第4話

 結愛とやり取りを始めて数日が経過して、それなりに板についてきた。


 メッセージのやり取りを始めた際は、どれくらいの頻度で返すべきかということに悩んだりしていた。

 同性の友達である敦人や、幼馴染である柚希には秒で返しても特に問題ないが、こうしてこれから仲を深めようとする異性相手には、そうもいかない。


 相手の返信間隔に合わせることを意識してやり取りを始めると、結愛は思った以上に短い間隔で返信をしてくれるために、それなりに会話が盛り上がっている。


 そしてもう一つ、このやり取りが始まってから侑人が行い始めたことがある。


「真島さん、おはよう」

「おはようございます、小野寺君」


 朝、登校してきて結愛に挨拶をするようになった。

 最初に柚希から「せめて挨拶くらいは頑張った方が良い」と言われたが、侑人としてもそれは尤もだと感じていた。

 メッセージのやり取りをいくら出来ても、リアルでは素知らぬ顔と言うのはただのネット弁慶のようでダサいのも事実。


 そう言う理由もあって始めたことだが、声をかけるといつも笑顔で挨拶を返してくれる。


「小野寺君、昨日は課題で分からないところを教えていただき、ありがとうございました!」

「いえいえ、たまたま分かっていたところだったので」

「小野寺君も、もし分からないところとかあれば遠慮なく聞いてくださいね!」


 こうして挨拶をきっかけに、軽く話すのもルーティン化しつつある。

 メッセージのやり取りを始めた次の日、侑人が挨拶をした後、彼女から「返信早すぎますかね……?」と不安そうに聞かれて、同じようなことで悩んでいたことが分かり、それを打ち明けるとお互いに笑いあってしまった。

 そこからより打ち解けて、今のような流れが出来た印象がある。


 周りの目もあるので、いつも短いやり取りで終わってしまうが、こうして話せるのは毎日のささやかな楽しみになりつつある。


「へぇ、良い感じじゃーん」


 ただ、結愛と一緒に居る柚希がニヤニヤとした顔で見てくるのは、侑人としてちょっとしんどいところではあるが。

 今までは話すことすら考えられなかったのだから、そのきっかけをくれたこの幼馴染には、頭が上がらないわけなのだが。


「さりげなーく侑人とどうか聞いてるけど、いつも楽しいって嬉しそうにニコニコしてる。意外とあんたやり手だったりする?」

「そんなことねぇよ。でも、何だろうな……。お互いに慎重な性格?というか関わり方が似ているところがあるのかもしれない」

「言われてみると確かにそうかも。どういう形であれ、良い雰囲気で進んでいるのは良いことだね」

「おう」


 紹介した本人も、現状の雰囲気にはかなりご満悦な様子。


「この感じだと、次のステップに進むのも早いんじゃなーい?」

「……次のステップって何になるんだ?」

「うーん、一緒に遊びに行くとか?」

「いきなり飛躍しすぎなのでは!?」

「え、そうかな?」


 冗談で言ってきたのかと思ったが、柚希は侑人の反応に予想外と言った反応を見せている。

 流石、既に彼氏がいるコミュ力抜群のイケイケ女子なだけある。


「メッセージはそれなりにやり取りしてるけど、対面で話したのはお前が面会させてくれた日と、この朝の数分間だけだぞ?」

「だからこそじゃない? 学校で厳しいなら、別の場所で確保しないと。そうなると、どこかへ遊びに行くとかご飯食べに行くとかするってなりそうだけど?」

「それはそうかもしれないが、真島さん自身が食い気味に迫られることが苦手って言うことから始まった今回の件だろ? 最初にそれを言ったお前が、前のめりになっちまってどうするのよ」

「それを言われちゃうと、そうかもしれないな……。何だろうな、さっき言ったみたいな誘い方だと、二人の関係性メインになっちゃうから、別の目的で一緒に居られる時間を作れるといいかもね」

「別の目的ね……」


 柚希はちょっと難しそうな顔で言っているが、侑人としては彼女が何が言いたいのか何となく分かっていた。

 二人の関係性を深めることを第一目標とせずに、他のことをメインで一緒に居られるような出来事があれば、ということを言っているようだ。

 ただ、そんな都合のいい出来事が簡単に見つかるはずもない。


「まぁすごく難しいことを言っている自覚は、流石の私でも分かるんだけどね。身近なところで言うと、定期テスト勉強一緒にやるとか?」

「あー、なるほどな。でも、前期中間テストが終わったばっかりだからな。次の試験は、七月頭の前期期末テストでまだ先の話だな」

「だよねぇ。もどかしいなぁ」


 近くで見守ってくれている柚希がここまで言ってくれるのだから、出だしの関係性としては悪くないのだろう。

 ただ、毎日それなりの頻度でやり取りしているので、いつかマンネリ化してくるという可能性が無いわけではない。


「何か一緒に出来ることね……」

「やり取りの中で、そう言うことも見つかるといいね」

「そうだな」


 そう答えると、柚希はニコッと笑って結愛の元へと戻って行った。

 こういうところは、優しくて頼りがいのある幼馴染で、自分は恵まれているなと感じてしまう。


(ただ、学校外の時間で真島さんと一緒はまだまだ難しいな)


 少し考えて思いついたのは、やはり勉強関連で一緒に行うというもの。

 定期テスト前でなくても、放課後少しの時間なら誘っても違和感が無いかもしれない。

 どちらにしても、もう少しやり取りをして友好関係を深めてからになる。


 そう思っていたのだが……。




 ―あの、そろそろ柚希の誕生日ですよね? 小野寺君が毎年、柚希にプレゼントしているのを見てましたので、良ければ一緒にプレゼント探しに行きませんか?


 思わぬところから、先ほど言っていたような理想的な形で二人で過ごせる出来事が舞い込んできた。

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