嵐の前の静けさかのように


 真衣にビッチ野郎と吐き捨てて病室を後にした日からもう二週間。俺は随分と平和に日々を過ごしていた。マスコミもネタに飽きたのかあまり学校や近所に来ることもなくなり、同級生たちも他の話題に移り変わっていた。


 かくいう俺は花蓮と温泉旅行に行くのを待ち遠しくしている。秋の文化祭も終わって、もうすぐ冬休み。その期間に行く温泉は絶対にいいに決まっているはず。


真衣のことももう完全に吹っ切れたし、ラインはブロックして電話は着信拒否にしたから、もう連絡が来ることもないのが本当に幸せ。期末テストの存在だけが憎いけど、それさえ乗り切ればもうあとはお楽しみだ。


「先輩、随分と機嫌がいいですね」


「ああ花蓮。まぁ、花蓮と一緒に旅行行くのが楽しみだからな」


「そう言ってくれるのは私も嬉しいですよ。でも、嬉しすぎて羽目を外すのはダメですからね。赤点とって行けなくなるとかは嫌ですよ」


「わかってるって。でも、最近本当に平和だよな。夏樹はまだ目を覚まさないし、真衣は事件のこと全く話してないらしいし」


「へーそうなんですか」


「いや、花蓮。お前が真衣に何かしたんだろ?」


「さぁ、どうでしょう。私が犯人だって言わないでほしいという、必死の懇願が通じたんじゃないですかね」


「何をしたんだお前……。ま、いいやこの話は。せっかく平和なんだからあいつらの話なんかする必要なんてないよな」


「ですね。では先輩、旅行に行く際の準備も進めましょうか。どんなことします? やっぱりあれは必要ですよね」


「……花蓮は経験あるのか?」


「ないですよ」


 平然とした顔でないと答える花蓮の姿を見ていると、俺は必要以上にビビっているのかもしれないと痛感する。でも、真衣から子供っぽい恋愛と言われた俺は、おそらくそういう魅力がない。……だから少し、花蓮に幻滅されるんじゃないかって不安がある。


「先輩、不安そうな顔をしないでください」


「え!? い、いやそんな顔してない」


「どうせ自分に性的な魅力がないとか思っちゃったんですよね?」


「う……」


 ああ、やっぱり花蓮に隠し事は無理だ。


「そんなことはないかと思いますよ。私、先輩とシたくてムラムラしているので」


「そ、そんな平然ということじゃないだろ!」


「それくらい私の身体が先輩を欲しているということです。それとも、先輩は私とヤるのは嫌ですか?」


「……そんなことはない。正直、めちゃくちゃしたい」


「ほら」


 それ見たことかと言わんばかりの顔を花蓮にされてしまう。うう……なんて情けないんだ俺は。でも、俺だって花蓮のことがすごく好きだから……その気持ちをごまかし続けるのは無理だ。


「もういっそ、今しちゃいます?」


「そ、それはダメだ! バレたら色々面倒だし、あとムードとか……」


「ふふっ、冗談ですよ。私も、さらっとするよりも思い出に残るようにしたいですから」


「よかった……。よし、テスト頑張ろ」


「私も頑張らないとですね」


 そうしてお互いに決意を固めながら、来たるべく日まで頑張ることにした。


 一方


「す、すごいリハビリの速度だ……」


「ありがとうございます! 私、早く退院したいので!」


 もうすぐ真衣が退院しそうになっていることを俺は知らない。


 ――――――――――

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