学からの友人である
中学の頃は一緒にバスケ部で汗水流して共に戦い、高校に入ってからも男子バスケ部に入ってバスケットを続けている。
「相変わらず身長たけぇな」
「太りたくないから、筋トレとかランニングは欠かしてないんだよ」
「運動部じゃないのに、そこまでやれるのはちょっと異常だぜ」
「通常だ通常。部活を引退しても結局食べる量は変わらないし、そうなると筋トレとかだけは続けないあっさり太るんだよ」
勇夢は食べても食べても太らない体質ではないので、放っておけばあっさりと腹筋は消えてプヨっとした腹になってしまう。
「桃馬も引退したと油断してると公開するからな」
「俺は大学でもバスケは続けるつもりだっての……なぁ、勇夢」
「ん? どうした」
「もうバスケはやらないのか」
「……部活には、入らないかもな」
中学のバスケ部時代に、特別嫌なことがあった……トラウマがあるとか、そういう事が理由ではない。
ただ……一種の燃え尽き症候群に襲われた。
(バスケ部に入ればモテるって聞いたのに、全然モテなかったしな)
勇夢的には、それが大きな原因の一つかもしれない。
練習自体は誰よりも真剣に望み、スタメンとしてフィールドで活躍していたが……残念ながら中学三年間の間で異性いから好意を寄せられたことなど、一度もない。
「そっか……まっ、強制することなんて出来ないからあれだけど……でも、マジでその身長は羨ましいぜ」
「桃馬だって百七十センチを超えたんだろ」
「そろそろ百八十センチになる奴に言われてもな~~……勇夢、ジャンプ力かなりあるんだし、このままいけばダンク出来るようになるんじゃないか」
「ダンクか……それは夢があるな」
桃馬は多分勇夢は本当にバスケ部に入るつもりがないんだろうなと解っていながらも、心のどこかでは勇夢に入部してほしい。
また一緒にコートでプレイしたいという思いがある。
「気が向いたら、いつでも来いよ」
「……そうだな。気が向いたら考えるよ」
「おう。ところで、今日学校終ってから暇か?」
「特に予定はないな」
「ならさ、一緒にテスト勉強しないか。今日は部活ないしさ」
高校に入ってから初めてのテスト。
中学の時はさほど点数が良くなかった桃馬だが、大学入試の為に良い成績を取っておきたいという欲があった。
(珍しいな。桃馬がテスト二週間より少し前から勉強し始めるなんて……一人でやってても楽しくないし、ありだな)
桃馬の提案を承諾し、六時間目の授業が終わったら図書室で自習を行うことが確定。
それまではいつも通り時間が過ぎていき、あっという間に放課後となった。
「勇夢、しょんべん行こうぜ」
「先に行っておくか」
連れションし、勉強時に邪魔な尿意を消し去る。
「あっ、図書室には俺以外の奴もいるから」
「……おい、聞いてないんだけど」
全くもって聞いていなかった。
てっきり桃馬と二人で自習するものだと思っており、一ミリも心の準備が出来てない。
「そりゃ言ってなかったからな。まっ、安心しろって。皆良いやつだから」
「いや、お前……先に一言伝えてくれよ」
「伝えたら、来なかったかもしれねぇだろ。それに勇夢、そろそろボッチ状態を何とかした方が良いぞ」
「うっ……そりゃまぁ、なんとかした方が良いんだろうけどさ」
超絶コミュ障という訳ではない勇夢だが、あまり友達をつくるのが得意ではない。
部活にも入っていないので、自然な流れで同級生の友達ができる……なんてこともない。
休み時間も基本的にはラノベを読むか、スマホを弄って過ごしているザ・ボッチなのだ。
(桃馬が良い奴らって言うなら、本当に良い奴らなんだろうけど……ここでバックレるのもあれだしな)
少々騙された形ではあるが、勉強会に参加するのを了承。
「女子もいるんだし、やる気が出るってもんだろ」
「桃馬にしてはナイスなセッティングだな。もしかして、女バスの人たちか?」
「そうそう。やる気出てきたっしょ」
クラスのメンバーと交友関係が殆どない勇夢だが、クラスで一人でいるからこそ……周囲の会話が良く聞こえる。
なので、誰がどの部活に入っているのか、大抵知っている。
そんな中……女子バスケ部に入っている面々は、かなり綺麗どころが揃っている。
(千沙都さんと特別な関係は持っていれど、それはそれで楽しみってものだ)
少し気分が軽くなり、悪く無い足取りで図書室へと向かった。
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