第4話 ※三人称視点

「どうして侵入したんだい?」


 マフユはその問いに答えるず、ただ口を閉ざす。

 マフユが素直に話す事を想定していたのか、はたまた侵入した理由を解っていたのか江良博士はポンポンとマフユの頭を優しく撫でた。


「もう彼の事を父と思うのは止めなさい、私は彼の事は只の仕事仲間だと思っているよ。今、君がすべきことは兄として妹のハナちゃんの側に居ることだ。それに開発の邪魔をしたところで彼は変わらないよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・だけど、ハナの中では彼奴はまだ父親だ」


 マフユがボソリと呟くように吐いた言葉に江良博士はなんとも言えない表情を浮かべると同時に、先日、マフユの幼い妹・ハナの誕生日だった事を思い出す。

 きっと、マフユは母が倒れて以降、ソウルメイトの開発に集中し家族を蔑ろにする父親にハナの誕生日だからと連絡でも入れたのだろう。

 だけど、その連絡は、せめて妹の誕生日に電話だけでもというマフユの切実な想いは父に届かなかった。

 マフユが侵入し父親が開発中のソウルメイトのデータを盗もうとしたのは、その仕返しのつもりなのだろうと江良博士は考える。


「博士、こんな所に居たんですね」


 二人に話しかけてきたのは天上てんじょうカケル。

 金髪に蒼い目、まるでどこぞの国の王子のような風貌の美少年だ。


 彼、天上カケルは全ソウルバトラーが憧れる無敵の二年連続ソウルメイト世界チャンピオンである。

 今年、三回目、日本人では初の殿堂入りがかかっている為、日本だけでなく殿堂入り最年少になるため、世界からも注目されているソウルバトラーだ。


「おや、マフユくんも居たんだね。いつから此処に?」


 カケルは江良博士に隠れるような位置にいるマフユにニコッと声をかけるがマフユは口を開くどころか固い表情でカケルを見ている。

 マフユは彼、カケルが苦手なのだ。


「ああ、彼は今まで奥にあるトレーニングルームに居たんだよ」


 カケルが苦手なことを知っている江良博士はマフユを庇うように割って入る。

 侵入の事を悟らせないのもあるが。

 江良博士からそれを聞いたカケルは目を瞬かせると。


「へえ、そうなんですか。という事はマフユくん、そろそろ復帰する予定?」


 嬉しそうにマフユに話しかけた。


 去年、母が倒れて一年近く、マフユはソウルメイトに触れていなかった。


 気持ち的な問題もあったが一番は幼い妹の傍を離れるわけにはいかなかったのだ。

 父の妹である叔母が妹の面倒を見てくれているが甘えるわけにはいかないとマフユはソウルメイトを離れ、妹の傍に居た。


「世間じゃ、君がソウルメイトを引退すると言ってたけど安心したよ」

「・・・・・・そうですか。ですが、僕は 「そうだ! 江良博士! 例のデータ収集の相手、彼、マフユくんにお願いしても?」


 マフユが言いかけてる途中、遮るようにカケルは江良博士に問う。

 江良博士はカケルの話に動揺する。

 例のデータ、それはマフユの父が開発しているソウルメイトに使うものだからだ。このことはマフユも知っている。

 当然、カケルの提案にマフユは歯ぎしりしカケルを睨付けていた。これはまずいと思った江良博士は断ろうとしたが。


「相手をしてくれたら、マフユくんが侵入した事は一切、口外しないことを約束するよ」


 そう言って、にぃ~とカケルは笑う。


 この口ぶりからして最初から知って、タイミングを見計らって声をかけてきたのだろう。

 そう言われてしまえばマフユは了承する以外の道はない。舌打ちをすると。


「解りました。お相手します」


 了承の返事を返した。

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