第2話

 あまりにもあっさりしすぎている幼馴染と、その隣でちょっとだけ落ち着かなそうにしている高嶺の花。

 挙動不審と分かっていても、この二人の女子を交互に見つめてしまうのだが、それでもこの目の前の現実を受け止めきれない。


 何度目をこすって見直しても、明るい茶髪の長髪がストレートに伸び、落ち着いた雰囲気が漂う美人がそこにいる。


 教室内でもよく一緒のグループで仲良くしている姿は見ていたので、この二人の仲が良いということを疑うことはないのだが。


「……そんな挙動不審だと、結愛が怖がるんだけど」

「す、すまん。正直まだこの状況についていけてない」

「す、すみません。やっぱり私が来ない方が良かったですかね……?」

「いやいや! そういうことじゃないんですけども……」


 侑人的にただただびっくりしているという状態なのだが、結愛からすればちょっと嫌がられていると感じてしまった様子。

 色々と疑問はあるが、拒否しているつもりは全くないので慌ててそうではないことを告げた。


「大丈夫! こいつ、女子に対する免疫無さ過ぎてオドオドしてるだけだから」

「事実だけど言うなよ。すいません、本当にびっくりしているだけなので!」

「でしたらいいのですが……」


 侑人と柚希の言葉に、結愛はちょっとだけ安心したような様子を見せた。


 そんな彼女の姿を見て、侑人自身もホッとした。

 しかし、それと同時になぜ幼馴染と共に彼女がここに来たのかという疑問が生じている。

 周りの話からも、敦人からの話からも男子からのアプローチは常に受けており、それをすべて断ってきているとの話。


 これだけ男子からモテる人なので、イケメンやスポーツ万能、はたまた他の要素に秀でた相手も居たはず。

 それでも断っているということは、そもそも恋愛や男子に対する興味が無いか、極めて消極的なスタンスであると考えられる。


「まぁ言うまでもないだろうけど、私と仲良くしてる結愛だよ。相手としては申し分ないでしょ?」

「ゆ、柚希! そんな紹介の仕方されると、恥ずかしいよ……」


 得意そうに柚希だが、その紹介のされ方をするとどう返事をしていいか分からない。


「も、もちろんこうして紹介してくれたのは嬉しいけど、真島さんって結構色んな男子から告白されて断っているという話を聞いているんだけど……?」

「えっと、恋愛に興味が無いわけではないんです。告白してきた人は、何といいますか……」

「結愛自体が、そんなに男子と喋る機会がないからね。全然知らない相手から告白されても、それを受け入れるのは抵抗あるってこと」


 侑人自身も教室内での結愛の姿を思い返してみたが、確かに男子と喋っているところはほとんど見たことが無い。

 どんな相手にも一定で穏やかに接しているイメージしかないので、今までそんな風に思ってこなかった。


 後、柚希の性格がきついので、彼女に話しかけようと男子が迫ってきても、この強すぎる壁を超えて話しかけるのは至難の業であるような気もする。


「それで、ちょっと落ち着いてコミュニケーション取れる男子居ないかなってちょっと前から言っていたんだよね」

「関係性を築きたいのであれば、もっと積極的に関わるべきなんでしょうけど、何でしょうね……。思った以上に、皆さん詰め寄ってくるものですから」


 彼女の言葉に、侑人としても何となく想像がついていた。

 確かに、こんな美人から話しかけられたらどんな男子も舞い上がるに違いない。

 しかも、「もともとあまり男子と話さない」という印象があるため、話しかけられたりでもすればより「自分に可能性があるのでは?」と、前のめりになるのも容易に想像がつく。


 そうなってしまうと、落ち着いて会話するってことはなかなかに難しいのかもしれない。


 男子があまり関われない高嶺の花であるからこその弊害が起きている、と言ったところ。


「なるほど。色々と難しい問題が山積してるから、きっかけ一つすらなかなか……ってことか」

「そそ。だから、私がちゃんと分かってる人を紹介するとかなら、いいきっかけ作りになるかなって思ったの。なんだかんだいつも言い合いしてるけど、侑人が真面目かつ落ち着いた性格だって、誰よりも知っているつもりだし。顔は……まぁこれまで結愛に告白してきたモテ男よりはグレード落ちるけど」

「最後の付け足し必要だったか?」

「柚希から聞いてましたけど、さすが幼馴染ですね。息ピッタリで聞いてて楽しいです」


 そんな侑人と柚希のやり取りに、結愛は控えめながら楽しそうに笑った。


「それに侑人って基本ビビリだから、結愛と話しても舞い上がったりして、詰め寄ったりして怖がらせたりしなさそうだし? 仮にしたとしても、私が間にいるからすぐに抑えられるってのも、今回紹介に踏み切った決め手かな」

「色々と好きかって言われているが、周りの男子みたいに行けないのは事実だな。もちろん俺は大丈夫だけど、真島さん自身はどうなんでしょうか?」


 付き合えるかどうかというよりも、こうして女子と接点を持つ機会が得られるのは侑人としてはありがたいことである。

 しかし、これはあくまでも個人的な関りであるため、双方の同意が無ければ話が進むことはない。


「是非ともお願いします。柚希の紹介ということもあって、人柄については心配していませんでしたし、こうして話していて良い人だと思いましたので」

「今の話で良い人に思ったの? やっぱり結愛って心配になるな~」


 彼女自身も侑人に対して、第一印象は悪くないものに映ったようだ。

 柚葉の言う通り、ここまでのやり取りで良い人と言う雰囲気が出せた気が全くしていない。

 なので、そう判断してもらえたことをありがたいと思いつつ、そんな幼馴染の言葉にもちょっと頷けてしまう。


「じゃあ、どうするかな? 早速、連絡先交換とかしてみる?」

「そ、それは流石にいきなりすぎじゃないか?」

「そう? でも、校内で結愛に話しかける根性なんて、侑人にある?」

「うっ……。確かにそれは難しいかも」


 柚希の指摘通り、これだけ注目を集めている相手に校内で話しかけに行くのはなかなかに目立つ。

 顔に自信があればそんなことも出来るのだろうが、とてもじゃないが出来そうにない。


「それに出来たとしても、二人が話しているのを見て変な自意識過剰なやつが結愛に話しかけられるかもってなると、面倒なことになりそうだし。結愛としては、いきなり侑人と連絡先交換するの抵抗ある?」

「いえ、私は大丈夫です!」

「結愛もこう言ってるし、スマホ越しのやり取りから始めた方が良いんじゃない? 対面だと緊張することもあるだろうし」


 やや強引気味だが、柚希の指摘は的を得ていると思えたことと、結愛が特に嫌がる素振りを見せなかったので、お互いにスマホを取り出して連絡先を交換することにした。


「あ、改めてよろしくお願いします……!」

「こちらこそです」

「よしよし。でも、侑人も男ならこれから結愛に挨拶くらいは直接するようにしなよ?」

「それはそうだな」


 ただでさえそれほど多くない連絡先の中に、男子たちが憧れる女子の連絡先が登録された。

 今日の昼休みに独り言を呟いてしまっていた時には、全く想像していなかったことである。

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