巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

第1話 プロローグ

 私は、高校2年生の修学旅行の時に死んだ。


 それは間違い無い。


 修学旅行から帰る途中、親しくも無いクラスメイト達とバスに揺られていた。


 外は最悪の天気で、大型台風の真っ只中。


 大雨のせいで、バスがスリップし横転。


 意識が失われる中、私が死ぬ瞬間に考えていた事。

 それは……


 (あぁ……お腹減ったな~……)


 何とも馬鹿らしいが、私にとっては一大事だ。


 それを最後に、私の人生は幕を閉じた。


 ……筈だった!!


 何故、今自分が死んだ時の事を思い出せているか。


 それは、私が死んだ後も意識が有るからだ。

 正確には、場所不明な真っ白な部屋に居る。


 その部屋には、私以外に男子6人、女子4人の計10人程のクラスメイト達が騒いでいた。


 やれ、死にたくないだとか、やりたい事が有っただとか、喧しい事この上無い。


 ただ、私を含めても11人しかこの場に居ないという事は他のクラスメイト達や先生にバスの運転手さんは無事だったという事だろうか。


 私が思考に耽っていると、真っ白な部屋の奥に立派な机と椅子と老人がセット現れた。


 何とも優しい笑顔で。

 その老人を見て、神様だ何だと騒ぐクラスメイト達。


 脳ミソハッピーセットかな?


 おまけの玩具には、期待出来そうも無いね。


 しかしこの老人、どうも胡散臭い。


 そして、またクラスメイト達が騒ぎ出す。もう、うるさいなぁ。


 「静かに……」

 老人がそう呟くと、クラスメイト達は一斉に黙った。


 本当に神なら、怒らせると不味いと判断したのだろう。


 「ようこそ!私の世界、オリジンへ!私はオリジンを管理する創造神である。

 そなた達は、かの偉大な地球にて不幸にも若い内に人生を終えてしまった」


ほ~ん、偉大な地球ね。

既に詐欺師っぽいぞ、この爺。


 「才能の有る若者達をこのまま無へと追いやる等、私には到底出来無かった。

 故に、私の世界にて新たな人生を与えようと召喚させてもらったのだ!」


 (うさんくせー!)

 私の第一印象通りの胡散臭さである。

 どう考えても、私達が死んだのも、此処に居るのも、この自称創造神の企てにしか思えない。


 しかし、残念ながら自称神を名乗る老人を疑うのは私だけのようだ。


 まぁ……どうでもいいか。


 そんな事より、お腹空いた。


 私をそっちのけで、クラスメイト達や老人は大盛り上がりしている。


 やれチートが貰えるだの、ステータスが表示出来るだの何だのと、大喜びで餌に食い付いていく。


 もし、その餌が本当に食べ物なら私も食い付くのだが。


 暫く傍観していると、1人また1人と魔方陣へと消えていった。


 この老人が管理する、異世界オリジンとやらに送られるのだろう。


 クラスメイト達は最後まで私に気付く事は無かった。


 ラッキー!運が良い。


 そして、私が最後の1人になった時。

 自称神を名乗る老人が近寄って来た。


 「ふむ? 随分と警戒しとるようじゃな」


 何が可笑しいのか、老人はケタケタと笑う。


 私はその時に感じた気持ちを、心の中で叫んだ。


 キッッッッモッ!!


「……目的は、何?」


 やっと私の初セリフ!


 ちなみに、私は他人と話すのが大の苦手だ。

 初セリフが短いのも、仕方あるまい。


 コミュ障では断じて無いぞっ!

 無いったら無い!


 ちょっと無口なだけだしっ!


 小さい頃に良く遊んでくれてた近所のお兄ちゃんや、お祖父ちゃんとは普通に話せてたし!

 ほんとだしっ!


 そんな考え事している間にも、老人は喋る。

 良く回る舌だ。


「ほっほっほ。目的じゃと? さっき説明をしたであろうに。

 ……さてはお主聞いておらんかったな?」


 私はサッと顔を逸らす。

 こういう時は、目を合わせなければ無罪なのだ。


 「ほっ? まぁ、いいわい。そなたには、もう1度説明しようではないか。とは言っても、私がそなたに求める事は……もう何も無い」


 はぁ? 何も無いのに召喚したの? この爺。


 「ほっほっほ、心の中ではそなたの舌も良く回るの。私は一応神だぞ?そなたの心の中はお見通しじゃわい。

 さっきまで居た他の者達に、もう使命を与えたのでな。

 そなたに求める事は何も残って居らん」


 え? じゃあ、地球に帰してくれても良いんじゃない?


 ってか、人の心を勝手に読むな! このセクハラ爺!!


 「せくはら? 良く分からぬが、説明をするのはこれが最後じゃ。良く聞きなさい」


 へいへい、お腹減りすぎて目眩するから早くして下さいな。


 「本当にそなたは変わっておるのぉ。

 まず、そなたを地球には帰せない。これは、他の者達にも伝えたが地球での人生は既に終わっておる」


それはもう聞いた。

ボケたの?


 「次に、そなたには地球で良く知られているチートを授けれる。これは、«ステータスオープン»と唱えたら出る画面で好きな能力を1つ選ぶが良い。其処にある数字は「ステータス……オープン!」早い早い、最後まで聞きなさい」


 私は爺の話を無視してステータス画面を呼び出す。


 良くある、半透明のでかいスマホみたいな物だ。


 自慢では無いが、私は重度のオタクだ。


 異世界物の小説も、ゲームも大好きで手当たり次第に読み漁り徹夜でゲームをしまくってきた。


 ステータスが何か、チートとは何か、全てを知り尽くしていると言っても過言ではなかろう。


 もちろん、そんな引きこもりな生活になった理由は有るけど……今は良いよね?


 ワクワクしながら、ステータス画面を注視する。


 ステータス画面


 名前 狩人 かりうど くう

 年齢 17

 職業 学生

 種族 人間

 レベル 1

 HP 10/10

 FP 0/0

 攻撃力 6

 防御力 1

 知力 3

 速力 4

 スキル ???? ????

 魔法 無し

 戦技 無し

 状態異常 精神体 空腹

 加護 ????


 注視してから、もう一度ガン見する。


 え? 私、よっわ!!


 私はこれでも、幼少から中学に上がる前までは名前も職業も同じ狩人の祖父の元で狩りやサバイバルを叩き込まれた経歴が有る。


 体力や、多少の戦闘力は有ると自負していた。

 めちゃくちゃ……ショック! きっと中学から高校生になるまで引きこもった生活が良く無かったのだ。


 草葉の陰で、亡き祖父も泣いている事だろう。

 あ、ここ異世界だからお祖父ちゃん知らないか。

 ラッキー!


 「おーい! 何やら落ち込んだり、喜んだりと忙しそうだが話を聞いてくれぬか?」


 私がステータス画面と睨み合いをしていると、爺が覗き込んできた。

 見るな!セクハラ爺!


 「だから、そのせくはらって何じゃ? まぁ良い、説明の続きをするぞ? まず名前、年齢、職業、種族は見ての通りじゃ。

 レベルとは「いい、説明無くても……わかる。」あ……そうですか……」


 爺が、オタクなら誰でも知ってる情報を言い始めるので黙らせる。


 何やら、この世界のステータスシステムは独自の研究で細かい所まで見れるように頑張ったのに、とか言ってるが知らん。


 それより、朗報!

 スキルと加護を持ってた!

 流石、私! さすわた!


 でも、スキルも加護も????で全く読めない。

 ふむ、レベルが上がれば解放されるパターンなのかな?


 「む? そなた、既にスキルと加護を持っておるのか?!」


 げっ! 爺、また心を読んだな!!

 ここが日本じゃなくて良かったな!

 起訴して、死ぬまで刑務所に送る刑に処す所だぞ!


 「ほっ、すまんすまん。他の者達には無かったのでな。そうか……さて、どうしたものか……」


 今度は爺が何やら考え事を始めたので、さっさとチートとやらを決めて此処から出ていくとしよう。


 爺の加齢臭が気になるし。


 ステータス画面を再度確認する。

 どうやら、魔法、戦技、スキルから好きな物を1つ手に入れられるようだ。


 果たして本当に、これがチートか?


 魔法、戦技、スキル取得の欄には見るのも嫌に成る程の項目が有る。


 ざっと見ても全く良いと思える物が無かった。


 魅了だの、鋼鉄化だの、飛翔剣だの、どこの馬鹿がこれをチートだと考えたのだろう。

 まぁ、この爺だろうけどね。


 さて、どうしようかな。


 私はゲームでもそうだが、基本はコツコツ強くなるのが好きだ。


 小説なら俺様ツエェェェェなチート野郎を見るのも好きなのだが、実際に自分がしようとは思えない。


 むー、お腹が満たされるスキルとか魔法は無いかな?

 無いですか、そうですか。


 もうチート貰わずに、異世界に跳ばして貰おうと思った時。

 ステータス画面の種族を誤ってタッチしてしまった。


 其処には、人間から亜人? でいいのかな?

様々な種族に変更が可能と出た。


 魔族や、鬼人、獣人、ドワーフ、エルフ、よりどりみどりだ。

 モンスター?魔物でいいか、スライムやゴブリン等、多種多様に名前がずらりと並んでいる。


 普通なら人間を選ぶのだろう。

 しかし、私は1つの種族の項目に目が釘付けになった。


 この種族なら、私のコンプレックスも何とかなるかもしれない!


 そもそも、種族の項目をタッチしないと見れないとは……明らかに欠陥だろ。

 普通なら気付かんぞ。


 「違う、違うぞ!? 今までの召喚した者達は皆人間だったから、人間のままで良いだろうと思ってだな……説明せんでもええかなぁって……。それに、召喚じゃなくて転生になってしまうし。種族を変更したら、チートも無しになってしまうし」


 ステータスシステムを欠陥だと思っていただけで、心を読んだ爺がしどろもどろに言い訳を始めた。


 またこの爺は……ん?

 まてよ? 今までの……?

 まさか、この爺……定期的に私達の世界から誘拐を働いてるな?!


 「え? いや、その、じゃな……死んだ者達しか喚んでおらんし、誘拐にはならぬ! 後、何度も言うが私は神だぞ! 不遜な物言いをするものではないぞ!」


 喧しい! この誘拐犯! 他の神にもし会ったら言い付けてやるからな!!


 他の神に会う予定なんて無いけどね。


 「わかった! わかったのじゃ! そなたには特別に、種族の変更とチートを何でも1つやろう!」


 よっしゃ! ラッキー!


 じゃあ、種族を«巨人»で。

 チートは、スキルにも魔法にも無かったけど«鑑定»を下さいな。


 どうせ心の中を読んでくるのだから、思うだけで伝わるだろ。


「ほっ!? えーと、本当に良いんじゃな? 巨人は亜人に分類される種族じゃ。しかし、基本的に人間とは敵対関係に有るぞ?

 それに、鑑定とは何じゃ? 私がわかる内容で無ければ創る事は出来んの」


 え!? 巨人って人間と敵対してんの?!

 でもなぁー、巨人になればこのコンプレックスも解消できるしなー。

 そう文句を言いながら自分の身体を見る。


 私のコンプレックスとは、そう……身長が低い事だ。

 いや、低すぎる事だ。


 身長を除けば私は容姿端麗の筈なのよ。

 黒髪に、幼さと綺麗さを良いとこ取りした美少女なのよ!!


 なのに17歳の高校生が身長135cmって、どう考えても可笑しいだろ。


 だが、現実は非情だ。

 小学生の時点で、私の成長期は終わりを告げた。


 そして、そのせいで散々な目にも合ってきたが今は置いておこう。


 「巨人で……いい。鑑定は……ステータスみたいに、対象の情報が見れたら……良いから」


 私、喋るの超頑張った。

 思うだけでも伝わるけど、転生してからもこの調子じゃ困るからね。


 「ふむ、あいわかった。私も無理に引き留めはせぬよ、鑑定も大体は理解できたので何とかしよう」


 お! やっとこの爺が役に立ったな。


 「えぇぃ! 本当にそなたは変わっておるのぉ。では、これで最後じゃ。 他の転移者達と違いそなたは転生者となる。次の人生、いや、巨人生では幸多き事を祈るぞ」


 爺が喋り終わると、私を光が包む。


 あぁ、やっと決まった。

 早く転生して何か食べなきゃ。


 私はその時、新たなる巨人生へのワクワクと空腹で見ていなかった。


 オリジンの創造神が、狂気に満ちた笑顔を私に向けていた事を。


◆◇◆


 ―――さて、ここで場面が変わりまして真っ暗の中に私は今居ます。

 多分、今世の母のお腹の中に居るのだろう。


 転生だからそうですよね、赤ちゃんからスタートですよね。

 普通の赤ちゃんなら、こんな難しい事考えてないのかな?

 知らないだけで、色々考えてるのかもね。


 でも、手足が有るのが分かるから産まれるのもそう遠くはないはず!


 あぁ、お腹が減ってたのが今は何も感じない。

 こんな満たされる感覚は初めてだ。

 多分、母の栄養をガンガン貰ってるんだろうね。


 まだ見ぬ母よ、頑張って栄養を接種するのだー。


 しかし、暇だ。


 どうせ、まだ時間も有るなら今のうちに自分語りでもしておこう。


 私の名前は狩人 喰かりうど くうだ。

 え? ステータスの時に見たって?

 良いんだよ、固いことは。


 私は両親の顔を知らずに、ド田舎で育った。


 家族は祖父の1人だけ。

 名前の喰も、祖父が付けてくれた。


 何でも、無限にミルクを飲み、離乳食をバカ食いしまくる事から名付けたそうだ。


 常に襲ってくる空腹とは、産まれた時からの付き合いらしい。


 普通食になる頃には、祖父が狩ってきてくれた鹿を丸々1頭平らげたらしい。祖父は窒息する程大笑いしたそうだ。


 優しくて、大好きな祖父だった。

 でも、両親の事を聞いても何も教えてくれなかった。


 ド田舎に有った小学校に入る前から、突如として祖父に狩りやサバイバルを叩き込まれ始めた


 その時の祖父は、本当に厳しかった。

 それもその筈、狩猟は命懸けだ。

 もし、熊に出会えば終わりだからね。


 1度見た事が有るけど、只でさえ身長の低い私からすると熊は怪物にしか見えなかった。


 猟銃が有っても、熊とは絶対にやり合いたくないね。


 そんなこんなで、自分の空腹を満たす為、私は小学校に通いながら狩りをする日々を過ごした。


 狩猟に使えるのは、罠と祖父お手製の槍や弓矢。

 それらを駆使して頑張った。

 皆は真似しちゃダメだぞ?

 だって……


 あ、ごめん。

 眠くなってきちゃった。


 自分語りの続きは、また今度ね。


 お休みなさい、まだ見ぬ母よ。

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