第36話「格闘で稼ぎまくる」

 ホリィは爆破を確認すると、隣のビルからカントリを使って、空を舞う。


 ほぼ瓦礫が埋め尽くす屋上へと降り立つと、ダンジョン吸血鬼の体を探す。


「この瓦礫の中から探すのはなかなかに困難ね。でも、師匠が持たせてくれたこれがあればっ!」


 ホリィは懐から、鎖のついた十字の石を取り出すと、鎖の尖端を掴む。ブラブラと石は振り子運動をする。


「このダウジングさえあれば、吸血鬼の居場所くらいすぐに分かるわね!」


 懐かしの方法を取りながら、屋上だった場所を歩きまわると、ある一点でダウジングマシンは振り子運動から、円を描くように動き出す。


「この下に何かあるっ!!」


 そうホリィが確信した瞬間、ズボッ! と手が飛び出し、ホリィの足を掴む。


「むぅ! ちょっと、気安く触らないでよねっ!!」


 足を思いっきり引くと、出て来たのは予想に反し、スーツ姿の女性であった。


「ああ、運悪く爆破に巻き込まれたのね。問題は、洗脳されているかだけど……」


 その女性の目には生気はなく、完全に操られているというのが一目で分かる。


「とりあえず、一発で眠らせてあげるから、覚悟しなさい」


 シュッ! シュッ! とホリィは手刀を素振りする。


 対するスーツ姿の女性はスーツを脱ぎ捨て、さらにシャツも脱ぐ。

 その下からはスポーツタンクトップ。しっかりと見える腹筋は筋骨隆々であった。

 服の上からでは分からなかったが、その体は全てが戦闘の為の筋肉で出来ていると言っても過言ではない格闘家の肉体をしており、流石のホリィも一瞬眉根を寄せた。


「あんた、もしかして、伊東エリックを刺したやつ?」


 エリックの証言から、ピックアップされた女性冒険者に似ているのを思い出したホリィは思わず、笑みをこぼす。


「ちょうどいいわね。どれくらいの力があれば、あの吸血鬼を刺せるのか興味があったのよね。かかってきなさい」


 ホリィは愛用のハンマーを置き、手のひらをこちらにクイクイッと曲げて挑発する。映画の中の格闘家が「来いよ」とするのと同じように。


 格闘家女性は構えを取りながら、ホリィとの距離を計る。


 お互い、相手の隙を伺い、円を描くように歩いていく。


 相手の息使いまで聞こえるほど、集中し対峙する。

 ほぼ同じ実力だとお互い感じ取り、一瞬の隙を探り合う。


 どれくらいの時間が過ぎただろうか。

 日は落ち始め、影が濃くなる。

 実力はほぼ均衡と思われたが、それが崩れたのはホリィが瓦礫に躓いた時だった。


 相手の女性は、一気に距離を詰め、バランスを崩したホリィに正拳突きを繰り出す。

 ホリィはその拳をしっかりと見ながら受け止めると、同時に相手の足を払い投げ飛ばした。


 が、しかし、瓦礫の上だというのに、しっかりと着地し、反対にホリィに拳を入れる。


「くっ! やるわね。でも、足場が悪くて力が入ってないわよっ!!」


 ホリィは相手の腕を返し、足を掛け、柔道の大外刈りを行う。

 畳とは違い、さらにところどころ凹凸のある今の地面は投げ倒されるだけで必殺となり得た。


 ドンッ!!


 凄まじい音を立てて、女性は地面へと打ち付けられた。


「がはっ!」


 口から空気が漏れ出し、女性は苦痛に顔を歪める。


「トドメっ!!」


 地面に伏す相手に容赦なく踏みつけを行い、完全に意識を刈り取った。


「ふぅ、強敵だったわ。ここが畳の上だったらあなたが勝っていたかもしれないわね。いえ、違うわね。操られていなければそもそもこんな場所で戦わないで場所を選んでいたでしょうから、やっぱり、吸血鬼のせいで負けたってところね。だから、この勝負は無効でいいわ」


 すでに意識もなく、あっても洗脳下のはずの女性は、ホリィの言葉に、心なしか口角が上がってほほ笑んだように見えた。


「さてと、ダンジョン吸血鬼を探さないとね」


 そのとき、ホリィは不思議なことに気づく。

 日没まではまだまだ時間があるにも関わらず、周囲が暗くなっていた。


「まったく、これだから野蛮な人間は困る。まさか、最上階を爆破するだなんて。可能性として考えてはいたが、実行するものがいるとは」


 屋上の一角、瓦礫を椅子のようにして座る黒ずくめの男がいつの間にか現れていた。


「まぁ、一瞬で太陽を閉ざす帳が作れるというのは素晴らしい発明だ。そういう科学力にだけは敬意をしめすがね」


 ホリィを前に余裕しゃくしゃくのダンジョン吸血鬼がキザっぽく現れた。


「あ~、こういうのが虫が好かないっていうのかしらね。もしくは生理的に無理ってやつ。ま、遠慮なく殺せるからいいけど」

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