20,開始

「いいか、試験の方法を説明するぞ」

 トノザキ先生は私を落ち着かせようとしてくれているのだろう。ゆっくりとした口調で話しかけてきた。

「魔法は二回披露するんだ。披露する前に何属性の魔法か宣言して行うんだぞ」

「わかりました」

「よし、ではさっそく始めよう」

 先生の声で私は体を浮かし、魔法測定針の前まで飛んだ。あいさつ代わりの浮遊術だ。

「おおっ」

 周りの生徒たちから声があがる。

「アオイのやつ、杖も使わずに体を浮かしたぞ!」

 アキコ先生直伝の風魔法。みんなをちょっとびっくりさせたかったのだ。

「今のは試験技か?」

 先生の一人がたずねてきた。

「いえ、違います。今のは準備運動です」

「よし、試験技を出す前は宣言するんだぞ」

「はい」

 私はそう答えると、魔法測定針の前で深呼吸をした。

 技を行えるのは二回。

 一位のミチカは二回とも、難度の高い氷魔法を披露したと言っていた。

 だったら……。

「氷属性行います」

 私はミチカと同じ魔法を宣言した。

「いきなり氷魔法?」

 生徒たちがざわつく。

「ふん、どうせ無理な技を挑戦して、偶然成功するのを狙っているんでしょ」

 ミドリの声だった。

「そんな背伸びをしても失敗に終わるだけよ」

 氷魔法は水と風をかけ合わせる複合魔法。確かに簡単にできる魔法ではない。

 でも、アキコさんに教えてもらった通りにすれば、できない技じゃない!

 杖を取り出した私は、杖先を天に向けた。

 まずは風魔法!

 そして水をかけ合わせる!

「ブリザード!」

 杖を魔法測定針に向かって振る。

 杖の先から氷の風が吹きはじめた。

 さあ、行け!

 心のなかで唱える。

 氷の風が測定針に当たる。

 やがて測定針が完全に氷の塊へと変化した。

 完璧だった。小学生にとっては神技ともいえる氷魔法を無事に行うことができた。

「す、すごい。アオイのやつ、氷魔法を成功させたぞ」

 生徒たちの声だった。

「偶然よ。たまたま成功しただけよ」

 ミドリの声が聞こえてくる。

「次は同じようにはできないはずよ」

 体育館にいる生徒たちがざわついている中、トノザキ先生の声が響いた。

「すばらしい魔法だった。これだけの氷魔法を披露できるのは、他ではミチカくらいなものだ」

 周囲の先生たちも、トノザキ先生の言葉にうなずいている。

「さあ、二度目の魔法技は何にする。思い切ってもう一度氷魔法を挑戦してみるか?」

 二度目の技……。

 確かに氷魔法を二度成功させると、ミチカと同じことができたことになる。

 そして、氷魔法なら二度とも成功する可能性は高い。

 ここは、氷魔法を選択するほうが……。

 無茶なことをするよりずっといいのでは……。

「二度目も、氷属性を行います」

 私はそう宣言した。

 その時だった。

 生徒の一人が、大きな声を張り上げた。

「アオイちゃん、駄目だよ!」

 その生徒はそう叫んでいた。

 私は叫ぶ生徒の方向を向く。

 レンだった。

 大声をあげているのはレンだった。

「アオイちゃん、最後になるかもしれないんだよ。自分のできる最高の魔法を見せないと駄目だよ!」

 レン……。最高の魔法って……。

 確かに。

 確かに、もう試験の順位は決まっている。

 私が何をしたって、一位になれることはないんだ。

 つまり、もう特待生になって魔法を続けることはできないんだ。

 だったら、最後の試験、レンの言う通り思い切ってやろう。

 失敗してもいいんだ。

 せっかくアキコさんに教えてもらった最高の技。

 お母さんが小学生の時に成功させ、みんなの度肝をぬいた魔法……。

「氷魔法は撤回します」

 私は二度目の宣言を取り消した。

「ふん、おじけづいて簡単な技に変更するのね」

 ミドリが楽しそうな顔をしている。

 そんなミドリを横目で見ながら、そしてミチカに顔を向けこう宣言した。

「雷属性を……、二回目は雷属性を行います」

「なんだって!」

 生徒たち、そして先生たちがざわめいた。

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