第22話
クラスマッチは、各クラスから二チームずつ出場することになっている。
学年全体で八つもクラスが存在するため、合計16チームが出来上がることとなり、ちょっとした小規模の大会レベルになっている。
形式は一発勝負のトーナメント戦で、試合は前半後半10分ずつの計20分。
やる気がある者からすれば、一試合20分の試合を何度も出来てやりごたえがあるし、流したい者にとっては、トーナメント形式であるので一回戦目で負ければ、今日一日は特に何もしなくていいようになっている。
そんな形で始まったクラスマッチだが、侑人たちのチームは初戦から良い滑り出しだった。
サッカーを始めとして球技経験者が大半を占めるメンバーで、常にボールを持って攻めているような状態が維持出来ていた。
ディフェンスを任されている侑人としては、初戦は特にやることが無く、20分の間に片手で数えるほどの相手からの跳ね返されたボールを、前のポジションのメンバーにパスすることぐらいしかなかった。
流石に、敦人たちがチーム分けの時点で自分たちから「構成がガチすぎるかもしれない」と言っていただけはある。
ただ、このクラスマッチのためにチーム全体で練習など出来る機会は無いし、実際にやってみてどうなるかよく分かっていなかったので、余裕のある状態で一試合消化出来たことは、侑人にとってありがたいことであった。
「この感じなら、ある程度のところまで行けそうだな。何もすることが無かったわ」
「まぁ、本格的な勝負になるのは対戦相手を見る限り、もう少し先だな。その時には、頑張ってくれよ?」
「マークと適当に遠くへクリアすること、そして何よりシュートブロックは任せろ」
「お前って、球技苦手とか言う割に、体で止めるのあんまり抵抗ないタイプなの?」
「大体どこで受ければ痛くないか知ってるし、あんまり気にならんな」
侑人はさらっと答えたが、敦人は意外そうな顔でちょっと苦笑いしながら首を傾げた。
一つのグラウンドで一試合ずつゆっくりと進行させていくので、次の試合までの長い待ち時間の中で、他クラスの試合を見たり、色々と話をしながら時間を潰す。
このクラスマッチが始まる直前で分かっていたことだったが、初戦には結愛や湯次達を含めた女子達は応援に来なかった。
理由としては、女子のバレーは体育館を何分割かにして同時進行で行えるらしく、予選リーグ形式で、最低でも何試合か行うことになるらしい。
二人の話によると、結果や試合の流れや組み合わせ次第で、二回戦目からは応援に行けるのではないかと言う話をしていた。
本気で構成されたチームに居るので、初戦負けは全く考えていないとは言っていたが、そう言う意味でも余裕を持って勝てたことは良かったことかもしれない。
一試合20分と言うのは想像以上に長く、二回戦に突入するころにはすでに午後に突入していた。
この試合でも、敦人たちオフェンス陣が優位に試合を進めているのだが、相手チームにも一人サッカー部が所属しており、後半に入ってもまだ1-0とわずかにリードしているという状態で、初戦ほどスムーズな試合運びとはならない。
それでも、そのサッカー経験者がディフェンスに徹底して回ること状態が続いているため、侑人にはあまり出番が回ってこない状態が続いている。
「おーい、そこのやつ! 前線に出て、頑張ってみんなを助けんかい!」
「……声でけーな、あいつ」
その声を聞いただけで振り向かないでも誰が居るか分かるのだが、念のため振り向いてみると、柚希や結愛たちを含めたクラスの女子達が応援に来ていた。
柚希はああして煽ってくるが、何も出来ないのに不要に前に出るだけカウンターの可能性を拡げるだけなので、前には出られない。
ちゃんとした理由があるので、サッカーを知らない子も多い中で、まるでサボっているかのように言わないで欲しいのだが。
そんなことを内心思っていると、混戦を極めているオフェンス陣の方に変化が現れた。
「やばい! 抜かれた!」
相手チームのサッカー経験者と言われている相手が、敦人からボール奪取し、ドリブルしながらこちらのゴールに向かって迫ってくる。
いよいよ、ずっと待機していた侑人たちディフェンス陣の出番がやってきた。
侑人としては、もっと大差がついた状態で一度守る機会が来るのではないかと思っていたのだが、ゴールを許せば引き分けで何が起きてもおかしくないPK戦になるという、想像以上に緊迫した場面である。
「小野寺。あいつはなかなかサッカー部の中でもうまい。俺が止めに行くから、フォローできるようなら頼む」
「了解」
侑人のチームにも、オフェンス陣だけではなく守る方にもサッカー部所属の者が控えている。
二回戦にして、早くもサッカー部同士の1対1の対決が実現し、応援に来た女子だけでなく、他クラスの生徒たちも興味深そうにその対決を見送っている。
侑人も少しずつ下がりながらその対決を見ていたが、動きを見ると言われた通りでとても止められそうにはない。
このボールの奪い合いに加勢するのも手だが、そうしてしまうと侑人の方から突破を図られてしまう可能性が高く、今の拮抗した戦いを無駄にしかねない。
「フォローして欲しい」と頼まれたものの、どうしたらよいか分からずにいると、攻め込んで来ん出来た相手が、ディフェンスを振り切りかけていた。
「くっそ……!」
突破されかかったところで、反則覚悟でもたれかかる様にして突破しようとする相手に体重をかけた。
それでも振り切られてしまったものの、体勢を少し崩した。
後ろからは、攻めに回っていたメンバーが戻って来ている。
ここから体勢を戻して再び突破を図るのは、流石のサッカー部でも、無謀であることは侑人にも分かった。
ならば、相手がしてくることは一つ。
ディフェンスに戻ってくるメンバーに追いつかれる前に、シュートを打ってしまうことしかないはず。
そう侑人が予測したように、やや崩れた体勢から足を振り上げてシュート体勢に入る。
(意地でも止めるしかねぇ……!)
強いシュートを打つなら、身体や足の向いている方向に打つしかない。
PKぐらい至近距離なら、フェイントや逆を突いたシュートも打てるが、そこまで強いシュートは打てないし、PKほど近くない。
「侑人! 意地でも止めんかい!!!」
「言われなくても分かっとるわ!!!」
そこまで咄嗟に考えて、侑人は柚希がヤジを飛ばしたのと同時に、予測したシュートコースに体を思いっきり投げ出した。
すると、低い弾道で猛烈な勢いで飛んできたシュートが、侑人の太ももに直撃してバチンと大きく鈍い音を立てた。
進路を妨害されたボールは、そのまま点々とラインを割ってフィールドから出て行き、それを見送ると同時に審判を務めている他クラスのサッカー部員がタイムアップを告げた。
ブロックして転がったボールは、その転がった先に居た人に両手でそっと持ち上げられた。
その人は、先ほどのシュートブロックの光景とあまりにも鈍く大きな音を聞いて、慌てふためいた表情をしている結愛だったのだが。
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