第39話 骨
空気がカラカラに乾いている。
ドワーフたちが暮らしていた火山地帯を思い出すが、最大の違いは気温だろう。
ジワジワと体を侵食する冷気。
スイの街みたいに雪が降り積もっているわけでもなく、ただ寒い。
周囲をぐるりと見回しても、植物の類はほとんど自生していないようで、岩と乾いた地面だけが広がっている。
ここは不毛の地ラカ。
雨は一年を通してほとんど降らず、寒気のせいで植物もあまり育たない。
マーヤは荷袋から薄めた葡萄酒を詰めた革袋を取り出す。
カラカラに乾燥した口を潤すために、葡萄酒を少し口に含んだ。
本当はごくごくと飲み干してしまいたいのだが、いつ目的地にたどり着けるのかわからない。
マナリ族の集落を探している。
彼らはラカの地をテリトリーとする遊牧民だ。
外部との接触は必要最低限で、ひっそりと暮らすことを好むらしい。
こんな不毛の地で暮らす部族。食べるものも少なく、その食事は独自の文化を生み出しているらしい。
その異様な食生活から、かれらは ”骨食い”と呼ばれている。
「”骨食い”……ね。骨を使った料理はまだ食べたことがねえな」
ペロリと乾いた唇を舐める。
いつだって未知なるグルメへの好奇心が、彼女を駆り立てるのだ。
◇
「別に俺たちは骨だけを好んで食べるわけじゃない。こんな厳しい環境だ。食べるものも少なく、文字通り獲物は骨まで無駄にしない……それだけのことだ」
意外にも、マナリ族は突然現れたマーヤを歓迎してくれた。
こんな辺境で、しかも ”骨喰い” と忌避される部族に会いに来る旅人なんて珍しいと、族長は笑った。
道中寒かっただろうと、族長は自分の家にマーヤを招き入れ、酒を振る舞う。
馬の乳から作られたという乳白色の酒。よく暖められたその酒をぐっと飲むと、酒精で体がポカポカと温まった。
ほのかな酸味と、乳のコク。飲んだことのない味だが、冷え切った体に染み渡る。
マーヤは酒を飲みながら、族長にこの場所に来た理由を話した。
骨料理を食べたいと言われた族長は、一瞬キョトンとしたあと、豪快に笑う。
骨を食べるマナリ族を怖がるものこそあれ、自分も食べてみたいなんて酔狂な者は初めて見たのだ。
「面白いな旅の人。いいだろう、我が部族特性の骨料理、たんと味わってもらおうか」
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