第48話 故郷はエーテルの彼方へ ⑩
爆発まで残り二十五分、ブリタニア号までは走って約十五分、脱出の時間も考慮してもこの幼体にかけられる時間は五分も無い。
しかし迂回している時間もない、五分以内にこの幼体を倒す必要がある。
「接近戦でシールドを剥がせ! 魔法部隊は援護! 銃撃部隊は他のベクターを処理しろ!」
流石のガラドでも焦りは隠せないようだ。
怪我人が今の所いないのでドクターはガラドの隣に来て現状を尋ねる。
「どうですか?」
「シールドを張っている間は動けないらしい、だから接近戦で動きを封じる事はできているが」
「時間がないですね」
「俺とあと二、三名を残して動きを止めておく、その間に他の連中を逃がそう」
「でもそれじゃガラドさん達が!!」
「いいから行け! 時間がない! 副長! 今の話は聞こえたな!?」
「はっ! 指揮を引き継いで撤退します!」
「よし! 独身で年長の奴二名は残れ!」
速やかに編成が組まれ、ガラド含む三名を残して撤退が始まる。後ろ髪を引かれる思いで幼体の横を駆け抜けていくが、どうしても後ろが気になって振り返った。
するとそれと同じくして後ろを走っていた爬虫人種の兵がつまづいて転んでしまった。
「大丈夫ですか!? いそい……あれ」
すかさず駆け寄って怪我の有無を確認しようとした瞬間、兵士が転んだ拍子に投げてしまったハルバードが幼体にぶつかって表面を軽く傷つけた。
傷をつけたのだ、シールドに弾かれる事もなく身体を。
「まさか横にはシールドがない……いや違う、攻撃に反応して?」
横からの攻撃も死角からの攻撃も既に行っている。それら全てシールドで弾かれてしまっているのでこの幼体はガチガチに固めた個体だと思われたが。
「攻撃しようという思考に反応してる? もしかしたら」
脳波に反応してるとか電気信号を感じているとか色々仮説はあるが、とにかく時間が惜しい今はそういった考察を置いておいて幼体に駆け寄った。
「何をしているドクター!? 早く逃げろ!!」
ガラドの焦った声が聞こえるが、一旦シャットアウトして幼体へ手を伸ばす。
「攻撃に反応するなら……治療のために」
さっきついた傷口へ手を伸ばす。思惑は当たりドクターの手は幼体の身体を直接触る事ができた。
「これは治療……これは治療」
「ドクター?」
これはあくまで治療行為だと自分に言い聞かせながら傷口に治癒魔法をかける。傷口を塞ぐその光景は傍から見ると何をしているのか意味がわからないかもしれない、もしかしたら裏切りと捉えられるかも。
しかしドクターは治癒魔法をかけながら幼体の体内を調べている、もちろんベクターの治療経験など無いから体内を診てもちんぷんかんぷんだ。
「見つけた」
そんなちんぷんかんぷんでもわかる事はある、それは心臓だ。治癒魔法は透過する事ができる、つまり直接体内に魔法を使う事ができるのだ。傷口から心臓までのルートをアナライズ魔法で確認したドクターは、今自分が出せる最大電圧の電流を流した。
「きゃっ!」
電流を流した瞬間、攻撃の意思に反応したシールドで弾かれて後ろへ飛ばされる。
「いたた」
「大丈夫ですか!?」
「は、はい」
さっき転んだ兵士が咄嗟にドクターを受け止めてくれたので目立った怪我はないが、弾かれた時に腕を軽く打ったようで少し腫れていた。
幼体ベクターはというと、全身をピクピク震わせながらその場に倒れるのが見えた。
「ドクター!? 一体何を?」
駆けつけたガラドがドクターを背中に担ぎ上げて部下と共に撤退する。ガラドの背中でドクターは簡単に説明をする。
「あの幼体は攻撃する意思に反応してシールドを使っていました。だからボクは治療目的で幼体に近づいて直接触れたんです」
「なるほど我々には出来ない方法だな。しかしそのあと攻撃したように見えたが」
「幼体の心臓を確認してその位置目掛けて電流を流したんです。いわゆる電気ショックですよ。これで死んだかどうかはわかりませんけど、とりあえず動きは止められましたね」
「ドクターだからこそできた作戦だな、普段なら命令無視を怒っているところだが。ありがとう助かった」
「いえ、ドクターですから」
目の前にブリタニア号が見える。既に発進準備ができているようで倒れ込むように中へ入って扉を閉める。脱出経路は先にオーガ隊の船が確保してくれていたのでそのまま後へ続く、コロ二ーを出る直前に大きな爆発音が聞こえた。
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