第16話 足跡

 ダオン鉱山


 ドワーフの集落があるというその鉱山にたどり着いたマーヤとロッシー。


 草木もほとんど生えない灼熱の地。ドワーフたちは、外敵から身を護るため、あえてこういった地を選んで集落を作るという(あと、近くに鉱山があれば完璧だ)。


 しかし、この集落出身のロッシーは奇妙なことに気がついた。


 集落まではあと少し歩かなければならないのだが、どうにも地面がおかしい。


 草木がほとんど生えていないのはいつもの事として、わずかに自生している、この地域に適応した植物が、黒く焼け焦げているのだ。


 直近で火山の噴火でもあったのだろうか?


 しかし周辺に火山灰は降り注いでおらず、冷えた溶岩も見当たらない。


「おいロッシー……これを見てくれ」


 マーヤが少し焦ったような声でロッシーを呼ぶ。


 ロッシーがマーヤのもとに駆け寄ると、あまりに衝撃的な光景を見て、彼はあんぐりと口を大きく明けた。


「……でかいな、足跡だけでバトルベアくらいはある」


 それは巨大な足跡だった。


 鋭い爪を持つ4足歩行の獣。足跡一つが人間の倍ほどの大きさを持ち、その本体の大きさが伺い知れる。


 ロッシーは消え入りそうな声でつぶやいた。


「……地竜だ。かなり大物のな」


「地竜? 地下で生活してる竜種ってことくらいしか知らないな」


 地竜。

 竜種という分類がなされているが、地下での生活に適応するため、他の竜種とは違った進化を遂げているという。


 硬い岩盤すら容易く掘り進める鉤爪。退化した視力に変わって、異様に研ぎ澄まされた嗅覚と聴覚。


 全身はびっしりと剛毛に覆われているという。


「……炭鉱夫ってのは地面をほじくり返すのが仕事だからな、間違って地竜の巣に入り込んじまうことはよくあるんだ……だが、こいつはただの地竜じゃねえな」


 ロッシーはちらりと周囲の焼け焦げた地面を見る。


 ただの地竜に、こんなことはできない。ならば考えられるのは……。


「”火山竜アタタカ”」


「もしかしてソイツは……”二つ名持ち”かい?」


 マーヤの問に、ロッシーは無言でうなずく。


 二つ名。


 それはモンスターの中でも、特に凶暴かつ強力な個体を識別するため、ギルドが定めた名前。


 基本的に二つ名持ちのモンスターは単一の個体で軍を相手にできるほど強力な力を持っている。


「火山竜アタタカは……溶岩に適合した地竜だ。普段は地中……マグマの中で過ごし、腹が減ったときだけ地上に出て餌を探し回るらしい」


「溶岩に適合とか……そりゃあ本当に生物か?」


 マーヤの言葉に、ロッシーはふんと鼻を鳴らす。


「ドワーフは過酷な環境下を選んで集落をつくる……故に昔から、運悪く火山竜と出会ってしまう集落も多かった。お前たちにとっちゃあマイナーな竜かもしれんが……ワシらドワーフにとっちゃあ悪夢そのものよ」


「そうか……この足跡の方角……このさきにドワーフの集落はあるか?」


 その問に、ロッシーは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「……ある」


「……じゃあ急いで向かわねえとな」


「向かうだと!?まさか火山竜を追いかけるつもりか!?」


 二つ名持ちモンスターがいたら、基本的に関わっていはいけない。


 彼らの力は強力無比で、一個人がどうにかできるような存在ではないのだ。


 しかし、マーヤは真っ直ぐな瞳でロッシーを見つめる。


「あんたの故郷だろ? じゃあ、助けないと」


「……二つ名持ちのモンスターだぞ?」


「そうだな……だけど」


 マーヤは不敵にニヤリと笑う。






「アタシは魔王より強いモンスターを見たことが無いんだ」




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