第10話 8マイナス3

「まったく弱いやつに限ってよく吠えるってか!」

 せっかくの見せ場をつくれなかった中谷がつまらなそうにぼやいた。

「残ったのは八人だけど、これからどうするつもり? 全員で協力して探すか、それともこれからはそれぞれ別行動にするか」

 真紀が指先に挟んだタバコに火をつけた。

「私、あいつと会ったら何されるかわかんないから、みんなと一緒にいようかな……」

「まあ、女は何もしないでここにいるほうが利口かもな。さもないとあのレイプ魔にどこで襲われるかわかんないぜ、ははっ」

 不安そうな加奈のひとり言を中谷がからかった。

「そんな冷たいこと言わないでよー、ずっとここにいたら賞金を探しに行けないじゃない!」

 すねたような声で加奈が唇を尖らせた。

「そんなこと関係ないね。じゃ、俺はトウシロウと組む気にはなれないんで、これから先は一人で行かせてもらうぜ」

 汗で胸元が湿ったシャツを気にしながら中谷は内藤の後を追って歩き始めた。

「ねえー、ちょっと待ってよーっ」

 加奈は甘い声を出して中谷を呼び止めた。底の高いヒールの床を叩く音が静かなホールに響く。

「私も一緒に連れていってくれない? あなたけんかも強そうだし、それに女の子には優しそうだし、ねっ、いいでしょ?」

 加奈は人差し指で中谷の右肩をなれなれしい仕草でをなぞった。

「ついて来るなら勝手にすればいいだろ。お前に興味なんてないけどな」

 言葉とは裏腹に中谷の唇の両端が緩んでいたのを加奈は見逃さなかった。簡単におとせる男の匂いを嗅ぎつけた加奈は、それとなく中谷の腰に手を回した。

「興味ないなんて言わないでよー。守ってくれたらいい事してあげるから……」

「調子のいいやつだな!」

 ひとり取り残されたような気持ちでその様子を見ていた遥は、二人の輪に加わるかどうかためらっていた。

(どうしよう…… あの二人について行ったほうがいいのかな? バスの中で話したのはあの女の子だけだし、年も近いから何かあったとき相談に乗ってくれるかもしれない……)

 遥は戸惑いながらも二人に近づいていった。

「すみませんけど、私も仲間に入れてくれませんか? このまま、ここに残るのは不安なんで……」

「そうかもねー、こういう時、大人は案外当てにならないからねー!」

 加奈はぷっと噴出して笑った。

「じゃ! 大人は置いて行くか!」

 まんざらでもなさそうに中谷が声をあげた。

「早く、お金探しに行こっ!」

 足早に歩いていく中谷と加奈の二人に引っ張られるように、遥も急ぎ足でその後を追いかけていった。

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