第3章
第13話 歳上の恋人
紫音視点
朝目が覚めて、夢じゃなかったことに心底ほっとした。
ずっと触れたくても触れられなかった彩那さんが腕の中にいる。朝起きて、全部夢だったらどうしよう、と彩那さんが寝た後に急に怖くなった。
「んぅ……? しおんちゃん? どうしたの?」
無意識に抱きしめる力が強くなってしまったようで、うっすら目を開けた彩那さんが不思議そうに見つめてくる。
「あ、すみません……まだ起きるには早いので、もう少し寝てください」
「んー、なんじ?」
「5時前です」
「はやいねぇ……もうちょっと……」
「はい。おやすみなさい」
「うん」
おでこに口付けを落とせば、ふにゃ、と笑って再び眠りに落ちた彩那さんが愛しくて、このまま寝顔を眺めていようと決めた。
「彩那さん、おはようございます」
「んー、おはよ」
飽きもせず寝顔を眺めていれば、ゆっくりと彩那さんが目を開けた。しばらくぼんやりしていたけれど、目が合えば笑ってくれて、愛しさが募る。
こんな朝を迎える日が来るなんて……望んでいたことだけど実際にこうなると胸がいっぱいになった。
「もしかして、あの後ずっと起きてたの?」
「はい。なんだか寝ちゃうのが勿体なくて」
「起こしてくれて良かったのに」
「可愛い寝顔を眺められて幸せでした」
「うわ、恥ずかしいな……」
照れたように笑っていて、朝から可愛い。
「彩那さん……好きです」
「ふふ、いきなり? ありがとう。私も好きだよ」
「……っ」
彼女が可愛くてつらい。好きって言葉の破壊力……
「あ、照れてる?」
そう楽しそうに言って身体を起こせば、隠されていた素肌が目の前に広がって、あまりにも魅力的で目を逸らしてしまった。
下着しか身につけていない彩那さんの身体についた赤い痕が昨日のことが夢ではなかったと証明していて、胸がいっぱい。
「紫音ちゃん、顔赤いよ?」
「その、彩那さんが綺麗すぎて」
「ふふ、昨日全部見たのに?」
「……っ」
笑いながらギュッと抱きついてきてくれたけど、その言葉と表情に、昨日の妖艶な彩那さんが浮かんで、朝から誘惑されている気分になる。これは、お誘いですか?
あんまり触ってくると、我慢できなくなるんですけど……朝から襲っちゃいますけど??
「彩那さん、大人しくしててください」
「え? 何もしてないよ?」
「その、目のやり場が」
「……えっち」
「ん゛っ!!」
可愛すぎて変な声出たわ……くすくす笑う彩那さんは大人で、甘えてくる時とのギャップがすごい。
甘えてくれて、嫉妬もしてくれて、本人は重いことを気にしているみたいだったけど私にとっては最高でしかない。
「紫音ちゃん、可愛いねぇ」
「……可愛いのは彩那さんですよ」
愛でられていて、なんだか悔しい。歳上の余裕ってやつですか?
「そんなふうに拗ねるところも可愛いよ?」
「……子供扱いやめてください」
「ふふ。ごめんね? 機嫌直して」
頭を撫でてくれる手が心地よくて、顔を背けて拗ねているふりを続けたけど、きっと気づかれてるんだろうな。
「紫音ちゃん、こっち向いて? ちゅーしたい」
「っ!?」
ちゅー? かわっ……え、かわい……
バッと振り向けば、彩那さんが笑っていて、ちゅ、と口付けが落とされた。あー、もう、無理。時間は……充分あるな。バイトが午後からで良かった。彩那さんが可愛いのが悪いんですからね。
「彩那さん、朝ごはん出来ましたよ」
「ありがと」
横になっていたソファから身体を起こした彩那さんは、朝から私に組み敷かれた事もあって気だるげで色っぽい。彩那さんといると、常に触れたくなるから困る。さすがに、朝から襲っちゃったから自重するけど。
「シュガートーストにしてみました」
「美味しそう。いただきます」
「どうぞ」
「ん、おいしい」
「かわい」
ぱあっと笑顔になった彩那さんが可愛すぎて、思わず声が漏れてしまった。あぁ、幸せだなぁ……
「ご馳走様。また作ってくれる?」
「気に入りました? 毎日でも作りますよ」
「ふふ、毎日は流石に飽きるかなぁ」
「……ですよねぇ」
ん? 毎日が嫌って事じゃなくて、飽きるってことはメニューの問題? 付き合った次の日から、一緒にっていうのはさすがにダメかなぁ……声をかけてくれたお姉さんたちとか、美和子ちゃんの家にはその日から居候してたけど、彩那さんとはちゃんとお付き合いをしているわけで……同棲になるってことだもんね?
彩那さんのヒモになるつもりはないからその辺はしっかりしないとな。
徐々に一緒に過ごす日を増やしていって、何れは一緒に住みたい。ここのマンションの更新時期っていつだろう? 家に一緒に住んでもらえたりしないかなぁ、なんて気が早すぎるか……
「……ちゃん、紫音ちゃん? 聞こえてるー?」
「あ、すみません。ちょっと考え事が」
「考え事?」
「あー、その、なんでもないので気にしないでください」
あ、ちょっと対応間違えたかも……
「昔の彼女のことでも思い出した?」
「えっ、いや、その……っ」
彼女ではなかったけど、他の女の人のことを確かに考えてしまっていたから違う、と言いきれなくて言葉に詰まれば、すうっと目が細められた。
「私、重いって言われる、って言ったよね?」
「はい」
「私といる時は他の女の人のことなんか考えないで私だけ見てほしい」
え? 嫉妬? 考えただけで? なにそれ、可愛すぎ……
「可愛い」
「可愛くないよ、こんなの。重いでしょ。束縛だってしちゃうかもだし」
ちょっと落ち込んだような彩那さんだけど、私的には全く問題ない。むしろ彩那さんからなら嬉しい。
「昨日も言いましたけど、大歓迎です。どんどん束縛してくれて構いませんよ。もし不安なら、位置情報とか共有しますか? 私は全然OKですよ。まずは私のスマホ見られるようにしておきましょうか」
「え……? ごめん、ちょっと落ち着いて?」
求められてもいないのに束縛されようとする私にむしろ彩那さんの方が困惑していて、そんな彩那さんも可愛い。
「パスコードこれなので、覚えてくださいね」
「あ、うん……ありがとう」
「位置情報はどうします? 専用のアプリがあるみたいですよ」
「位置情報は、とりあえずいいかな」
「そうですか? 必要になったら言ってくださいね」
「うん」
今どきの若者は位置情報を友達でも交換してるって聞くし、色々変わってきてるよね。
何か言いたげな彩那さんを見て気がついた。さっき誤魔化したまま、説明してないじゃん。
「あの、さっき考えてた事なんですけど……」
「ごめん。言いたくなかったら、言わなくていいよ」
これ、絶対勘違いしてるよね。言わなくていい、って顔してないもん。
「彩那さんと一緒に住むにはどうしたらいいか考えてました」
「え?」
「ここの更新時期っていつですか?」
「確かあと4ヶ月後くらい、かな?」
4ヶ月か……更新したばっかりとかじゃなくて良かった。でも、4ヶ月は長い……
「今一軒家に一人暮らしなんですけど、寂しくて……次更新せずに、一緒に住んでもらえませんか?」
ばあちゃんの家は生前贈与を受けたから私の名義になっている。
両親はマンションがあるし、母の姉弟は他県に持ち家があるし、別の贈与を受けていたから揉めることはなかった。
「一緒に……」
「まだ付き合ったばっかりで早いのは分かってます。でも、一緒にいたいです」
どうか断らないで欲しい、という思いが伝わったのか、彩那さんが笑った。
「そんなに不安そうな顔しないで? まだ時間があるし、ゆっくり考えよう? 家にはいつでも来てくれていいから。ちょっと待っててね……はい、これ。もう彼女なんだし、今度は受け取ってくれるでしょ?」
「……っ、ありがとう、ございます」
いたずらっぽく笑って差し出されたのは、彩那さんの家の鍵。先月は断ったけれど、恋人になった今は受け取っていいということがどうしようもなく嬉しかった。
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