第20話 宴、酒

「宴だ!英雄様を待たすなよ!」


 笑顔のドワーフたちがバタバタと走り回り、宴の準備を始める。


 長年、ドワーフたちを悩ませてきた災害、火山竜アタタカが打倒されたのだ。


 犠牲になったドワーフを悼みもしよう。しかし、それでも今日という日を祝わない理由は無かった。


 アタタカを打倒した当人であるマーヤは、ドワーフの治療師の元で怪我の手当てをしていた。


 全身の切り傷や打ち身……右手の火傷が特にひどく、診察をしていた治療師が眉を顰める。


 しかし、当の本人は怪我なんて気にしないとばかりに、宴の準備をするドワーフたちを眺めて目を輝かせていた。


「いいねぇ!宴!な、アタシも参加していいんだろ?」


 マーヤの問いに、呆れたような顔で返答する治療師。


「そりゃまあ、この宴は半分アンタのために開くようなもんだからな、かまわんだろ。しかし、腕の火傷は痛まんのかね?」


「なに、これくらいの負傷いつものことさ……治療もしてもらえてるしな」


「いつものこと……ねぇ。まあ、無理だけはしなさんな。火山竜を打倒した英雄に倒れられては宴どころじゃないからな」


 カカカと笑うマーヤ。治療師は諦めたようにため息をつきながら、マーヤの右腕に火傷に効く薬草をあてがい、包帯で固定した。


「この集落に治癒の神官はいないから、これくらいしかできない……すまないな、でかい街に行ったら神官に直してもらうといい」


「いんや、これで十分さ。ありがとな!あとは飯食って酒飲んで寝れば全快よ」


 治療師に礼を言って立ち上がったマーヤは、宴の準備をしているドワーフの一人に話しかけた。


「なあアンタ、今回の宴で ”ドワーフの火酒” は飲めるかい?」







「火山竜アタタカを打倒した英雄に乾杯!!」


「「「乾杯」」」


 ドワーフの宴が始まる。


 ドワーフたちは配られた酒を一気に飲み干す。


 種族の特徴として、ドワーフはよく飲み、よく食べる。


 皆一気に酒を飲み干すと、豪快に笑いながら肉を喰らった。


 マーヤは配られた酒を見下ろす。


 夢にまで見たドワーフの火酒。


 ドワーフ製のガラスのコップ(非情に繊細で透き通ったガラスが、ドワーフの技術力を感じさせる)に並々と注がれた火酒。


 一切濁りの無い、透き通った液体。鼻を近づけると、砂糖を軽く焦がしたような甘く香ばしい香りがする。


 グイっと、コップの中身を一気に飲み干す。


 喉がカッと熱くなる。


 酒精が非常に強い。鼻から抜けていく香りは甘く、しかし酒自体はそれほど甘味がある訳ではなく、爽やかだった。


「良い飲みっぷりだなマーヤ。さ、もう一杯」


 隣に座っていたロッシーが、マーヤのコップに酒を注ぐ。


 礼を言って、今度は少量口に含み、口内で酒を転がしてじっくりと味わう。


 先ほど感じた通り、味自体は非常に爽やかで飲みやすい。しかし、鼻を抜けていく香りが圧倒的に華やかで、今まで飲んだどんな酒とも違っていた。


「……こいつはうめぇな」


 しみじみと呟いたマーヤに、ロッシーは嬉しそうに笑う。


「ソーギムって植物から作られた火酒だ。気に入ったんなら好きなだけ飲むといい。ドワーフは皆酒飲みだからな、貯蔵は十分さ」


「そいつはありがたい!思う存分飲ませてもらうよ」


 そんな雑談をしながら、酒を飲み、肉を喰らう。

 どれだけ時がたっただろう?やがてロッシーがポツリと呟いた。


「なあマーヤ、厚かましいとは思うんだが、火山竜の素材を使って、アンタの装備を作らせてはくれないか? どうしても恩返しがしたくてな」


「そりゃあ……作ってくれるならうれしいけど、加工できるのかい? 溶岩でも平気な体を持つ竜だよ?」


 実際マーヤのバトルアックスも、文字通り歯が立たなかった。


 しかし、ロッシーはにやりと不敵な笑みを浮かべる。



「甘く見ちゃ困るぜマーヤ。ドワーフの鍛冶技術は世界一さ」



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