第8話 浮遊機械都市キュービック ⑤

「最上位権限て、なんであんたがそれをもっているんだ?」

 

 リオとマスターとの取り引きにて、マスターから報酬としてだされた最上位権限について尋ねる。機械都市を運営しているマスターが何故一隻の戦艦の最上位権限などをもっているのだろうか。

 

「当然の疑問です。あなた達の乗ってきた艦は今から三週間前にここへ訪れていました」

「やはり補給のために?」

「それもあります。ですが一番の目的は準備のためでした」

「一体何の準備なんだ?」

「自分達が死んだ時のための準備です」

「なんだって!?」

 

 もしそれが本当だというなら、前クルー達は生還する見込みのない場所へ向かおうとしていた……いや実際に行ったのだ、そして全員が殺されてしまった。

 

「ちょっと待ってくれ、わざわざ最上位権限だけ残したってことは、つまり前クルー達は自分達の命よりも艦が無事に帰れる事を優先したってことか? そして新たな艦長が最上位権限を得て全てを知り、故郷へ持って帰らせようとしたと?」

「その通りです」

「ガリヴァーに一体何があるんだ?」

「それを知りたいのでしたら」

「最上位権限を取れってことかよ」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 小惑星帯を抜けながらリオは機関室へコールする。程なくしてヒデが通話にでるが、やはりかなり慌ただしいようだ。

 

「なんだ艦長? こっちは忙しいんだ!」

 

 スピーカーの向こうからドクターの「ちょっと早く戻ってきてください!」という声が聞こえてきた。機関室のヘルプにドクターと副長を送っているが、やはりかなり無茶なようだ。

 

「リアクターの出力を上げて欲しいんだけど」

「ああ!? だったらもっと人寄越せ!」

「無茶言うなって、ドクターと副長もそっちにいるだろ、これ以上は無理だって」

「物資以外にも人手も買っとくべきだったあ!!」

「副長、もう少し機関室へリソースまわせるか?」

「可能です」

 

 隣に立っていた副長の姿が消え、声だけが聞こえる状態になる。さっきまではブリッジと機関室にそれぞれ副長が一人ずついる状態だったが、ブリッジのリソースを機関室に回すことで音声だけ残る形になった。

 これで多少はマシになるだろう。しかしブリッジにいるのはリオ一人になってしまったのでやや心細い。

 

「ヒデさん、出力上げれるか?」

「ああ、なんとかしてみせる。幸い基本的なシステムはアルファースで使ってるエーテルシップと同じだったからな」

「なんだって?」

「どうした?」

「いや、なんでもない。ちょっと腑に落ちた事があっただけだ」

「そうか……リアクターだが、あと一分で最大出力がだせるぞ」

「わかった」

 

 プツンと通話を切る、一分は長くて短い。ならばその一分で一つ聞きたいことを聞いてみようと思い副長を呼び出す。

 

「副長」

「はい艦長」 

 

 声だけがスピーカーから聞こえる。

 

「あんた達の組織とアルファース、そして地球とはいつから交流があったんだ?」

「二年と八ヶ月前からです」

「なるほど、ガリヴァーのシステムをドクターとヒデさんが早期に理解できたのも、アルファースと地球に提供した基本システムを使っていたからだな」

「はい、よく技術交流をしていた事に気づきましたね」

「勘だよ」

「なるほど、私には理解出来ないものです。それと、魔砲の射程範囲に入りました」

「よし、雷電魔砲ホーミングエレキテル! 発射用意!」

「了解、雷電魔砲ホーミングエレキテル発射シークエンス開始します。詠唱コード入力完了、エーテルリアクター出力最大で安定、魔力値上昇、ターゲット小型ベクター、マルチロック開始」

 

 レーダーに映る小型ベクターを表す赤い斑点が次々と四角の枠で囲われていく、四六八体全てをロックするのにおよそ十秒程かかり、終わり次第副長が「発射準備完了しました」と伝達してきた。

 

「発射!」


 短い掛け声と共にガリヴァーの船体が黄色く輝く、それから左右に小さな魔法陣が大量に現れ、そこから電気で形成されたミサイルのようなものが飛び出した。

 それらミサイルは小惑星帯を掻い潜りながら小型ベクターの群れへと突撃していきその身体を次々と貫いていく、何体かの小型ベクターは逃げ出すが、ホーミングエレキテルはその背中を執拗に追い回して最終的に身体を穿っていく。

 こちらに気付いた小型ベクターも何体かいたが、何かをする前に全てホーミングエレキテルが始末したので奇襲作戦は成功したと言える。

 

「ふう、生き残ってる奴が居ないか確認し」

 

 最後まで言い切る前に突然艦が大きく揺れた。

 何事かとモニターを見やると、なんと小型ベクターよりも大きい個体がガリヴァーの正面に貼り付いていたのだ。

 

「どうやら付近の隕石を盾にして生き延びた個体のようですね」

「図体だけじゃなく脳味噌も他よりでかいってのか」


 だが正面に貼り付いているならチャンスだ。

 

「スクリーンシールドを前面に展開! 目の前のでっかい隕石に押しつけろ!」

 

 ようはプレスしてしまおうという。

 押し潰す僅かの時間の間にベクターの断末魔の叫びが聞こえてきた。

 

「空気がないのになんで声が」

「音波魔砲の一種です、漂うエーテルに音を載せて付近に伝える事ができます」

「ふーん」

 

 全てのベクターを殲滅した事を確認してから、機械都市キュービックへ進路を戻す。初めての戦闘だったが、上手くいって良かったと思う。

 あとは追加補給と最上位権限を得れば今回の依頼は終わりだ。

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