第7話
「お待たせしました! 無事、購入出来ました」
「良かったです。こんな可愛らしいお店、初めて来ました」
「なかなか男性だけでは入れませんよね」
「入ったら、不審者以外の何者でもないですからね」
色々な店舗を回った結果、結愛は柚希への誕生日プレゼントとして、可愛らしい小物ポーチを選んで購入した。
侑人としても、過去渡すものとして小物ポーチを候補に挙げたことはあったが、結愛がポーチを購入したお店がそもそも非常に可愛らしい店。
結愛が一緒に居たことで、少し店舗内に入っても変な目で見られずに済んだが、男一人では絶対に入れそうにない場所だった。
そう考えると、これまでの自分では経験出来なかったことを、一つ知ることが出来たということになった。
「小野寺君は、何にされるか決まりましたか?」
「うーんと……」
今まで気にしていなかったが、こうして可愛らしいプレゼントを用意しているところを見ると、考えた候補全てが微妙に感じられ、今度は侑人が少し考えこんだ。
「悩まれていますか?」
「色々と考えたんですけど、どれも微妙かなって思ってしまって」
「こんなこと勝手に言ってはダメかもしれませんが、小野寺君が考えて買った物なら、柚希は何でも喜ぶと思いますよ?」
「そうですかね?」
「そうですよ。だって今までも、あれだけ嬉しそうにしているのに、小野寺君が『真面目に考えて選んだ』って聞いたら、より大事にするかと思います。これは、ずっと傍にいる友達として保証します!」
そんな力強い彼女の一言に押されて、もう一度今まで考え直した候補を整理して、どれが個人的に良いか考えてみた。
「文房具にします。よく贈ってますけど、シャーペンやボールペンなど色々種類はありますし、あって困るものでもないと思いますので」
「良いと思います」
侑人も購入する物を決めて、販売されている店舗に引き返してもう一度色々と見て回っていく。
「これ、いいかもしれない……!」
侑人が目をつけたのは、可愛らしいキャラクターが付いたシャーペン。
名前こそは知らないが、女性に人気のキャラクターであることを話で聞いたことがあった。
「いいですね! クリップのところにこんな小さなストラップが付いているの、凄く可愛いじゃないですか」
「これにします。いつもよりかなり洒落た物で、あいつびっくりするかもですが」
彼女からの反応も良く、値段も予算に合っていたので迷わずに購入を決めた。
購入を終えると、時刻はお昼を少し過ぎたくらいの時間になっていた。
「無事、用意出来ましたね」
「すみません、色々と悩んでしまったせいでかなり遅くなってしまいました」
「いえいえ、悩んだのは私も同じですから」
最初こそは「学校外の時間に会う」ということを無駄に意識してしまって、緊張しかしていなかったが、普段からそれなりにやり取りしていることもあって、すぐに落ち着いて過ごすことが出来た。
「あの、良ければなんですが……。お昼ご飯も一緒にいかがですか?」
当初の目的を達成したところで、彼女から思わぬ誘いが来た。
「いいんですか?」
「お時間も良い頃ですし、もし予定が無いのであればなんですけど……」
「『休日の昼食なんて、好きにしろ』と家族から言われてますから、大丈夫ですよ」
「そ、そうですか! 時々行くおすすめのカフェがあるんですけど、一緒にいかがです?」
「いいですね。カフェなんて、普段の生活で行かないので是非!」
昼食誘ってきた彼女は少し不安そうな表情だったが、侑人の反応を見て嬉しそうな顔をした。
話がまとまったところで、彼女がおすすめというカフェに向かうことにした。
「そのカフェは、この近くにあるんですか?」
「はい。このショッピングセンターの近くにあって、家族や柚希達と遊びに来た時とかたまに行ってるんですよ」
そんな話を聞いて、改めて男同士でのプライベートの違いを感じる。
そもそも、「カフェ」というオシャレな単語を発する機会すら、男子だけの絡みでは一切ない。
そう考えると、すでにお付き合いをしている敦人はそういうことが色々と分かっているということになる。
(ちょっとむかつくかも……)
内心そんなことを思いながら、侑人は結愛と共にショッピングセンターを後にした。
休日であることもあって、どこも車と人が多い。
(こういう時は、男が車道側を歩いた方が良いんだっけ……)
うろ覚えだったが、こうして男女が二人並んで歩く時に、男が比較的危ない車道側を歩くということを聞いたことがあった。
休日で交通量も多く、無茶な運転や慣れない運転をしている車も多いはずなので、侑人はしれっと結愛に意識されないように、車道側を歩いた。
「今更にはなってしまうんですけど、今日はお誘いいただきありがとうございます。何か誘いたいとは思っていたんですけど、いきなり過ぎるとも感じてまして」
「いえいえ。いつも気を遣っていただき、こちらこそありがとうございます。今日も、こうしてタイミングよく私たちを合わせてくれた人の誕生日が来てくれたおかげですかね?」
「ですね。当の本人は、まさか一緒にプレゼントを探しに行っているとは思ってないでしょうけど」
「でしょうね」
今頃、部活に身を投じている柚希が、噂されてくしゃみをしているに違いない。
「あの、よかったら気軽に何でも誘ってください。小野寺君のこと、かなり分かってきて、こうしてやり取りも安心してたくさん出来ますし」
「でしたら、放課後にどこかで一緒に勉強したりするのはいかがです?」
「はい、是非とも!」
今日一日こうして関わったことで、今後も二人で会う予定をまた一つ立てることが出来た。
また一つ、歩み寄れたような気がして、侑人が満足した時。
「危ない!」
「えっ!?」
スピードを出して走る自転車が二人の向かう方向から来ていたため、彼女とすれ違う直前で咄嗟に結愛を抱き寄せた。
抱き寄せた直後、かなりのスピードで宅配ボックスを付けた自転車が駆け抜けていった。
「あ、危ねぇ。あんまり見たことなかったけど、本当にああいう感じでスピード出してこの人が多いところを走るのか……」
「……」
「す、すみません!」
自転車が見えなくなって、視界を戻した瞬間、自分が何をやっているのかに気が付いて慌てて抱き寄せていた腕を彼女の体から離した。
恥かしさと、なぜか離した後から結愛の体の感触が頭に焼き付いて、顔が急に熱くなった。
「い、いえ。守ってくれて、ありがとうございます……」
結愛の方も顔を真っ赤にしながら、小さな声で礼を述べてきた。
「気を取り直して、カフェに行きましょうか?」
「はい!」
少しだけ気まずい雰囲気になったが、ここは侑人が明るく話題を戻した。
再び歩みを進めだした二人は、先ほど抱き寄せた余韻を残すように、触れ合うくらいの近さで隣り合いながら、カフェへと向かった。
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