第37話 緋色の死神 2
走る
走る
走る
ただ、ひたすらに逃げ続ける。
超人的なスピードで森を駆け抜けるマーヤとジェイコブ。野生の獣ですら、二人に追いつくのは至難の業だろう。
マーヤはチラリと背後を確認する。
やはりというべきか、緋色の死神は二人に遅れる様子もなく、一定の距離でピタリとついてくる。
それは予想通り。むしろ追いかけ続けてもらわなくては困る……。
しかし、その時は唐突に訪れた。
足場の悪い森の中での逃走劇。地面からにゅっと飛び出た木の根に足を取られたジェイコブが、派手に転倒する。
それに気が付いたマーヤが、慌てて駆け寄ろうとするが、すでに遅い。
背後から猛スピードで迫ってきた緋色の死神が、その鋭い爪をギラリと光らせて、地面に倒れこんだジェイコブに襲い掛かる。
絶体絶命。
この距離ではマーヤの足でも間に合わない……。
その瞬間、緋色の死神が踏み抜いた地面が激しく発光した。
「破邪の法其の三 ”封鬼の牢”」
地面に仕込まれていたトラップ式の魔法陣には、見慣れない東方の文字が刻まれている。
そこからニュッと飛び出た光の鎖が緋色の死神を縛り上げ、その動きを止めた。
茂みに隠れていたのはSランク冒険者のカガリ。
東方にルーツを持つ彼は、”封印術”と呼ばれる東方に伝わる独自の術を扱うことができる。
そう、これは罠だ。
マーヤとジェイコブが緋色の死神の注意を惹き、所定の場所まで誘い込み、カガリが封印術でその動きを止める。
そして……。
「”祖たる火の精よ”」
「”すべてを喰らう貪欲なるサラマンデルよ”」
「”我が敵を燃やし尽くせ”」
待機していた魔法使いのレミが、最高火力の魔法を発動する。
「”メガ・ファイアボール”」
上級魔法メガ・ファイアボール。
金属すら融解する灼熱の魔法が、身動きを封じられた緋色の死神に直撃する。
「やった!」
作戦の成功に、喜びの声を上げるレミ。
しかし………
上級魔法メガ・ファイアボールは、何かに切り裂かれ、宙で霧散する。
いつの間にか、封印術の拘束を破った緋色の死神は、その右手に一振りの剣を握っていた。
柄の無い片刃の剣。持ち手から刃先まで太さが均一だ。
そして特徴的なのは、その色。
闇よりも深い漆黒。
まるで剣の形に空間を切り取ったのではないかと感じるほど、見るものを不安にさせる虚無の色だ。
先ほどまで、死神は間違いなく武器なんて持っていなかった。
では、あの漆黒の剣は何なのだろうか……。
その場の誰もが言葉を失っていたその時、緋色の死神がゆっくりと口を開いた。
「さテ、貴様らは何が望みダ? この私の命が欲しいのカ?」
◇
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