第2話 チートスキルと最初の候補

「おにいさま~」


 可愛らしい黄色いドレスに、美しい銀髪をなびかせて走る妹のソフィア。


 その視線は僕に向いている。


 僕達は普段から庭で遊んでいるが、僕が歩けないので基本的に走り回るのはソフィア一人だ。


 現在、僕が5歳、ソフィアが3歳になっている。


 この世界では、5歳になると特別なスキルを手に入る事がある。


 全員ではなく、選ばれた数人だけが貰えるので、そんな彼らを総じて『超越者』と呼ばれている。


 結構大それた呼び名なのには理由があって、ここで貰えるスキルは、いわゆる『チートスキル』だからだ。


 その中でも最も凄いチートスキルを貰えるのがゲームの主人公であるソフィアだ。


 ただ、彼女の母であるリアさんが生きていたりと、ゲーム通りの内容になるとは限らない。


 そんな事を思っていると、僕の前にぷくーっと拗ねた表情で覗いてくる妹が見える。


「ソフィア? どうしたの?」


「もぉー! おにいさまがみてくれない~」


「あはは、ごめんごめん。ちょっと考え事をしていたんだよ」


「かんがえごと?」


 まだ3歳児のソフィアには難しい言葉だったのかな?


「それはそうと、ソフィア? 何を隠しているの?」


 明らかに手を後ろに隠しているソフィア。


「え~! なんでもないの!」


 いや、なんでもあるでしょう。


 すると、ソフィアは満面の笑みを浮かべて、僕の頭の上に何かを載せてくる。


「じゃじゃーん! おかあさんがおしえてくれた『はなかんむり』だよ~おにいさま~」


 どうやらリアさんに教わって、花で冠を作ってくれたみたい。


 僕はそっと花冠を取って見る。


 少し下手な花冠だったけど、真っ白な花びらと、緑色の枝が入り乱れていて、一生懸命に作ってくれた想いが込められた素晴らしい花冠だ。


「ありがとう! これは家宝にしたいくらいだよ!」


「えへへ~」


 少し照れて笑う可愛らしい妹の頭を撫でてあげる。


 最近では妹と過ごす時間も増えて、転生してから5年も経過しているのもあり、前世の事はあまり思い出さなくなった。


 それにしても、この世界にはステータスというのがあるからか、身体を動かさなくてもやせ細ってしまう事もなく、僕の身体は健康的に日々大きくなっていく。


 前世の知識を頼りにしながら、筋トレなんかもやってるけど、思っていた以上の効果をあげているのが嬉しい。




 ◇




 5歳のとある日。


 頭に不思議な声が鳴り響く。



 -個体名『カイン・ディエリス』は、スキル『無限魔力』を開花しました。-



 『無限魔力』って?


 初めて聞くスキル名に、急いで『ステータス』を開いて確認する。


 『ディスティニーワールド』で慣れているので、確認もお手の物だ。



 『無限魔力』とは、無限の魔力を得る代わりに、現存する全ての魔法が使えなくなる。



 …………『ディスティニーワールド』で最も強いビルド・・・は、魔法特化型だったりするので一瞬期待したのに、まさか魔法が使えないなんて……魔法が使えないなら無限の魔力も意味がないじゃないか。


 一瞬期待したけど、落胆の方が大きいかもしれない。


 使えないスキルだから、今は誰にも言わずにおいておこう…………。




 ◇




 僕が6歳に、妹が4歳になった。


 そして、今日、とても大きなイベントが訪れた。


「はじめまして! グランともうします!」


 少しおぼつかないが、貴族らしい挨拶をする男の子。


 彼の名は『グラン・エルヘス』。


 エルヘス家の長男にして、チートスキル『切り裂く者』を持つ男だ。


 ――――つまり、主人公であるソフィアの最初の攻略対象の一人だ。


 初期から好感度が高く、サラサラの黒髪と整った顔がイケメンなのにも関わらず、戦闘では部類の強さを誇るのでパーティーメンバーにしても強いから、『ディスティニーワールド』で最も人気キャラである。


 そんな彼の幼い姿を見るのは初めてだ。


 というか4歳の時に会うんだな?


「はじめまして、ソフィアともうします」


 すっかりお嬢さんになったソフィア(4歳児)がスカートを摘み少しあげながら挨拶をする。


 日頃リアさんの教えがちゃんとなっているからだね。


 ゲームの時には、挨拶もまともに出来なかったのにな…………主にの所為だけど。


「初めまして。僕は兄のカインです。よろしく」


「よろしくおねがいします!」


 元気の良い返事が返ってくる。


 やっぱり男の子って元気が一番!


 しかし、直後に僕の想像を超える出来事が起きる。



「お兄様はどうしてずっとすわっているのですか?」



 グランくんが何となく聞いた。のに。


「っ! あんた! うちのおにいさまにもんくあるの!」


「へ?」


「ぶれいなひとはきらいなの!」


 そういうソフィアは――――見事な平手打ちを披露し、グランくんの身体が空を飛ぶ。


 ええええ!?


 ソフィア!?


 元々こんな性格だっけ!?


 あまりの出来事に周囲の大人たちが一瞬固まり反応出来ずにいる。


「ソフィア!」


 僕の声に我に戻った大人たちが右往左往し始める。


「こらっ! ソフィア!」


「おにいさまにしつれいな人はソフィアはゆるしません!」


 いやいや……ただ聞いただけじゃないか。


「ソフィア、怒ってくれるのは嬉しいけど、だからってすぐに手を出してはいけないよ?」


「でも……」


「ほら、おいで」


 しょんぼりした表情の妹の頭を撫でて落ち着かせる。


「あはは……すいません。うちの妹が大変失礼しました」


「い、いいえ…………」


 執事と思われる方も言葉に詰まる。


 まさか挨拶に来て平手打ちを喰らうとは思いもしなかったのだろう。


 しかし、そこから更なる悲劇が始まる。


「そ、ソフィアさま! おにいさま! たいへんもうしわけございませんでした!」


 まさか4歳児がダイビング土下座を披露する。


 一体どういう育ちをしたら4歳児がダイビング土下座とか覚えるんだろう?


「ふ、ふん! はんせいしたんならゆるしてあげるわ!」


「ソフィア!? 君も謝るべきだよ!?」


「いえ! おにいさまをぶじょくする人はゆるしません!」


「はい! ぼくがわるいです!」


 あれ……?


 グランくん?


 ちょっと目がハートになっているけど、もしかして、君って…………。






 そっか。


 ゲームでも君はドMとして有名だったもんな。



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