第25話 あの艦を目指せ! ③
「毒が作れないってどういう事ですか……それじゃボク達の旅はなんの意味も」
ドクターの狼狽も最もだ、彼女達はそもそも連盟にクイーンの心臓を持って行って研究してもらい、毒を作ってクイーンを殺そうとしていたのだ。
そしてその心臓を運んだ功績を元にアルファースと地球へ援軍を出してもらうつもりだった。
「おおっとぉ、誤解を招く言い方は困りますよ国王」
すかさずサマンタランが訂正を求めてきた。
「正確には直ぐに作れないという事です、何せクイーンが大きすぎるので、ただでさえ生命力が高いのに加えてあの巨体では毒が回りきらないんですよねぇ、クイーンを殺すためには相当強力な毒が必要なので直ぐに開発というわけにはいかないのです、はい」
「それって、どれくらい」
「まあ、具体的な数字はわかりませんが、大体五年〜十年ぐらいでしょうねぇ」
長い、それだけの長い期間をアルファースが耐えられるとは思えない。
「ですがご安心ください、貴方達の旅は無駄ではございません、はい」
「でも毒は直ぐ作れないんですよね」
「あくまで直ぐにはです、それがわかっただけでも大きいでしょう、それに殺すには至らなくても動きを鈍らせる薬なら製作可能ですよ」
なまじ医療に携わっているので薬の開発がいかに大変かは理解しているつもりだ。
今はこの旅が無駄ではなかったという事を慰みとしておこう。
「さてさて、では明日の朝よろしくお願いします。集合場所はシャトル発射口でよろしいですね?」
こうして、この日はモヤモヤした気持ちを持ったまま終える事となった。
そして次の日の朝。
「シャトル発射口てここでいいんだよな?」
「だと思います」
メモを片手にヒデとドクターがフラフラとさまよい歩く。領事館をでて発射口まで続く軌道エレベーターを登って数時間。
シャトル発射口と呼ばれる施設に入った二人はサマンタランが用意したシャトルを探して迷っている。
「えっ〜〜と、ここかな、四〇二番ゲート」
「メモだとここて書いてあるな」
意を決してゲートを潜り中へ、中では既にサマンタランとドラゴニア国王が用意した操縦士が待っていた。
「少し遅刻ですねぇ」
「あ、すみません、えっとそちらの方が?」
「そう! 操縦士の方です、はいではご挨拶お願いします」
サマンタランに促されて操縦士が一歩前に出る。
見た目はヒューマンタイプの異星人でシルエットは地球人と変わらない。赤毛に青い瞳が印象的な少女だった。地球人との一番の違いは額の隆起であり、一見すると角のように思える。
服装は繋ぎ目の無いパーカーと二分丈のスパッツにゴツめのブーツと快活なイメージを沸き立たせる。
「あたしが操縦士のロビンソン・デフォーよ! よろしくね!」
「ロビンソン・デフォー……もしかして」
「そう、あんた達が助けようとしてくれたロビン・デフォーの孫娘よ」
「おめぇロビンの孫だったのか!?」
「えぇ、あなた達が持ち帰ったネームタグのおかげで、ようやくお爺ちゃんをお見送りできたとお婆ちゃんが喜んでたわ」
リオがアチータに託したネームタグは、アチータが責任をもって遺族へ届けたという事は聞いていたが、まさかこのような形で返ってくるとは思ってもみなかった。
「これはあたしからのお礼、どこへでも連れてってあげるよ! なんたってあたしは冒険家ロビンの孫なんだから!」
このロビンソンとの出会いは、ガリヴァーでの旅が無駄ではなかった事を示す最も有力な証拠であった。
――――――――――――――――――――
「で、副長もいるわけと」
「システムですので」
しれっと艦に副長が搭載されていた。
サマンタランが用意した艦はラボラトリーで開発した最新のシャトルだそうだ。全長は三十メートル程とこれまで乗ってきた艦に比べると小さいが、エンジン出力が断トツで良く、安定性にも優れているそうだ。
見た目は鮫に似ていたガリヴァーと違い、こちらはトビウオを思わせるフォルムをしている。
昨夜の会議で「ロイヤルメローは鈍重ですからねぇ、速いのを用意しました」と言って国王を怒らせていたのは記憶に新しい。
「名前はブリタニア号、ドラゴニア国王が名付けました。無理矢理」
サマンタランが非常に疲れた顔をしているのはあの後たっぷりお説教をされたからだろうか。
「名前の由来はかつてドラゴニアを一つにまとめた騎士からとられています。ドラゴニアがまだ妖精人種と爬虫人種と哺乳人種の三種族で争っていた時代にその騎士が現れました。騎士は自らを「ブリテンの騎士アーサー」と名乗り、争いを鎮めるべく志を同じとする同士を三種族から集めて騎士団を結成しました。
そして紆余曲折を経て爬虫人種のアングロ王と哺乳人種のサクソン王、そして妖精人種のカムラン王との四つ巴の争いに勝利し、長い戦争に終止符をうちました」
「ブリテンの騎士アーサーですって!?」
「おいおいそいつは地球で有名な伝説の騎士王じゃねぇのか!?」
地球にはアーサー王伝説というものがある、あまりにも有名なのでドクターやヒデのような異世界人ですら知っているくらいだ。
二人の反応を見てサマンタランは満足そうにうんうんと頷いた。少し遅れてから何やら興奮した面持ちをみせドクターとヒデに詰め寄ってくる。
「イグッ! ザクトリィ! そうその通り! 実はドラゴニアを救った騎士は地球人だったのです!!
何故地球人がドラゴニアにという謎ですが、おそらく次元の穴が関係しているでしょうな、聞くところによると地球とアルファースは次元を超える穴を使って交流しているのだとか」
「えぇ確かに、ボクは実際その穴を使った定期便で医者をやってますし」
「アーサー王は戦いの後行方をくらましましたが、おそらく当時まだ安定していた次元の穴を使って地球に帰り自身の物語を書き残したんでしょう、もしくは近しい人が地球に行って書き残したかと思われます」
「はぁ〜〜、今あるファンタジー物語はノンフィクションの可能性出てきちまったな」
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