第17話 石上神宮へ(^^)ノ

日本屈指の宗教都市の天理市の東の外れに、日本最古の神社である石上神宮(いそのかみじんぐう)はある。


石上神宮は、物部氏の奉斎(ほうさい)社であり、布都御魂(ふつのみたま)と言う神剣を祀る神社である。


先代旧事本紀(せんだいぐじほんぎ)によれば、経津主神(ふつぬし)の神魂(しんこん)の刀が、布都御魂(ふつのみたま)であると言う。


なるほど、長い歴史を感じさせる古社と言ったところか。


石上神宮は、軍事を司る物部氏の氏神であり、古代においては、大和政権の武器庫の役割も果たしていたのではないかと考えられているそうだ。


かつての物部氏は、軍事と祭祀を司る強大な氏族であり、武士(もののふ)や物怪(もののけ)の語源も物部氏と関係があるとされる。


夫は、社務所で七支刀(しちしとう)のネクタイピンを買っていた。


そんなもの何処で使うのかと、思わず突っ込みを入れそうになったが、それを察してか、夫は話しを始めた。


日本は、神道の国だよね。


その中でも古代は、物部氏と中臣氏が神道の重要な役割を担っていたんだ。


物部氏は、元々、物の製造、管理を担当していた氏族だったんだけど、次第に勢力を拡大し、朝廷の軍事や祭祀権を手に入れ、数々の部民達を従えていたんだ。


物部氏が行った祭祀の多くは鎮魂だったようだよ。


物部氏こそ、本当に謎が多い氏族だと思う。


物部氏は、初代天皇である神武天皇が大和に入った時に、既に大和に鎮座していた饒速日命(にぎはやひ)と言う神を祖神としているんだけど、この饒速日命(にぎはやひ)と言う神もまた、太陽神であり天津神なんだよね。


饒速日命(にぎはやひ)とは、神武天皇が大和に入るより以前から天璽(あまつしるし)を携え、大和に天降っていたと言う、正当な天孫であり、天津神なのだと言う。


日本神話では、天孫の子孫こそが、この日本を統べる権限を持っているとされているのに、神武天皇以前に、既に天孫が、この日本を統治していたのであれば、神武天皇の東征の正当性は失われてしまうよね。


だから、ここで神武天皇と饒速日命(にぎはやひ)はお互いに天孫の証である神宝を見せ合って、それぞれが正当な天孫であり、また天孫の後継者と言う事を証明して見せた訳だよ。


しかし、ここで、どう言う訳か、それまで大和の地で饒速日命(にぎはやひ)を崇め、神武天皇の東征に頑なに抵抗していた、長髄彦(ながすねひこ)を、饒速日命(にきはやひ)自身が斬り殺して神武天皇に帰順してしまうんだよ。


夫は、これは一体どう言う事だと思う?と聞いて来たが、私は、既に考えるのが面倒だったので、その先の言葉を待った。


夫は一呼吸置いて、神武天皇と饒速日命(にぎはやひ)は神宝を見せ合う事で、我々一族は同族である事の確認をした訳だよね。


つまり、遠く離れ離れとなってしまった一族が、お互いのシンボルを見せ合う事で、我々の一族は、元々同祖であるって事の証明をしたんだよ。


大和の地には、既に、同じ天孫一族である饒速日命(にぎはやひ)を祖とする一族が国を治めていた。


だけど、神武天皇が東征に伴って、九州から大和の地へやって来ると、饒速日命(にぎはやひ)を祖とする一族は、内部分裂を起こしてしまったんじゃないかな。


一方は、神武天皇に抵抗を続ける長髄彦を代表とする蝦夷となり討伐の対象となった。


しかし早い段階で、神武天皇に服属したグループは、邇邇芸命(ににぎ)とは別系統の天孫の一族として、後の大和朝廷内でも権力を掌握するようになった。


いわゆる皇室の先祖神である天孫邇邇芸命(ににぎ)以外にも、実は天孫の系譜が存在しているって事は、かなり重大な事実なんだと思うけどね。


その一族が物部氏と言う、古代氏族なんだよ。


藤原氏は、中臣氏が大化改新の功績によって、天智天皇から下賜されたものだよね。


中臣氏って、元々は物部氏の配下にあった祭祀集団だったんだ。


中臣氏は、特に吉凶判断を占う、卜部(うらべ)氏を統率していた氏族だったと言うよ。


私は、じゃあ、物部氏も藤原氏も、徐福と一緒に海を渡って来た人達なのかな、と聞くと、物部氏は特に天孫の一族って謳(うた)ってる訳だから、その可能性はあるだろうねと、夫は答えた。


石上神宮に伝わる国宝の七支刀(しちしとう)もユダヤ教の典礼具の一つである枝付き燭台のメノラーだと言う説があるよ。


メノラーの原型は、神の命令によって幕屋(まくや)の聖所に置かれることになった純金の七枝の燭台なんだって。


そう言うと、夫は七支刀(しちしとう)のネクタイピンを取り出して、そもそも、メノラーって、ユダヤ教の生命の樹を象徴としてるものだから、燭台よりもこっちの方が、ずっとそれっぽいよね、と言った。

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