やがて彼女は過ちの欠片に気付く2

「……付き、合ってる? ハルくんと、舞花ちゃんが?」



 放心した様子の未希ちゃんがゆっくりと首を回して俺を見る。


 その目は『彼女いたの?』と訴えかけてきているようで、耐え兼ねた俺はそっと未希ちゃんから視線を外した。


 この状況で、舞花が未希ちゃんを浮気相手と疑っている状況で、隠し通そうとしてしまった。


 俺が口にしなければきっと舞花が口にする……そうなると視えていたにも関わらず俺は抗ってしまった。もしかしたらを期待してしまった。


 ……未希ちゃんにだけは知られたくなかった。


 俺がそんな自分勝手な気持ちで明かすのを避けた事など知る由もない舞花は、未希ちゃんを捉えたままあしらう口調で言う。



「そうですけど、なにか問題でも?」


「――えッ⁉ あ、ううん、別に!」



 ハッとした表情を見せたすぐ後、未希ちゃんは人差し指で頬を掻いてたははと笑った。



「でも、うん、それなら納得できるというか、舞花ちゃんからしたら私は怪しい人物に映るよね、うん……けど、私は本当にハルくんの浮気相手とかじゃないから、それだけは信じてほしいかな」


「ですから証拠は?」


「ハルくんのお母さんに聞いて……と言っても口裏合わせてるんじゃないかって疑ってるんだもんね」


「はい」


「じゃあ逆に聞くけど、私が舞花ちゃんから浮気の疑いをかけられている事をどうやって知り得たというの?」


「………………治親から事前に聞かされていた、とか」



 しばしの黙考を挟みそう述べた舞花に対し、未希ちゃんは呆れたように口元を緩める。



「残念ながらハルくんからは〝なにも聞かされていない〟よ。今日、ここに舞花ちゃんが訪れてくる事すら」



 ……………………。



「……まあ、裏があると疑い続けていてもキリがないですから」



 そう言って立ち上がった舞花に俺は声をかける。



「母さんのとこに行くのか?」



 舞花はコクリと小さく頷き部屋を後にする。



「――ちょっと待って! 俺も行く!」



 必要ないとわかっていながらも、俺は舞花の後を追った。未希ちゃんと二人きりの状況を避けたかったから。



 ――――――――――――。



『未希ちゃん? ええ、そうよ。舞花ちゃんは未希ちゃんに会った事なかったんだっけ?」


『はい。初対面です』



 母さんの答えを聞いた舞花は取り敢えずは納得してくれたみたいだった。



『舞花は先に部屋に戻っててくれ。俺はお茶と菓子を用意してくから』


『あたしも手伝うよ』


『いや、いい。俺だけで十分』


『そっか……じゃ、あたしは先に。〝とりあえず〟あの人に謝っておかなきゃだしね』



 こうして僅かながらも一人の時間を獲得した俺は、一つ一つの動作にゆっくりと時間をかける。少しでも空気が改善してくれればと。


 ……そろそろ限界か。


 体感で5分ほど経った頃か、さすがに怪しまれると俺はおぼんに茶と菓子を載せ部屋に戻った。



「黙ってちゃわからないんですけど…………もう一度聞きます――これ、なんです?」


「…………………………」



 空気は改善されるどころか、より一層悪化していた。

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