第16話 罪悪感

2022年2月


 また会える。そうして分かれたはずなのに、しばらくすると人は不安になるものだ。2月26日に会う約束をしていたのに、突然彼から「母親の病院について行かないといけない。28日の月曜日店休むから会えないかな?」とキャンセルが入った。「28日は仕事があるから、3月5日なら。」と返事をした。じゃあそうしようという事にはなったが、なぜ母親の血液検査が土曜日なのか、月曜日仕事を休めるなら月曜日に行けばいいのではないか。そもそも土曜日に病院なんて疑わしい。嘘をついているとしか思えなかった。私の不安と不満は募っていく。

 そして私の直感は働いた。彼が眠れない時の保険に使っていたアプリを私もダウンロードしたのだ。条件が彼の思考と似ている人物を探し、写真を見た瞬間、それは完全に彼の顔だった。意外と簡単に彼を見つけてしまった事に驚いたが、それ以上に入室時間にも驚いた。殆どそこに入り浸っている状態、そこで彼は既婚だと名乗り、彼女を探していると言った。


 「先生、これが私の経験したことの全てです。」彼と出会ってから別れるまでに起こった事を先生に伝えきった。これは自分の気持ちを整理する事にも繋がった。この復縁活動を楽しむ。どういう結果が待ち受けていたとしても後悔はきっとない。こうして、彼と復縁を目指す為に必要なこの資料は、追加項目としてプロファイリングに収められた。


 それからの事、彼と約束した3月5日は静かに過ぎていった。もしかしたら連絡があるかも。と期待も虚しく、寂しい気持ちを抱く結果となった。


2022年3月8日


 先生の指示で、彼にLINEを入れたのは3月に入ってからの事。2月21日、血便の原因を調べる為の検査をするというLINEで以前は終わっていた。その続きとして、

「検査結果は良い結果だった?」とLINEを入れた。久しぶりの連絡で、返事が返ってくるのか、かなり不安な気持ちになる。彼は元々LINEの返事はかなり早い方だった。自営業ならではの、ひとりで仕事をしている為だ。店に客がいなければ、ずっと話に付き合ってくれていたぐらいだ。30分経っても既読がつかない。ブロックされている可能性だってある。

「先生、返事が返ってきません。ブロックされているかも。」不安になり、思わず先生にLINEを送ってしまった。

「すぐに既読になるという訳ではないので待ちましょう!」

「でも、今まではすぐに返事が返ってきてたんです。」

「ここは、今までと違ってくるかなと。」

「はい。」

 それから3時間ほど経って、彼から返事が返ってきた。

「先生、ほんとですね。遅いけど返事きました。」


 彼は検査結果の写メを送ってきた。そこには、異常なしと書かれている。

「血便の理由はわからなかった。。」

 こちらも続けて返事をする。

「わからないのは恐いね。体調はどうなん?」

「良くない。もうヤケクソ。」

「そうなるね。色々重なると大変やもんね。無理はしないようにして!」

「うん、ありがと。Rさんも無理せんといてね。」

 これでその日のLINEは終わった。この後は前回と同じやり取りになっていきそうだという事で、「一旦こちら側が引きましょう。」と先生の指示通りにした。

「先生、本日は有り難うございました!」

「OKです。ここに後々、返していきましょう!」


 はぁ。。それにしても緊張した。心臓が止まりそうなぐらい。。でもワクワクするのだ。どこか楽しんでいる自分もいる。そして彼からの返事がたとえ少しであったとしても、かなり嬉しかった。でも、何故彼は返事をくれたんだろう。別れる時、「僕はもう大丈夫、自分で体調も治していくから。」と言って私を突き離した。その後、別れた彼女に「体調どう?」と聞かれても「もう大丈夫。」と、普通ならもう心配してもらう関係じゃないと言い放つのではないだろうか。相変わらず彼は体調すこぶる悪いと言ってくる。その真意がわからない。


 先生は、「彼の気持ち、行動、言動に関してわからない事があれば聞いてください。」と言ってくれた。失恋して傷付いた気持ちの時、先生の存在は私にとって大きかった。


先生の解説はこうである。

 彼が、現状の体調をわざわざ言ってくるのは、気づいて欲しい、察してほしいという、構って欲しいというような心理が働いているように見受けられる。それは大きな“寂しさ”からくる物だと感じている。彼は、自分を表現するのが下手で、甘えたいけれど、嫌われたくないから弱さを見せられない、または、既婚であるなどの最初から伝えればよかったという何かしらの後悔がある可能性もあるから、寄りかかれない罪悪感もあるのかもしれない。どちらにせよ、彼にとってRさんの存在は身を委ねたい存在であること、それは確信する。


 身を委ねたい存在だと確信。。確かに彼は私を突き離したり、身を委ねようとしたり、行動が定まらない。それは完全に寄りかかれない罪悪感からくるもの。罪悪感。彼は私に対して罪悪感を抱いている。。

 

 


 

 

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