第36話 評議会の理 ⑤
「ベクタークイーンてあれだろ? 超大型ベクター、あんなのを討伐するなんて無理だ」
「いや、あのリオて男は超大型ベクターと戦って生き延びたらしいぞ、もしかしたら勝つ方法がわかったんじゃないか?」
中継を見ていた一般市民が議論を始める。
ベクタークイーンの討伐など、普段なら一笑に付すような提案だ。ゆえにこの中継を見ている者の中には非現実的と嘲笑う声が多々あるどころかむしろそっちの方が多い。
しかしそれでも中にはリオの提案を真面目に考えたり賛同する声もあった。
あるところでは。
「ヒャハハハハ!! おい見ろ超大型ベクターの討伐だってよ!!」
「ありえねぇ! 馬鹿だアイツ!!」
「だが、面白ぇ」
とある戦闘種族が胸の内から湧き上がる闘争心に火を付け始めた。普段彼等は評議会の中継など見る事はしないが、保守的な空気が漂っていた空間にメスを入れたため大きく興味をひいていた。
またあるところでは。
「彼は評議会を侮辱している!!」
「そもそも連盟に所属していないのに提案するなど」
「しかし彼は実際に超大型ベクターと戦って生き延びた、それにデータと心臓を持ち帰った実績は無視できない」
評議会の古株の種族達だ。彼等はまさに保守的思想といえるが、そのお陰で多くの生命が守られたのもまた事実だ。彼等が憤っているのは討伐についてではなく、リオが連盟所属でないのに提案している事だ。通常この評議会で提案する事は連盟所属の惑星でなければならない、今の状況があまりにも異例で憤っていたのだ。
――――――――――――――――――――
隣でサマンタランがニコニコしてるのが傍目に見てとれた。
「ムフフー、どうやら注目を集めてるみたいですよぉ」
「狙い通りだな」
「えぇ、ドクター達に頼んでたサクラもいい仕事してるみたいですよ」
ドクター達には星系中を周り、各惑星で流行っているSNSを使ってリオの噂を流し、同時に中継が始まったらリオの提案に賛同するようにサクラを雇わせていた。
この一週間星系中を駆け回り続けた効果が今出始めている。
別に反対意見が多くても構わない、大事なのは一般市民の目を超大型ベクター討伐に向けること。世論が同じ話題で盛り上がれば評議会議員だって無視はできない。
「掴みは良かったと思うべきかな」
「多分そうでしょうねぇ」
あまりにも騒がしいので議長が再び強制ミュートを掛けた。
しんと静まった評議会で自分の呼吸音がいやに大きく聞こえる、しばらくしてから議長が話を続けるよう促した。
「ベクタークイーン……超大型ベクターをそう呼んでいるのですが、まずこのベクタークイーンの特徴を上げていきましょう。大きさは十五キロメートル、魔砲……いや機械を通してないから魔法か、魔法が使えて体内にベクターを飼っている。ざっくりまとめるとこんなところです。
ここまでは皆さんもご存知かと思います」
少し待ったが異論は聞こえてこない、肯定と受け取って先にすすむ。
「ですがここで我々は大きな勘違いをしていました。ベクタークイーンは、実際にはその半分くらいの大きさしかなかったのです」
「なんだって!?」
これは上院議員の誰かが叫んだものだが、誰が言ったのかはわからない。この言葉を皮切りに再び議場はざわめきに包まれ始める。
また中継をみている一般市民も同様で、再びリオの発言に対して様々な議論が交わされ始めている。
もちろんこれは雇ったサクラがいい仕事をしている証でもある。
「まずこれを見てください」
リオの背後に大きなホログラムモニターが現れる。同時に各星系のブースにも同じようなモニターが現れる、中継モニターは直接それを映している。
ホログラムモニターでは動画が流されていた、全体的に薄暗く気持ち悪い空間であった。
騒がしくなる前に議長が「この動画の説明を」と急かす。
「はい、これはベクタークイーンの体内です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます