第46話 故郷はエーテルの彼方へ ⑧
ガリヴァーが群がるタガメベクターを排除していると、通信士がリオに報告を上げてきた。
「突入班から報告! 突入成功したとの事です」
「よし、全艦に通達! 分離に成功するまでクイーンをこの場に引き付けておくんだ! 大丈夫、作戦は順調に進んでいる」
といっても犠牲は大きい、既に戦艦の数は七百をきってしまっているし、死亡者数もそろそろ万を超える頃だ。
ベクター単体の戦闘能力は大した事は無いので、これまでは少数のベクターを相手にしても単艦で排除する事ができていた。しかし今回はベクターの大群が相手なので戦艦一隻では限界がある。
タガメベクターの排除に勤しんでいたらマンティスベクターにやられたり、またはアブベクターに貼り憑かれて行動不能になってから他ベクターに倒されたり、コガネムシベクターに侵入されて内部から破壊された艦もある。
「長くは持たない、急いでくれ」
――――――――――――――――――――
コロニーの制圧は思いのほか順調であった、というより思ったよりもベクターの数が少ないので進軍が容易いのだ。
しかし、コロニー内部は地形が複雑なためそういう意味で苦戦している。
中芯から無数に枝分かれした柱が、更に枝分かれして地面に着いているので。ジャングルを進んでいるかのような複雑さがある。奥に行けば行く程複雑なので段々進む足が緩む。
「コガネムシベクターがくるぞぉ!」
ドクターが振り返ると、コロニーのハッチから全長三メートル程のコガネムシベクターがぞろぞろと侵入してきたのが見えた。
ガラドが渋い表情を浮かべた後、簡潔に命令をくだす。
「数が多いな、最後尾から十名は戻ってブリタニア号の援護にまわれ!」
短い返事と共にドラゴニア兵が戻った。ドクターは真ん中にいたためか十名のうちに入らなかった。
残ったのはドクター含めて十八名。
「まずオーガ隊と合流しよう」
反対する者はいない、オーガ人は近接戦において最強とされる種族だ、少ない人数だからこそ彼らのような種族と共に行動する事は士気の向上にも繋がる。
「オーガ隊応答せよ」
「オーガ隊だ、こちらは今楽しい殺し合いの最中だ」
通信機の向こうから銃声と打撃音が聞こえてくるところから、相当激しい戦闘が行われているのがわかる。
「そちらと合流しようと思っているのだが」
「やめておけ、こちらにタガメベクターが集中している。このまま俺達が引き付けておいてやるから先に行って爆弾を仕掛けてこい」
「了解した、そちらは頼む。それと……この作戦においては俺の方が上だ、俺に命令をするな」
「はっ! 生きて帰ったら謝罪してやらあ」
「そうしてくれ、今日はいい死に日和だ」
通信を閉じたガラドは縦に長い編成を組んでからコロニーの進軍を再開した。時折頭上を通り過ぎていくベクターを見るに、本当にオーガ隊と戦艦の方へ集中しているようだ。
ドクターは進軍中に前へ進み、ガラドへ疑問となっていた事を尋ねる。
「あの、さっき言っていた『いい死に日和』ていうのはなんですか?」
「あれか、オーガ人は戦いの中で死ぬ事を何よりの名誉とする種族だ、彼等は戦いが始まるとさっきのような死を喜ぶ言葉を叫んで士気を高める」
「死ぬ事を」
「ドクターにとって複雑な心境だろうとは思う」
「えぇ、でもそういう文化があるというのは理解していこうと思います」
この世界には様々な惑星があり様々な文化がある。片方の文化に馴染めば、もう片方の文化に拒否反応を示してしまう事もザラだ。しかしそれらに一々突っかかっても敵が増えるだけである。
死を是とする文化もドクターにとっては共感しづらいが、そういうものがあるとだけわかっていこうと思っている。
「まずいな」
ガラドが後続へ向けてストップのハンドサインをだした。何事かと思いその場でしばらく待機していると、双眼鏡で周辺の偵察を行った部下の一人が戻ってきてガラドに耳打ちした。
「わかった。この先百五十メートルに渡って開けた空間がある、小型だがベクターも二十匹は確認されている。当然戦闘となればタガメ共もやってくるだろう」
つまり遮蔽物も何も無い空間を走り抜けてベクターの攻撃を振り切るという事だ。
「ここを抜ければ接続部まで目と鼻の先だ、最後の難関と言ってもいい」
コロニーの真ん中には一本の大きな棒があり、そこから枝分かれしてジャングルを形成している、そして根元はマングローブの根っこのようになっており浮き上がっている。
その根っこを切り分ければ接続部に到達する。
「部隊を分ける事も考えたが、下手に分けて全滅する可能性の方が高いと判断したゆえ全員で行く」
「突撃前に怪我をした人はボクのとこにきてください。擦り傷でもです」
ドクターの元へ部隊員が集まってくる、中にはどうして今まで黙っていたのかと怒ってしまうレベルの人もいた。
各自の治療を終え、改めて編成し直す。
「よし、全員突撃!!」
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