後輩とプレゼント選び


 日曜日。今日は真衣への誕生日プレゼントを一緒に選ぶため花蓮と一緒にデパートにやってきた。


「お待ちしてましたよ、先輩」


 待ち合わせ時間の五分前くらいに到着したにも関わらず、すでに花蓮はスタバを飲みながらゆったりと俺のことを待っていたようだ。


「あれ、俺時間間違えてた?」


「いえ、私が早く来てしまったので先輩が気にすることはありませんよ。それにしても、先輩の私服久しぶりに見ました。まぁまぁかっこいいですね」


 花蓮は普段から褒めることをしないので、このまぁまぁは世間一般でいうとてもと認識して間違いない。いやー、花蓮に褒められると俺もしっかり選んだ甲斐があったなぁ。これなら、真衣とデートする時にも自信を持って行けそうだ。


「花蓮こそ相変わらず可愛いな。服のセンスも抜群だし」


 そう、花蓮は元々持っている美貌に合わせて服装のセンスもいい。上品な雰囲気をまとった、白をベースとしているワンピースは彼女の魅力を最大限まで引き出し、近くにいる男性の注目を集めている。


「ありがとうございます。先輩に褒めていただき、少し嬉しいですよ」


「ほんとか?」


「ええ。では、プレゼントを選びに行きましょうか」


「え、ちょ!?」


 花蓮は平然とした顔で俺の手を掴み、デパートへ入っていった。


「ど、どうして手を掴んでるんだよ!?」


「ナンパ対策です。いちいち性欲しかない男どもの相手をするのは面倒ですから、先輩とそれっぽい雰囲気を出して遠ざけているんです。いわば虫除けスプレーならぬヤリチン除けスプレーといったところでしょうか」


 クスッと笑いながら花蓮は俺の手を握り続ける。確かに周りにいる男性の視線を見ると花蓮に注目が集まってるし、声をかけようとしている男性の様子も見られるから、花蓮の言うことは理にかなってる。


「あ、あのな……こんなとこ真衣に見られたら俺の方が面倒ごとになるんだが」


 でも万が一真衣にこんなところ見られたら破局に危機になるのが目に見えるわけで。俺は花蓮に手を離すことを促す。


「確かにそれはそうですね。では、ナンパされた時だけ彼氏のフリをしてください」


「わーったよ」


 わざわざ休みの日にこうして手伝ってもらってるから、フリぐらいならいいか。しかし、気のせいか花蓮の機嫌が良い気がする。いつも表情が硬いけど、今日はなんだか表情が穏やかだ。何かいいことでもあったのかな?


「では、この辺りから選んでいきましょうか」


 連れて行かれたのは化粧品売り場。ああ、確かに女性にこういったプレゼントを渡すのは喜ばれるって聞いたことはある。だけど俺は正直化粧品について何も知らないので、プレゼントの選択肢として考えてもなかった。


「先輩はこういったものに疎いでしょうから、私と一緒に選ぶなら最適かと思いまして」


「ピンポイントに当ててくるな花蓮……流石」


「ええ、私は先輩のよき理解者ですから。早速ですが、これとかいかがでしょう?」


 それから俺は花蓮に色々とオススメされながら、真衣にプレゼントする化粧品を選んで買った。花蓮は俺には無い視点から意見をくれるので色々と参考になったし、プレゼントも良いものを選ぶことができた。ほんと、花蓮さまさまだな。


「今日はありがとう花蓮。おかげでいいプレゼントが買えたよ」


「私こそお力になれてよかったです。それに、先輩に色々とお教えすることができて、とても楽しかったですよ」


「そう? ならよかった。そうだ、今日のお礼にどこかでご飯食べない? 俺おごるよ」


「いいんですか? 高いプレゼント買ったばかりで金欠でしょうに」


「うっ。こ、後輩が先輩に懐事情を気にするな! さ、サイゼリヤならいけるから!」


「ふふっ、ではお言葉に甘えますね。先輩のプライドも尊重してあげなくてはいけませんし」


「う、うるせぇ!」


 楽しそうに笑う花蓮にしてやられてばっかりで、先輩としての威厳はいとも軽くあしらわれてしまった。ほんと、花蓮には敵わないな……。


「やっぱり美味しいですね。安定です」


 サイゼリヤで花蓮が注文したのはカルボナーラ。そして俺はミラノ風ドリア。……なんとか財布は耐えた。


「だな。しかし、プレゼント喜んでもらえるか心配になってきた……どんな風に渡したらいいかな」


「そのブランドは安定なので品物自体は喜んでもらえますよ。先輩がよっぽどヘマしなければ」


「そ、そういうこと言うなよ……」


「でも、それだけ色々と試行錯誤してくれる彼氏がいるのは、日高先輩もさぞ幸せでしょうね。……羨ましいです」


「花蓮ならよく告白もされるだろうし、彼氏もすぐ出来るんじゃないか?」


「告白は嫌なほどされてきましたが、私には好きな人がいるので断ってます」


「え」


 なんかさらっと衝撃的なことを聞いてしまった。花蓮に好きな人がいるってなんか想像がつかない。


「意外でしたか? まぁ先輩は日高先輩のことで頭がいっぱいで、周りを気にしてなさそうですからね」


「そ、そんなことは……あるかも」


「ふふっ、相変わらず彼女バカですね。今は私のことはお気になさらず、彼女のことだけ考えた方がいいですよ。プレゼント、喜んでもらうためにも」


「わ、わかった」


 そうして俺たちはご飯を食べ終わり、俺は花蓮を駅まで送って家に帰宅した。買ったプレゼントは大事に保管して、真衣の誕生日、どんな風に渡すか色々と練り初めて。気づいたら眠りこけていた。


 呑気なものだと今なら思う。誕生日当日に訪れる、惨事を知らないで。


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